NYのアーモリーショー、VIPデーの売上は? フリーズ・ソウルと日程重複も実力派が好調
ニューヨークに秋を告げるアートフェア、アーモリーショーが9月5日から8日までジャヴィッツ・センターで開催された。今年で30年目となる老舗アートフェアではどにような作品が動いたのか。5日のVIPプレビューの売れ行きを紹介しよう。
今年で30周年を迎えるアーモリーショー。ディーラーやコレクターたちにとっては、ニューヨークの秋の到来を告げるアートフェアだ。
2023年にフリーズがアーモリーショーとエキスポ・シカゴを買収して以来、アートフェアのバランスが崩壊してしまうのではないかと言われてきた。アーモリーショーは開催時期がフリーズ・ソウルと重複していることが問題視されてきたが、フリーズ・ソウルの方は今年で3回目を迎え、初日の売上も好調。進化し続けるアジアのアート市場の中でも、参加ギャラリーの多くがソウルの実力を実感できた結果となった。対してアーモリーショーは、過去数回と同様、デヴィッド・ツヴィルナー、ガゴシアン、ハウザー&ワース、ペースといったメガギャラリーの参加は皆無だった。それゆえに高額作品を出品するブースは無く、100万ドル(約1億4000万円)以上の値の販売報告は見られなかった。
それでも、ニューヨーク近代美術館(MoMA)グレン・D・ローリー館長、サザビーズ美術部門のエイミー・カペラッツォ会長、キュレーターのチェチリア・アレマーニ、コレクターのアグネス・ガンド、ムグラビ夫妻、ルーベルズ夫妻、アメリカのロックバンド、トーキング・ヘッズでの活動でも知られるデヴィッド・バーンなど大物コレクターや業界人、インフルエンサーたちが歩き回り、時折エアキスや握手を交わしながら、出品作品を品定めする姿も見られた。
それでは、9月5日に開催されたアーモリーショーのVIPプレビューで取引された作品の一部を紹介する。(アーティスト/ギャラリーの順)
1. ウォルトン・フォード/カスミン
今年初めにモルガン・ライブラリーギャラリーで行われた展示に続いて、ウォルトン・フォードの高さおよそ1メートル50センチの水彩画《The Singer Tract》(2023)が75万ドル(約1億710万円)で販売された。金、茶、琥珀の色合いが、水彩画ではめったに見られない手法でキャンバスから放射されており、いい意味で裏切られたような感覚をおぼえる。近代作品も取り扱うカスミンでは本作以外にも、ロバート・マザーウェルの《Apse》(1980-84)に82万5000ドル(約1億1800万円)で売ったほか、サラ・アンスティス、ヤン=オーレ・シーマン、エミール・サンズの作品を販売した。
2. リン・ドレクスラー/ベリー・キャンベル
チェルシーを拠点とするギャラリー、ベリー・キャンベルで出品されていたリン・ドレクスラーの未公開作品《Autumn Twilight》(1977)には45万ドル(約6430万円)で買い手がついた。一般的にはあまり知られていない作品ではあるが、この売却額は、同ギャラリーが過去2年間で販売した作品のなかで最も高額で取引されたものだという。2023年のオークションでは彼女の絵画が138万ドル(約1億9700万円)で落札されている。戦後の女性画家の作品を専門に扱うベリー・キャンベルは、イヴォンヌ・トーマスの《Blue Green》(1964)を12万5000ドル(約1785万円)で、ナネット・カーターの《Cantilevered #14》(2014)を2万2000ドル(約314万円)で販売した。
3. リー・ベー/チョヒョン・ギャラリー
韓国・釜山に拠点を構えるチョヒョン・ギャラリーは、地元のアーティスト、リー・ベーの木炭画3点に9万〜30万ドル(約1285万〜4285万円)で買い手が付いたと発表。また、リーの作品はフリーズ・ニューヨークの期間中にペロタンでも出品され、7万5000〜23万ドル(現在の為替で約1100万〜3300万円)で販売されたという。また、ヴェネチア・ビエンナーレに隣接する展覧会でも彼の作品が展示されたほか、K-POPグループBTSのリーダー、RMが集めた美術品を紹介するYouTube動画でもリーの作品が登場している。リーの作品以外にも、イ・カンホのペインティングが3〜4万ドル(約430万〜570万円)で取引されたほか、カン・カン・フンの油彩画には2万5000〜3万5000ドル(約360万〜500万円)で買い手が付いた。
4. リタ・アルバカーク/マイケル・コーン・ギャラリー
ロサンゼルスを拠点とするマイケル・コーン・ギャラリーでは、ランドアートの分野で高い評価を得ている現在78歳のリタ・アルバカークによる絵画2点に、7万5000ドル(約1000万円)と9万5000ドル(約1350万円)で買い手がついた。また、同ギャラリーは若手から中堅アーティストの作品を多く出品していたが、ニール・ホッドの油絵2点が9万5000ドル(約1350万円)と14万ドル(約2000万円)、アリシア・アダメロビッチの絵画が5万5000ドル(785万円)、そしてウィリアム・ブリッケルの絵画が1万ドル(約142万円)で販売された。
5. サム・モイヤー/ショーン・ケリー
9月6日に逝去した伝説的アーティスト、レベッカ・ホルンの所属先でもあったショーン・ケリー。同ギャラリーでは、石膏を塗ったキャンバスに大理石とアクリルを組み合わせたサム・モイヤーの作品《Compound Fern》(2024)が7万ドル(約1000万円)で販売された。この作品は、大理石という非伝統的な素材を用いながら絵画やドローイングの伝統にいかに近づけるかを目指した「Clippings」シリーズの一つ。また同ギャラリーでは、1980年生まれのアメリカ人アーティスト、ヒューゴ・マクラウドの作品数点が各3万ドル(約428万円)で、メキシコ・グアダラハラ出身の建築家でアーティスト、ホセ・ダビラの版画作品2点が各6万5000ドル(約927万円)で売れた。
6. ロブ・プルイット/303ギャラリー
ニューヨークを代表するギャラリーの一つ、303ギャラリーは、ロブ・プルイットの作品2点をそれぞれ17万5000ドル(約2500万円)で販売したほか、サム・フォールズの作品3点をそれぞれ7万~9万ドル(約1000万円~1280万円)で、ハンス=ピーター・フェルドマンの絵画を7万7000ドル(約1100万円)で販売した。さらに、デンマーク出身のイェッペ・ハインによる、粉体塗装されたアルミニウムと青のネオン管、マジックミラー、変圧器で構成された作品《YOU ARE AMAZING JUST THE WAY YOU ARE(手書き)》(2019年)が3エディション、それぞれ4万9980ドル(約713万円)で売れた。また、アリシャ・クワデの彫刻にも3万3000ドル(約471万円)で買い手がついた。
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