俳優ジェシー・ウィリアムズ、アフリカ系ディアスポラアートを急ピッチで収集中
俳優、そしてアクティビストとしてハリウッドスターの座に上り詰めるまで、ジェシー・ウィリアムズはアートが暮らしの中心にある家庭で育った。アーティストである母に加えて、親戚には「船大工、彫刻家、画家、ダンサー」もいるとウィリアムズは話す。
「職人の手仕事に囲まれ、常にクリエイティビティが我が家の中心にありました。お金に余裕がなかったのでコレクションはしなかったものの、私たちにとってアートは価値ある存在で、欠くことができないものだったんです」
テレビドラマ「グレイズ・アナトミー 恋の解剖学」や映画「キャビン」などで主要な役に抜擢されるようになった頃、ウィリアムズは自分が「アートのゴッドマザー」と呼ぶ家族の一員、シェリル・R・ライリーの手ほどきによってコレクションを始めている。自身もアーティストであるライリーは、ウィリアムズと当時の妻に作品の見方やアーティストへの支援などについて事細かに伝授した。
「少しずつ収入が増え始めると、才能ある若い黒人アーティストのパトロンになることが、彼らの人生だけでなく私たちの人生にも役立つことを彼女は教えてくれました」とウィリアムズは語る。「それが、ただ面白いだけでなく、クリエイティブな資産の使い方であることを教わったんです」
10年ほどの意欲的な収集活動により、40歳のウィリアムズは現在約250点の作品を所有し、アフリカ系ディアスポラ(移民)アートのコレクターとして最も注目される一人になった(本人は所有数を把握するのが一苦労なようで、8月に話をした時には「今週も6点購入した」と話していた)。
絵の背景にある物語が見て取れることを理由に、具象的な絵画を好む傾向があるウィリアムズ。「基本的には若手黒人アーティストの作品がほとんどですが、チャールズ・ホワイトやケリー・ジェームズ・マーシャルなど、ベテラン作家の作品も多く購入しました。最初は理解しきれなくても、時間が経つにつれて熟し、変わっていく作品に魅力を感じますね。絵は家族の一員となり、私の家の、壁の、そしてくつろぎの空間にある肖像になります。ワインを片手に座って作品と心を交わすんです。まるで映画のような存在で、私の人生のシーンや役柄、登場人物のように感じています」
ウィリアムズは額縁に収められた絵だけではなく、アーティストたちとの交流も大切にしている。「所有している作品の作家のうち、94%くらいと付き合いがあります。スタジオで彼らとフェイスタイムをして、彼らの制作活動について長い時間、話したりもします。私たちは互いの人生の一部で、共同体としての人間関係を一緒に探求しているんです」
その一人が、ロサンゼルスのUnderground Museum(アンダーグラウンドミュージアム)を創設した才能ある画家で、2015年に亡くなったノア・デイビスだ。「兄弟のように親しい友人でした」とウィリアムズは話す。「彼の作品と共に住めること、玄関のすぐそばに飾ってあって、出入りする誰もがその絵に浸れるのは私にとってかけがえのないことです」
ウィリアムズが作品を所有し、尊敬しているアーティストは数多いが、その中から数人をあげてもらった。たとえばフェラーリ・シェパードについてウィリアムズは、「目の前で誰かの作品があっという間に進化していくのを見るのは感動的」と言う。ジェレル・ギブスの作品とワインを片手に向き合っていると、「別の世界の中に消え入っていくような気がする」。そしてヤニワ・エリスのことを、「まさに大物。クリエイティブで、クールで、数多いアーティストの中でも本当に独自性がある」と評した。
ウィリアムズは、パトロンとしての役割に誇りを持っている。「制作に困難を抱えた黒人アーティストの作品が、歴史的に上流階級の裕福な白人だけに所有されてきたのは興味深いこと。作家が自分のコミュニティに向ける思いとはなんの関係もない、代々富裕層に生まれ暮らしてきた人々を相手に、とてもアフリカ的でパーソナルな作品を作るというのは、ずいぶん奇妙な取引に思えますね。私としては、黒人系アートのうち一定の割合は黒人コレクターの手に渡るべきだと考えています。それがレガシーとして扱われるといいですね」(翻訳:池澤加那)
※本記事は、米国版ARTnewsに2021年10月19日に掲載されました。元記事はこちら。