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ドイツの有力ギャラリーオーナー、ヨハン・ケーニッヒのセクハラを10人の女性が非難。疑惑の内容と否定声明全文

ドイツの有力ギャラリーのオーナー、ヨハン・ケーニッヒが、10人の女性からセクハラ行為で非難されている。8月31日に女性たちの訴えを伝えたのは、ドイツのディー・ツァイト紙だ。これに対してケーニッヒは、9月2日に疑惑を否定する声明を発表。女性たちの主張とケーニッヒの声明全文を紹介する。

ヨハン・ケーニッヒ Photo Foc Kan/WireImage

ケーニッヒ・ギャラリーは、ベルリン、ソウル、ウィーンに拠点を持ち、つい最近開催されたフリーズ・ソウルにも出展。モニカ・ボンヴィチーニ、カタリーナ・グロッセ、イェッペ・ハイン、ヘレン・マルテン、ボスコ・ソディ、タチアナ・トゥルヴェなど、世界的に評価の高いアーティストを数多く取り扱っている。日本でも2019年11月から約1年間、東京・銀座に特設ギャラリーを開き、複数の展覧会を行った。

オーナーのヨハン・ケーニッヒは、ベルリンのアートシーンに欠かせない人物だ。キュレーターのカスパー・ケーニッヒの息子で、02年に21歳にして自らのギャラリーをオープン。19年にニューヨーク・タイムズ紙は、ケーニッヒのことを「ドイツで最も影響力のある若いギャラリストの1人として評価されている」と報じている。

ディー・ツァイト紙によると、女性たちは性的発言で不快に感じたり、不適切な接触があったりしたとケーニッヒを批判。1人は無理やりキスをされたと訴えている。こうしたセクハラ行為があったのは数年前で、10人の中には名前を出さないことを条件にしている女性もいるという。

この件がこれまで公表されていなかったのは、女性たちが当初報復を恐れて問題が明るみに出ることを望まず、また、ケーニッヒに対する「少なくとも1件の」係争中の告訴があったからだと報じられている。記事ではさらに、10人のうち1人がケーニッヒを刑事告訴したものの、匿名で行われたために捜査は打ち切られたと伝えている。

ケーニッヒはARTnewsに対し、「記事に書かれている疑惑は事実無根だ」と否定。「この件に関してはすでに弁護士を立て、虚偽の事実が広まらないようあらゆる法的な手段を取ることを検討している」と述べた。

ケーニッヒはディー・ツァイト紙から取材を受けていたが、記事では弁護士がケーニッヒの発言の公開を禁じたと伝えられている。弁護士は、ディー・ツァイト紙が報じた疑惑を全て否定した一方、ケーニッヒが訴えに対処していたことがあると認めた。しかし、弁護士によれば、ケーニッヒがそうしたのは「予防措置」のためだったという。

ディー・ツァイト紙が報じたセクハラ疑惑のいくつかは、パリのアートフェア、FIAC2017の開催中に起きたとされている。「パリの某ギャラリーの従業員3人と、ニューヨークのギャラリーのディレクター(当時)」が語るところによると、ケーニッヒはパーティで女性の胸を触り、10人のうち1人は「動けない」ほどきつく押さえ込まれたという。

別のギャラリーの匿名のスタッフも、あるパーティで同じようなことが起き、ケーニッヒが自分に体を押し付けたり、強く押さえつけたりしたと訴えたことが書かれている。さらに、サラ・Mと名乗るベルリンの建築家は、同じく17年にベルリンのレストラン、グリル・ロイヤルで無理やりキスをされたと同紙に語っているが、ケーニッヒは否定している。

ケーニッヒは以前、アート界における#MeToo運動の重要性を語ったことがある。18年にディー・ツァイト紙は、ケーニッヒについて「この運動は彼の意識を高めた。彼が言うように、男女関係においては、男性は昔よりずっと意識的に行動しなければならない」と書いている。

なお、19年に出版されたケーニッヒの回顧録『Blind Gallerist(盲目のギャラリスト)』の英訳版は、米国ではこの11月に発売が予定されている。米国の出版社スターンバーグ・プレスの販売代理店の担当者は、コメントを控えるとした。(翻訳:平林まき)

