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  • 2023.06.19

アート・バーゼルVIPデーの売り上げ詳報。ラシッド・ジョンソン、アレクサンダー・カルダー、キース・ヘリングなどセールスは好調

6月13日のVIP招待日を皮切りに始まった2023年のアート・バーゼル。今年は36カ国から285のギャラリーが参加し、うち21のギャラリーが初出展した。VIPデー初日の注目セールス結果をリポートする。

アート・バーゼル2023「アンリミテッド」セクションのVIPオープニング。Photo: Sara Barth

アート業界の中心はニューヨーク、というのが今も主流の見方かもしれないが、アート市場の中心はスイスにある。つまり世界最大級の国際アートフェアアート・バーゼルだ。同フェアのチーフ・エグゼクティブは、2022年末にマーク・スピグラーからノア・ホロヴィッツに交代。ホロヴィッツは、かつてアート・バーゼルのディレクター・アメリカズを務めていたこともあるベテランだ。

アート・バーゼルは、市場動向を知るための最重要指標とされている。2022年は大型コレクションのオークションが多数行われたが、今年になってコレクターは作品の購入にやや慎重になっているようだ。その主な理由は、過去12カ月の間に膨大な数の作品が市場に出回ったことにある。とはいえ、どのギャラリーもアート・バーゼルには選りすぐりの逸品を持ってくるというのは、コレクターの誰もが知る業界の常識だ。

VIPが招待された初日は多くの来場者で賑わい、今年没後50周年を迎えたパブロ・ピカソの作品や、最近オークションに登場したばかりだった絵画など、プライマリーマーケットとセカンダリーマーケット(*1)の双方から数百万ドルクラスの作品が多数出品された。以下、各ギャラリーからの報告をもとに、初日に売れた重要作品を紹介する(各見出しは、アーティスト名/ギャラリー名の順に表記)。


*1 プライマリーマーケットとは、作品が最初に世に出る市場で、通常はアートギャラリーや百貨店、アートフェアなどで作家が作品を発表し、売買される。セカンダリーマーケットは、プライマリーで顧客が購入・所有していた作品を、オークションなどで再販(転売)する市場。

Rashid Johnson/David Kordansky(ラシッド・ジョンソン/デビッド・コルダンスキー)

ラシッド・ジョンソン《Surrender Painting “Ocean Sounds”》(2023) Photo: Stephanie Powell/Courtesy David Kordansky

今年20周年を迎えるデビッド・コルダンスキー・ギャラリーは、アート・バーゼルでの売れ行きも祝福に値するものになったようだ。同ギャラリーのシニアディレクター、クルト・ミューラーによると、VIP招待日には個人コレクターと主要な文化施設が多数の作品を購入。その中には、今年著名美術館の展覧会で取り上げられるアーティストの作品もあったという。

ブースの目玉は、シカゴ出身のラシッド・ジョンソンの新作《Surrender Painting “Ocean Sounds”》(2023)。サイ・トゥオンブリーを思わせるこの絵は、縦7列、横4段のグリッドに1つずつ白い顔が収められ、方陣を組んでいるように見える。グリッドからはみ出しそうな漫画風の大きな目の背景には、灰褐色の麻のカンバスを飛び交うように白い曲線が薄く描かれている。この作品は97万5000ドル(約1億3650万円)で売れた。

Alexander Calder / Pace(アレクサンダー・カルダー/ペース)

ペースが出展したアレクサンダー・カルダーの特設スペース。Photo: Courtesy Pace Gallery

ペースがブース内に特設したスペースには、アレクサンダー・カルダーの作品5点(ハンギングモビール1点、スタンディングモビール2点、絵画1点、紙作品1点)が優雅に並んでいた。これらの作品は、カルダーの遺族が直接ギャラリーに販売を委託したもので、35万〜280万ドル(約4900万〜3億9200万円)で売れた。

また、アーティスト・デュオ、エルムグリーン&ドラグセットの、等身大のライフガードのブロンズ彫刻3点も、35万〜42万5千ドル(約4900万〜6000万円)で売れている。

Georg Baselitz / Thaddaeus Ropac(ゲオルク・バゼリッツ/タデウス・ロパック)

ゲオルク・バゼリッツ《1969 ohne Stuhl》(2023) Photo: Courtesy Thaddeus Ropac

ペース同様、タデウス・ロパックも1人のアーティストに特化した作品群を出品。取り上げたのはドイツの画家・版画家のゲオルク・バゼリッツだ。85歳にして、独自の混沌と活気に満ちたダイナミックな作品を発表し続けているバゼリッツの《1969 ohne Stuhl》(2023)は、84万5000ドル(約1億1800万円)前後で買い手がついた。これは、強盗が暗躍する1970年代後半の暴力的な映画の1シーンを思わせるような作品だ。

一方、《Blau von Dinard》(2023)では対照的に、中心となる人物がホックニー風のブルーのプールに浮かんだ様子が描かれ、リラックスした穏やかな雰囲気が漂う。《Blau von Dinard》は120万ドル(1億6800万円)で売れている。初日はこのほか、バゼリッツの絵画・ドローイング8点、およびマーサ・ユングヴィルトの作品4点が、19万5000〜39万ドル(約2700万〜5500万円)で売れたという。

Keith Haring / Gladstone Gallery(キース・ヘリング/グラッドストーン・ギャラリー)

キース・ヘリング《無題》(1980) Photo: ©Keith Haring Foundation. Courtesy of the Foundation and Gladstone Gallery

グラッドストーン・ギャラリーで売れた注目作品の1つが、キース・ヘリングが1980年に制作した無題の作品だ。ポスターボードにインクで描かれたもので、価格は140万ドル(約1億9600万円)。ヘリングのトレードマークになったモチーフが勢ぞろいしていて、アーティストのユーモアとリズム感覚を示す傑作だ。

なお、ロサンゼルスの美術館としては初となるヘリングの個展が現在ザ・ブロードで開催中で、120点の作品とアーカイブ資料が展示されている(10月8日まで)。グラッドストーン・ギャラリーではまた、ロバート・ラウシェンバーグのコラージュ作品が120万ドル(1億6800万円)で、エリザベス・ペイトンの絵画が185万ドル(約2億5900万円)で買い手がついた。

Tom Friedman / Lehmann Maupin(トム・フリードマン/リーマン・モーピン)

トム・フリードマン《Untitled》2020年。Photo: Andrea Rossetti/Courtesy the artist and Lehmann Maupin, New York, Hong Kong, Seoul, and London

リーマン・モーピンはこれまで、コンセプチュアル・アーティストで彫刻家のトム・フリードマンをアジア市場向けに扱っていたが、今後は北米と南米のマーケットにも担当を広げることをVIP招待日に発表した。リーマン・モーピンではこの日、フリードマンの無題の作品が売れている。ギャラリーによると、買い手は過去にバッファローAKG美術館の理事を務め、現在はニューヨークとマイアミを行き来する「著名なアメリカ人コレクター」だという。

リーマン・モーピンのニューヨークのギャラリーでは、今年11月に「In Focus」企画でフリードマンを取り上げ、2025年には個展を開催する予定だ。同ギャラリーはこのほか、イ・ブルの「Perdu」シリーズの旧作が合計50万ドル(約7000万円)で売れ、ドミニク・チェンバースの複数の作品が完売した。チェンバースは今年9月にセントルイス現代美術館で、2024年にはリーマン・モーピンで、それぞれ個展が予定されている。(翻訳:清水玲奈)

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