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日本で見つかったナチスの略奪品がポーランドに返還。ナチスのリストの中でも価値の高い16世紀の絵画《聖母子》

ナチスが第2次世界大戦中に略奪した16世紀の貴重な絵画《聖母子》が、ポーランドに返還された。初期バロックの画家アレッサンドロ・トゥルキによるもので、5月31日に東京都の駐日ポーランド大使館で引き渡し式が行われたことをAP通信が伝えている。

ワルシャワ旧市街のキャッスル広場。ワルシャワの歴史地区は、ユネスコの世界遺産に登録されている。Photo: Getty Images

この絵画は、2022年に日本のオークションで見つかった。

戦後ポーランドに返還されたものは600点ほどあるが、その数は1939年から45年にかけてナチス占領下のポーランドで略奪された約6万6000点の1%にも満たない。AP通信が伝えるポーランドのピョートル・グリンスキー文化相の話によると、トゥルキの《聖母子》は、ナチスのリストで最も価値のある521の美術品の1つとされていたという。

この絵がどのような経緯で日本に渡ったのかは明らかになっていないが、1990年代後半にニューヨークのオークションハウスで競売にかけられたことが確認されている。もとは18世紀のポーランド貴族、スタニスワフ・コストカ=ポトッキの所蔵品で、1823年には、やはりポーランド貴族のヘンリク・ルボミルスキのコレクションに収められていたことが分かっている。

ポーランド文化省・文化財返還部門の責任者、アガタ・モゼレフスカはAP通信にこう語った。

「略奪品がオークションに出回ることが多くなったのは、(過去の)記憶が薄れ、現所有者が、その作品の来歴に関するちゃんとした知識を持っていなかったり、そもそも意識していなかったりするからです」

トゥルキの《聖母子》は、日本国側、この作品の所有者、そして毎日オークションとの交渉の結果、無償で返却された。

略奪文化財返還の気運は今や世界的な広がりを見せ、近年はアフリカ諸国、インド中国メキシコギリシャなど多くの国で、略奪された美術品や遺物の返還を求める動きが活発化している。(翻訳:石井佳子)

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