クリスティーズ秋のオークションは残念な結果に。一方、女性アーティストの作品は軒並み高額落札
11月7日、ニューヨークのクリスティーズで、秋のオークションシーズンの幕開けとなるイブニングセールが開催された。大きな期待に反して、総落札額は予想額を下回る結果となった。
秋のオークションシーズンは低調なスタート
今回のイブニングセールは、21世紀のアート作品に特化したもので、予想総落札額の9600万ドル(約145億円)を下回り、総落札額は8840万ドル(約133億円)だった。バイヤーズプレミアム(ハンマープライスに加えて、落札者が支払う手数料)を加えても、合計42ロットで1億750万ドル(約264億円)という結果に終わった。
総ロットのうち13ロットは、自社保証または第三者保証による資金的裏付けが確保されていたにもかかわらず、昨年の同セールでの総落札価格である1億1400万ドル(約211億円)には届かなかった。
一方、今回はジャデ・ファドジュティミ、ジェンナ・グリボン、ジア・アイリ、イラナ・サヴディの4人のアーティストによる作品が、新たなベンチマークを打ち立てた。しかし、通常オークションで確実に高値をマークするサイ・トゥオンブリーやジャン=ミシェル・バスキアの作品も、勢いをつけることはできなかった。
トゥオンブリーの《Untitled (Bacchus 1st Version II)》(2004は)、ウッドパネルに描かれた赤い色調の抽象画で、最高2500万ドル(約38億円)の値がつくと予想されていた。この大作が最後に公開されたのは、2008年にモスクワで開催されたガゴシアン主催の展覧会で、入札者たちはこの作品が再び市場に戻ってくることを熱く期待していた。しかし今回のセールでは本作が実際に会場に持ち込まれることはなく、また、予想落札額の最低額を大きく下回る1700万ドル(約26億円)で会場内の入札者に落札された。手数料込みの最終価格は、2000万ドル(約30億円)だった。
また、バスキアが1981年に制作した無題の絵画も予想落札額の最低額1000万ドル(約15億円)以下で落札され、手数料を入れても1190万ドル(約18億円)だった。ほかにも、ジョン・カリン、アンディ・ウォーホル、キース・ヘリング、ジョージ・コンド、マーク・ブラッドフォードの作品が出品されたが、いずれも予想落札額の最低額を超えることはなかった。
アートアドバイザーのヒューゴ・ネイサンはUS版ARTnewsの取材に対して、今回の結果についてこう語った。
「クリスティーズは適切な価格設定を行なったが、それでも壇上では、ストレスが溜まっていたと思います。最も明らかなのは、10年前に市場をリードしていたアーティストたち、つまりジェフ・クーンズやジョン・カリンの作品が、かつてのような勢いを持っていないことです」
好調だった女性アーティストの作品
オークションでの実績も定評もあるアーティストたちの作品が振るわぬ結果に終わったのに対し、まだ市場において評価が確立されていないアーティストたちの好結果が目立った。中でも堅調だったのは、女性の具象画家たちだ。
セールのオープニングを飾ったベルリンが拠点のアーティスト、シュテファニー・ハインツェの絵画は、電話で参加した入札者によって予想落札額6万ドル(約908万円)の3倍以上となる19万ドル(約2867万円)で落札された。この作品に続いたのは、ロサンゼルス在住の画家ジェナ・グリボンの《Regarding Me Regarding You and Me》(2020)だ。グリボンのパートナーのヌードを描いたこの作品は当初15万ドル(約2265万円)と予想されていたが、バイヤーズプレミアム付きで、その3倍以上となる47万8800ドル(約7227万円)で買い手がついた。
また、ピンクの大胆な筆跡に囲まれた女性の頭部を描いたジェニー・サヴィルの《ペルセポネ》(2019-21)は、予想最高額の300万ドル(約4億5000万円)を上回り、手数料込みの最終価格370万ドル(約5億6000万円)で落札された。
1993年生まれの若手アーティスト、ジャデ・ファドジュティミと、中国出身のジャ・アイリの絵画は、それぞれ400万ドル(約6億円)と170万ドル(約2億6000万円)で落札された。近年制作された存命アーティストによる作品で、100万ドル台を付けるものは多くない。
さらに、ブルックリンを拠点とする画家サーニャ・カンタロフスキーの《Charnal Field》(2022)は、予想落札額のほぼ倍となる20万1600ドル(約3043万円)で落札され、今回のセールの数少ないサプライズのひとつになった。
一方で、有名なゴッホの絵画《ジャガイモを食べる人々》(1885)の登場人物を黒人に置き換えたロバート・コールスコットの《Eat dem Taters》(1975)は、今回のセールでも数少ない歴史的に重要な作品のひとつであるにもかかわらず、低く見積もられていた。本作は、2006年に亡くなったアメリカの美術史家ロバート・ローゼンブラムの親族が制作後から所有しており、最近行われたニューミュージアムの展覧会にも貸し出されていた。最終的には、手数料込みで390万ドル(約6億円)で落札され、最高予想落札価格をキープした(翻訳:編集部)。
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