ARTnewsJAPAN

US版ARTnews記者が厳選! Tokyo Gendaiのベストブース8選

7月6日の午後2時、VIPデーから始まったTokyo Gendai。現地を訪れたUS版ARTnewsの記者が、初日に最も活況を呈したブース8選を紹介する。

Photo: Tokyo Gendai

7月6日の午後2時、VIPデーから始まったTokyo Gendaiは、開場を前に長蛇の列ができ、会場の通路は終日混み合った。参加ギャラリーからは初日の売り上げが多数報告され、初日のパシフィコ横浜の会場全体が活気に満ちていた。

VIPオープニング直前の記者会見で、マグナス・レンフリューは、この瞬間を「日本のアートシーンにとって新たな章の始まり」であり、「長い旅路の第一歩」であると強調した。

「今後数年間で、このフェアを世界的に重要なフェアに成長させたいと考えています。今こそ、日本のアートシーンがスポットライトを浴びる時なのです」

また、フェアのメインスポンサーであるSMBCの高橋克周プライベートバンキング部長は、近現代アートは近年、世界と同様に日本でも人気を博しているが、「日本の金融機関のアートシーンへの貢献は北米やヨーロッパのそれに比べると限定的であった」と振り返り、こう抱負を語った。

SMBCがメインスポンサーとなることで、日本のアート・マーケットにさらに貢献できるよう、小さな一歩を大きなチャンスに変えていきたい」

以下、初日に活況を呈したブースを紹介していく。 (作家名/ギャラリー名) 

1. Jonathan Lyndon Chase /Sadie Coles HQ

Jonathan Lyndon Chase(ジョナサン・リンドン・チェイス)をフィーチャーしたSadie Coles HQ(セイディ・コールズHQ)のブース。Photo: ARTnews/Maximilíano Durón

フェア主催者は今回のTokyo Gendaiを、「日本のコレクターやギャラリーと、アジアを中心とした世界各国のコレクターやギャラリーが一堂に会する、少なくとも30年ぶりとなる真に国際的なアートフェア」と位置づけている。

ロンドンが拠点のギャラリスト、セイディ・コールズは、東京現代への参加を視野に4年ほど前に初来日し、日本市場での下地づくりを行ってきた。コールズによると、初日に数点の作品が売れたという(また、いくつかの作品を先行販売した)。今回展示された作品の中には、現在、金沢21世紀美術館で個展を開催中のアレックス・ダ・コルテの作品や、ジョナサン・リンドン・チェイスが日本のアートシーンに紹介するために制作した、アーティストフレームに入ったドローイングの新シリーズなどがある。

2. 生田丹代子 /A Lighthouse Called Kanata

生田丹代子の彫刻作品《空-168》(2023)。A Lighthouse Called Kanataブースにて。Photo: ARTnews/Maximilíano Durón

日本を代表するガラス作家の一人、京都在住の生田丹代子の彫刻作品《空-168》(2023)は、作品ラベルに貼られた赤いシール(他のアートフェアではもう見なくなった)が示すように、フェア開始1時間で売れてしまった。この複雑な彫刻は、手作業でカットされた数十枚のガラスで構成され、うねるような曲線を描いている。生田は、作品シリーズに冠した「空」という言葉を「Free Essennse」と訳している。見る角度によって実にさまざまな表情を見せてくれるこの作品だが、ギャラリーが説明するように、そこには、美こそたった一つの真実であるという仏教の原理が生かされている。

3. 長島 有里枝/Life Actually,日本の現代女性作家

Life Actually,日本の現代女性作家の長島 有里枝作品。Photo: ARTnews/Maximilíano Durón

アーティゾン美術館副館長の笠原美智子東京写真美術館学芸員の山田裕理が5人の日本人女性アーティストを選んだ、Tokyo Gendaiの特別セクション「Tsubomi」。 ここで目を引くのは、MAHO KUBOTA GALLERYに所属する長島有里枝の写真2点だ。セルフポートレイトは、妊娠しているように見える、黒のレザージャケットに水色の下着姿の長島が、赤い唇の間にタバコを挟みながら、挑発するようにカメラを見ている。彼女の不良っぽいポーズと、隣に置かれたソックモンキーが絶妙に調和ていた。さらに力強いもう1つの作品では、女性(おそらく長島自身)がピンクのシャツを持ち上げて上半身を露わにしている。だが、これはヌードではない。胸の部分には玉ねぎが置かれ、その先端が乳首のように見える。こうした毒のあるユーモアが、長島を注目すべきアーティストにしているのだ。

4. 田附 勝/Gallery Side 2

Gallery Side 2ブースに並ぶ、《1962年11月23日、朝日新聞(2018年11月27日、奈良で撮影)》ほか田附勝作品。Photo: ARTnews/Maximilíano Durón