【続報】9月2日、この件に関してヨハン・ケーニッヒが声明を発表した。以下、その全文を掲載する。

ディー・ツァイト紙が虚偽の内容で、誤解を招く報道をしたことにショックを受けている。見出しがほのめかしているようなことで昔の風評が蒸し返され、事実無根の新たな風評が広まっているからだ。

この記事が引き起こした事態を消し去ることはできないが、家族や友人と何度も話し合った結果、私は公の場で、無論、法的な場でも自分を守るための発言をすることにした。今回の誹謗中傷に対しては法的な措置を取るが、たとえ訴訟に勝ったとしてもダメージは残るだろう。

8月25日の午後、ディー・ツァイト紙から連絡があったのが始まりで、翌日の正午には5000字を超える質問状が届き、8月30日の10時までに回答を求められた。30日にこちらから申し出て記事の著者3人のうち2人と話をしたが、他のアポがあるからと唐突に打ち切られたため、要点を詳しく説明することはできなかった。私は、記事はその時すでに書き終えられていたという印象を持った。明らかに、彼らは目撃者や事実、情報などはどうでもいいという態度で、私のコメントの締切まではあと1時間だと言った。結果的に、こちらの言い分は一言も取り上げられていない。また、記事の著者が、私の弁護士からの手紙を引用しながら、関係者の1人と私が法的に係争中だという点に関する重要な情報に触れていないのは理解し難い。

記事の筆者の1人、カロリン・ヴュルフェルとの会話も引用されているが、これは2018年の初めに開かれた仲間内の誕生日パーティでの友人同士としての会話だ。つまり、記事で書かれているような仕事上のやり取りではない。とはいえ、当時はプライベートな場のものだったカロリン・ヴュルフェルとの会話の続きを、公開討論として行うのはやぶさかではない。

ここ数年、ギャラリーの複数の元スタッフから、著者の1人であるルイザ・ホメリッヒが「思わせぶりな質問」や「ゴシップ」について聞いてきたと報告を受けている。そのため、問い合せに答えようと、ホメリッヒに何度も連絡を取り、あるときは彼女の同僚を通じてコンタクトしようとしたが、何の反応もなかった。この著者は当時、匿名の手紙に基づく調査を行っていた。ディー・ツァイト紙はこの匿名の手紙の引用を法律で禁じられており、検察当局が著者を調査中だったにもかかわらず、同紙はそれをトップ記事にしたのだ。

ディー・ツァイト紙は、私に対して刑事告訴があったとも書いているが。これは正しくないし、私の知るところではないのでコメントはできない。実際は、当時、私が匿名の手紙の主に対して刑事告訴をしている。告訴すれば、自分も調査の対象になることは承知の上だった。結局、調査は無駄に終わり、打ち切りになった。

記事で非難されている私の行動はすべて、記事によれば5年前の夜遊び中に起きた出来事だ。しかし、断じて、記事に書かれているような形で起きてはいない。ただ、今にして思えば、私の乱暴で衝動的なパーティでの行動、ダンス、会話、パーティやナイトクラブの雰囲気、混み合った場所、アルコール、暗さ、視力の悪さなどが相まって、女性や、あるいは男性も、私から嫌がらせをされたと感じたり、私の行動が攻撃的だと受け取ったりしたのかもしれない(子供の頃の事故以来、右目が見えず、左目も2〜3割しか見えない)。

そのときのことを具体的に思い出して再現することはできないが、少なくともその可能性はあるだろう。確かなのは、それぞれの行動は意図的ではなく、相手の意思に反してキスをしたこともなく、拒絶を軽んじたり、「ノー」という答えを受け入れなかったりしたこともないということだ。つまり、一線を越えたことは一度もない。

仮に、記事に書かれているような振る舞い方で誰かに近づきすぎたのであれば、それを恥じ、深く反省し、どんな形ででも謝罪をしたい。(翻訳:石井佳子)

※本記事は、米国版ARTnewsに2022年8月31日に掲載された記事に、9月2日の掲載記事からの抜粋を加えています。元記事はこちら。

8月31日公開:https://www.artnews.com/art-news/news/johann-konig-sexual-misconduct-allegations-1234637826/

9月2日公開:https://www.artnews.com/art-news/news/johann-konig-responds-sexual-misconduct-allegations-1234638272/

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