「私の使命は、過小評価されている作家のキャリアアップを支援すること」──クイニー・ロジータ・ロウ(Queenie Rosita Law)【アート界が注目するアジアの若手コレクター Vol. 7】
今年34回目を迎えたUS版ARTnewsの名物企画、「TOP 200 COLLECTORS」リスト。中でも今年の注目は、アジアで台頭著しい若手コレクターの存在だ。その面々をシリーズで紹介する企画の第7弾は、ブタペストにアートスペースを開設した香港出身のクイニー・ロジータ・ロウ。
拠点:香港、ブダペスト
職業:遺産相続、起業家
収集分野:現代アート
ブダペストへの旅がコレクターとしての道標になった
多くのコレクターと同様、クイニー・ロジータ・ロウがアート作品を購入するようになったのも、自宅の壁を飾りたいという動機だった。2017年に収集を始めた頃は地元のギャラリーやアートフェアで見つけたアジアの作家が中心で、初購入作品はシンガポールのアーティスト、ロバート・ザオ・レンフイの写真《Very Old Tree - Sea Beam, Stamford Road》(2013-14)。今も所有しているこの作品について、ロウはこう語る。
「ロバートの作品は、人間と自然との関係がテーマです。個人的なストーリーに基づいた写真ですが、そこに歴史的な文脈が与えられています。このシリーズでは、私にもなじみのあるシンガポールでよく目にする樹木と、あるコミュニティに存在する樹木に関する人々の記憶に光が当てられています」
収集を始めてから、「自分が生きている間に意義のあるコレクションを作るには、どうすればよいか」を考えるようになったというロウ。その頃、決定的な体験になったのがブダペストへの旅だった。彼女は、「この地域のアーティストたちのストレートな表現力と力強いエネルギーに心を奪われました。それで、中・東欧の現代アートにコレクションの対象を絞ることに決めたのです」と振り返る。
幼い頃からアートに夢中だったロウを常に後押ししてきたのは、父親だった。
「父は、特に休暇で旅行すると、いつも私を美術館に連れて行ってくれました。そして、ひまさえあれば絵を描いている私を見て、美術教室に通うよう勧めてくれたのです」
そんな父に美術学校への進学を勧められ、ロウはロンドン芸術大学セントラル・セント・マーチンズに留学した。
ブダペストの若い世代に現代アートの楽しさを伝えたい
中・東欧のアートに対象を絞ったロウは、マグダレーナ・アバカノヴィッチ、イローナ・ケセル、ドーラ・マウラー、シモン・アンタイ、オルガ・イェヴリッチ、ポール・ネアグ、そしてスタニスラフ・コリーバルなどの作品をコレクションしてきた。コリーバルは2019年のヴェネチア・ビエンナーレにチェコ代表アーティストとして参加したが、「国際的にはまだほとんど知られていません」とロウは言う。
ハンガリー人アーティスト、マートン・ネメシュも、やはり知名度は高くない。彼の卒展作品をロンドンで見た2019年以来、収集を続けているロウは、ネメシュが来年のヴェネチア・ビエンナーレにハンガリー代表アーティストとして参加することに触れ、こう語った。
「私はずっと、自分の人生はアートに捧げるためにあると考えてきました。そして、私にとって最も楽しいのは、マートンのように才能がありながら過小評価されているアーティストのキャリアアップを支援することだと気づいたのです」
ロウが最近購入した作品に、1970年代から80年代のクロアチアで興隆したアヴァンギャルドムーブメントの中心的アーティスト、ヴラド・マルテクが紙に描いた作品《The Bird》(1986)がある。きっかけはマルテク本人と会ったことで、彼女は「親密な雰囲気の中でアーティストと話ができるスタジオ訪問が大好きです」と話す。「今まで何年もいろいろな作家のスタジオを訪れてきましたし、これからもできる限りそうするつもりです」
2018年頃からロウは、ブダペストに非営利団体を設立する計画を進め、2021年には入場無料のアートセンター、Qコンテンポラリーをオープンした。教育分野で慈善家として活動した祖父、羅定邦に影響を受けたという彼女は、その使命をこう語る。
「ブダペストの人々、特に若い世代が現代アートのことを知り、楽しめるよう貢献するのが目標です。ブダペストでは、私の故郷である香港に比べ、より大きなインパクトを与えることができると考えました」(翻訳:清水玲奈)
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