2012年、田附勝は友人の勧めで、新潟の遺跡発掘現場を訪れ、そこで発掘されていた1万3千年前から3000年前の縄文時代の土器片に魅了された。田附は何年も新潟を訪れる中で、遺跡に関連する博物館の資料室を訪れた。そこにいくつもの箱が積み重ねられているのに気づき、開けてみると、古い新聞に丁寧に包まれたいくつかの土器片があった。それを見た瞬間、彼は、時間が目の前で崩壊していくのを感じたという。そこから、古い新聞と土器片を並置し撮影する「かけら(断片)」シリーズが始まった。ケネディ大統領暗殺があった1962年の新聞を撮った1点《1962年11月23日、朝日新聞(2018年11月27日、奈良で撮影)》は、土器片の背後に、笑顔のジャッキー・ケネディの写真が覗いている。

最近出版された単行本の中で、田附はこう書いている。「土器片は、箱の中に保管された後、誰にも見られることなくただ眠っていました。その保管に使われる新聞紙に書かれているのは、私たちが理解できる文字が書かれていますが、私たちは1万3千年前から3000年前の、彼らの『声』を聞き取り、理解できるかは分からないのです」

5. 宮崎啓太/MAHO KUBOTA GALLERY

MAHO KUBOTA GALLERYブースに並ぶ宮崎啓太の立体作品。Photo: ARTnews/Maximilíano Durón

ロンドンを拠点に活動するアーティスト、宮崎啓太は2011年3月11日の東日本大震災発生時に、東京に住んでいた。その惨状を目の当たりにし、ショックを受けたことを彼は今でも覚えている。それ以来、宮崎は廃車置き場に足を運び、廃棄された自動車部品を集めては、これらの素材に新たな命を吹き込んできた。これらの金属スクラップを単に溶接するのではなく、宮崎は手作業でカットし、染めた紙を加えることで、工業的な素材に個性を加えていく。気まぐれと前衛が同居するような彫刻の背後には、小品が壁に掛けられていた。それは伝統的な生け花に似ており、おそらく3.11に亡くなった人々への供物なのだろう。

6. 植松永次/Gallery 38

Gallery 38のブースを飾る植松永次のインスタレーション。Photo: ARTnews/Maximilíano Durón

Gallery 38のブースでは、植松永次による見事かつミニマルなインスタレーションが見られる。ブースの壁全体に、大小さまざまな抽象的な陶器の塊が散らばっているのだ。しかし、植松は自分のことを陶芸家であると考えているわけではなく、幼い頃に好きだった泥団子作りのように、土で遊んでいるのだという。インスタレーション中の作品は、球体にした土を壁に投げつけて平たくし、乾燥させてから焼成したもの。植松は、さまざまなプロセスを駆使して、異なる色や質感を出している。

7. 木嶋愛/The Columns Gallery

The Columns Galleryに並ぶ木嶋愛の作品2点。Photo: ARTnews/Maximilíano Durón

現在ニューヨークを拠点に活動する木嶋愛は、パンデミック前の4年間、イスタンブールに住んでいた。古い布を集めている彼女はよくグランドバザールに行き、不要になった布がないかを尋ねてまわった。中には彼女に端切れをくれる商人もいたという。The Columns Galleryに飾られた大規模な作品では、主にウズベキスタンの布を手縫いし、イスタンブールで見たイスラム建築の影響を感じさせる抽象的なコラージュに仕上げている。

8. Toyin Ojih Odutola/Jack Shainman Gallery

ニューヨーク在住のアーティスト、Toyin Ojih Odutolaの作品2点。Photo: ARTnews/Maximilíano Durón

ニューヨークを拠点に活動するアーティスト、トイン・オジー・オドゥトラは、これまでの世界観から一歩踏み出した作品を、日本での初お目見えとなる東京現代で発表した。2017年にニューヨークのホイットニー美術館で開催された個展で彼女は、ナイジェリアの2つの貴族一家の生活を描き、2020年にはロンドンのバービカン・センターの依頼で、ナイジェリアに伝わる先史文明の神話を描いている。こうした過去の展覧会で見られた形式的要素を用いながら、今回はやや抽象的な空間の中で、それぞれの人物の表情を捉えている。ある作品では、白いフリンジのあるヘッドカバーをつけた黒人の女性が、ドラマチックな赤い色の手袋をした手を顔の前で傾けている。

今回の作品は東京現代での展示を念頭に置いて特別に制作されたもので、同フェアはオドゥトラの作品を知らないコレクターやアートファンに彼女の作品を紹介する非常に良い機会になったと、ジャック・シェインマン・ギャラリーのシニア・ディレクター、ジョーナ・ベロラド=サミュエルズは語った。「それが、私たちがここにいる理由です。誰もが顔見知りのフェアと違い、東京現代ではコレクターベースを拡大し、顧客との新たな関係を構築するチャンスがある。それはとてもエキサイティングなことです」(翻訳:編集部)

from ARTnews

あわせて読みたい