メトロポリタン美術館の近現代アートウィング改修、5億ドルプロジェクトの建築家を発表
3月14日、長らく待ち望まれていたメトロポリタン美術館の近現代アートウィング改修に関し、設計を担当する建築家が同美術館から発表され、注目を集めた。
改修を任されるのは、メキシコシティに建築事務所を構えるフリーダ・エスコベド。同美術館の展示ウィングを設計する初めての女性建築家となる。マックス・ホライン館長は声明の中で、エスコベドを「傑出した建築家」と評している。
5億ドルの改修費用が見積もられている新しい近現代アートウィングには、名誉理事のオスカー・L・タンと妻のH・M・アグネス・シュー・タンの名前が付けられる。タン夫妻は、2021年11月に1億2500万ドルをメトロポリタン美術館に寄付すると発表。これは同美術館にとって過去最高額の寄附金だ。これにより、2014年に話が持ち上がったものの、資金難から中断されていた改修計画が息を吹き返した。
2014年に発表された改修計画は、近現代アート部門の強化を図るためとされる。近年は、ホイットニー美術館がダウンタウンに移転するまで使っていたマディソン街の建物を引き継ぎ、近現代アートを展示する別館「メット・ブロイヤー」として運営していたが、現在は閉鎖されている。改修後の近現代アートウィングには、コレクターのレナード・A・ローダーが2013年に寄贈した数十点のキュビスムの名作が永久収蔵される予定だ。
エスコベドは、芸術関連施設の建築プロジェクトで知名度を得た建築家で、建材の形式的・社会的特性を活かした設計で知られる。メキシコでは、クエルナバカにある壁画家のダビッド・アルファロ・シケイロスの工房、ラ・タリエラ・シケイロス(La Tallera Siqueiros)を改修。2018年には、ロンドンのサーペンタイン・ギャラリーが毎年夏に開設するパビリオンの設計者に、史上最年少の38歳で選ばれている。彼女が設計したサーペンタイン・パビリオンの格子状の壁は、メキシコの住宅でよく使われるセロシア(格子窓)をイメージしたものだ。
新しく生まれ変わる近現代アートウィングのデザインは明らかにされていないが、異質な文化や時間軸が交差するものになるだろうと同美術館は予告している。3月14日の発表では、「柔軟に組み替えられる展示スペースを設けることによって、空間と時間の相互関連性を強調し、非時系列的な物語を示唆するものになる」とされている。
エスコベドは、声明の中で次のように述べている。「世界で最も重要な文化発信地の一つであるメトロポリタン美術館で、歴史的な建築物の改修を担当する設計者に選ばれたことを光栄に思っています。タン・ウィングとして生まれ変わるこの場所は、美術館が所蔵する20世紀と21世紀のアート作品に新たな命を吹き込む機会を与えるものです。また、異なる時代、場所、イデオロギーを背景とするアートを生み出した原動力を称えるきっかけにも、自分を見つめ直し、他者とつながるための新しい空間を発見するきっかけにもなるでしょう」(翻訳:野澤朋代)
※本記事は、米国版ARTnewsに2022年3月14日に掲載されました。元記事はこちら。