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NFTコミュニティがウクライナへの募金を呼びかけ「命を救うために団結を」

ロシアによるウクライナ侵攻が続く中、これまではなかった方法でウクライナに支援の手が差し伸べられている。たとえば、エアビーアンドビーでウクライナの物件を予約して料金を振り込む(宿泊はしない)人や、ウクライナ人の学者に住居や教職のポストを提供する大学もある。NFTコミュニティも、独自のリソースを支援に活かそうと動き出している。

アート・フォー・ウクライナ・ギャラリーの様子 Art for Ukraine

「戦争のこと以外は話す気になれないし、無力感で仕事に集中できない。でも、ただ焦燥感に駆られているより、みんなで力を合わせて前向きに行動しようと考えたんだ」。そう語るのは、アーティストのアミール・ファラー。彼はアーティスト仲間のサラ・ルディやアナ・マリア・カバレロとともに、NFT販売による募金活動、アート・フォー・ウクライナ(Art for Ukraine)を立ち上げた。

3月7日から販売が開始されたアート・フォー・ウクライナでは、参加アーティストの作品それぞれに100エディションのNFTを生成。1点につき1テゾス(Tezos)で販売する。テゾスは、NFT取引で主流となっているイーサリアムより環境への負荷が少ない暗号資産(仮想通貨)とされ、価格もかなり安い。3月上旬時点では、1イーサリアムが約2600ドルなのに対し、1テゾスは3ドル強。安価なテゾスは、作品の購入通貨としてだけでなく、ミント(NFTの作成・発行)のコストを大幅に抑えられるため、作品のNFT化にも手軽に使える。

「テゾスを選んだのは、このプロジェクトを間口の広いものにするため。みんなが手軽に作品を買ったり、寄付をしたりできるようにしたかったから」とファラーは言う。テゾスを使うことで資金調達の効率は悪くなるかもしれないが、支援をしたい人にとって参加のハードルが下がるというわけだ。

作品が売れると、売上は今回のプロジェクト用のスマートコントラクト(*1)によって、ウクライナを支援する7つの慈善団体に自動的に送られる。このスマートコントラクトは、テゾスでの寄付にも対応している。こうした仕組みはすべて、数週間のうちにソーシャルメディア上で組織されたボランティアによって実現された。これまでのところ、直接の寄付だけで約6000テゾス、2万ドル以上が集まっている。

*1 事前に定めた契約のルールに従い、ブロックチェーン上で契約内容を自動で実行する仕組み。

募金活動と並行してファラーたちは、ユーラ・ミロンやフィリップ・カプースティンなどウクライナのNFTアーティストの作品展示も企画している。「当初は、ウクライナ人アーティストたちに作品を作ってもらって支援金集めをしようと考えていた」とファラーは語る。だが、最終的には別の形で支援すべきだと思うに至った。

「現在は、国外で活動している人でさえ、ツイッター上で自分の作品を紹介しているウクライナ人作家はいない。おそらく作品制作どころじゃなく、不安の中で家族や愛する人を助けるためにすべきことを考えるのに精一杯なんだと思う。だから、我われが彼らのことを宣伝しようと考えた」とファラーは続ける。簡単に使える3D空間作成ツールMuse.place(ミューズプレイス)を使って立ち上げられたデジタルギャラリーで、ウクライナ人アーティストの作品が展示されている。

アート・フォー・ウクライナ以外にも、この種の取り組みはある。プッシー・ライオット(ロシアのパンクバンド、反体制活動家)のナジェージダ・トロコンニコワも、ブロックチェーン技術を使ってウクライナへの支援金を集めている。彼女の呼びかけで立ち上げられた分散型自律組織(decentralized autonomous organization)のウクライナDAOは、ウクライナ国旗のNFTを発表し、イーサリアムでの入札を受け付けた。

トロコンニコワは、電子メールで次のような声明を出している。「私たちが敢えて自分たちの作品を出品しなかったのは、このプロジェクト自体が強固でコンセプチュアルな芸術的ステートメントだから。人の趣味趣向はさまざまだが、重要なのは何色が好きかということではなく、命を救うために団結すること。ウクライナの国旗は私たちを団結させてくれる」

入札が終わっても誰もそのNFTを所有することはなかったが、そこがこのプロジェクトのポイントなのだ。入札者が指定した金額を寄付金として集計する独自のスマートコントラクトが、CXIPラボによって構築されている。

CXIPラボCEO のジェフ・グラックは、電子メールの声明で次のように述べている。「3月上旬に受けた連絡によると、ウクライナを拠点とする何人かの開発パートナーが家族とともに安全な場所への避難を始めた。一方で、ウクライナから出国できなくなっているケースもある。ウクライナDAOのNFTプロジェクトで使うスマートコントラクトを作ってほしいとの依頼を受けてすぐに、CXIPラボは全精力を注いで作業を行った。

このプロジェクトを通して集まった寄付は、2174イーサリアム。約570万5000ドルに相当する寄付金は全て、訓練や弾薬、偵察用ドローンなどの技術をウクライナ軍に提供する財団、カム・バック・アライブ(Come Back Alive)に送られた。なお、同団体は、武器そのものの供与は行っていない。

また、NFTプラットフォームも支援に動いている。スーパーレア(SuperRare)は、「For Ukraine: SuperRare Artists Support the Cause(ウクライナのために:スーパーレアのアーティストたちが立ち上がる)」という特設ページを立ち上げ、支援金集めのためにアーティストが作った作品を販売。プラットフォーム側は、作品が売れるごとに作品の値段と同額を上乗せする(最大5万ドルまで)。このほか、個人による募金活動も行われている。

こうした時に、必ず出てくるのが支援活動を騙った詐欺だ。寄付をしたい人は十分に注意する必要がある。「自分の周りでは、詐欺が起きているという話は聞かないが、そういうケースもあるだろう」とファラーは言う。「一般のチャリティの世界と同じで、悪い奴らはどこにでもいる」(翻訳:野澤朋代)

※本記事は、米国版ARTnewsに2022年3月7日に掲載されました。元記事はこちら

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