ナチスが略奪したルノワール作品を元所有者の遺族に返還。15年以上にわたる対話を経て合意
6月7日、ドイツ北部のハーゲン市にあるオストハウス美術館に所蔵されていたオーギュスト・ルノワールの風景画が、ナチスの押収品であるとして元所有者遺族への返還を決定。その後、ハーゲン市は同作品を買い戻した。
ルノワールの風景画《オー・カーニュからの海の眺め》(1910頃)は、ドイツで最も影響力のある銀行家の一人、ヤコブ・ゴールドシュミットが所有していた。彼は1920年代にはオールドマスターや印象派の大コレクターとなり、ベルリンのノイエ・ナショナルギャラリーの主要なパトロンだった。しかしユダヤ人だった彼はナチスの迫害を受け、1933年にスイスへ逃れた後にアメリカに移住。1955年に死去した。
ゴールドシュミットがドイツを離れる時に、美術コレクションの一部は融資の担保としてベルリンに残され、1941年、ナチスはそれらのコレクションを差し押さえた。そして同年末、ルノワールの《オー・カーニュからの海の眺め》は、ベルリンのオークションハウス、ハンス・W・ランゲに出品され、1960年にはチューリッヒのギャラリー・ナタンで再び売りに出された。
その後、ドイツ工業会(BDI)の初代会長フリッツ・ベルクが作品を購入。1989年にベルクとその未亡人が亡くなった後、同作品を含む彼らのコレクションはハーゲン市のオストハウス美術館に寄贈され、現在に至る。
ハーゲン市は、《オー・カーニュからの海の眺め》をゴールドシュミットの遺族に返還することを決定。その後、同市があるノルトライン・ヴェストファーレン州と、同州の文化財団、ドイツ文化省の資金提供のを受けて同市が買い戻したため、オストハウス美術館での展示が続けられるようになった。今後、作品にはゴールドシュミットに関する情報を添えるという。
ゴールドシュミットの遺族側の弁護士サビーネ・ルドルフは声明で次のように述べている。
「絵画の返還は、彼らの祖父がナチス政権下で莫大な経済的損失を含む大きな不利益を被ったという事実を認めるものです。遺族たちは、15年以上にわたる話し合いの末、双方にとって満足のいく合意に達したことを喜んでいます」(翻訳:編集部)
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