米軍のゴミを「アート」に変えて送り返す──アジズ・ハザラが捉えたアフガニスタンの現実【New Talent 2023】

US版ARTnewsの姉妹メディア、Art in America誌の「New Talent(新しい才能)」は、長きにわたり年1度行われてきた新進作家を紹介する人気企画。今年、その1人に選ばれたアジス・ハザラは、大国の侵攻や内戦が何十年も続くアフガニスタンの現実を捉え、政治的メッセージを込めた写真・ビデオ作品を制作している。

アジズ・ハザラ《Bow Echo in the making》(2019)。Photo: Courtesy Aziz Hazara

アフガニスタンの中央高地にあるヴァルダク州に生まれ、現在はカブールとベルリンを行き来しながら活動するアジズ・ハザラは、写真とビデオを中心に緻密で奥深い作品を発表している。パフォーマンス、インスタレーション、短編映画、写真と、多岐にわたるメディアを駆使して生み出される作品は、長きにわたり繰り返されてきた軍事占領、宗派間紛争、経済制裁によって、アフガニスタン社会における伝統的なアイデンティティや人間関係がいかに激しく破壊され、再構築されてきたかを物語る。

ハザラは、国境を超えて血が流れ出すようなアフガニスタンの歴史をリサーチし、日常的な事物が武器に変質していく様を捉えている。そして、紛争に巻き込まれた犠牲者を追悼するために、また、暴力の常態化にひるまず対抗する試みとして、その事例をカタログのように記録する。

《Monument》(2019)は、アフガニスタンと国境を接するイランのホラーサーン州で、イスラム国メンバーの自爆テロにより死亡した48人の学生の集団墓地と慰霊碑を撮影した2チャンネルのビデオ作品だ。一方のスクリーンには、旗とポスターで示された爆撃現場が遠くに見える。もう一方のスクリーンは、犠牲者の写真を集めたポスターをクローズアップにし、それぞれの生年月日を「彼ら・彼女らは何の罪で殺されたのか?」という言葉とともに映し出す。

アジズ・ハザラ「A Gift to the American People」シリーズより、3部構成の一部《Chapter 1: Coming Home》。Photo: Courtesy Aziz Hazara

「占領下で生きるということは、兵士たちが歩き回る日常の中で、このような種類の死に直面することを意味します。様変わりしてしまった風景を、こうした死体が埋め尽くす。それが意味することとはなんなのか。自分が個人的に経験したことであれ、それぞれの人が持つ土地との個人的なつながりを通してであれ、私にとっては過去とは異なる重みを感じさせます」

ハザラの作品に含まれる政治性を読み解く1つの方法は、帝国主義的な外交政策が残したものに対する批判に注目することだ。最近ニューヨークブルックリンの非営利アート組織、スマック・メロンのギャラリーでの個展で展示された《Takbir》(2022)は、20年にわたりアフガニスタンに駐留していた米軍が、2021年8月に撤退した直後のカブールの夜を撮影したビデオダイアリーだ。映像では、遠くの建物から発せられるぼんやりとした灯り以外、ほとんどが暗闇で何も見えない。子どもたちがいる気配を感じさせるかすかな物音や、祈りの声の残響が聞こえるだけだ。

また、より明確なメッセージが打ち出されているのが、第58回カーネギー・インターナショナルのために委託制作された《A Gift to the American People》(2021-22)だ。この作品のために、ハザラはアフガニスタン最大の米軍基地だったバグラム空軍基地の跡地から、20トンのゴミをアメリカへ運んでいる。この輸送は、カブールからカラチへ、そして湾岸から西側へと向かうルートをたどった。つまり、アフガニスタンに米軍の装備と兵力が送り込まれたルートを逆行させたのだ。

そして、廃棄物の輸入を禁止するアメリカの規制を回避するため、アメリカの帝国主義が残していったゴミには、アート作品というラベルが貼られた。国際的な物品取引における官僚主義を批判するハザラの哀愁をおびた贈り物は、写真、ビデオ、ドキュメントとして数々の作品につながった。これらの作品もまた、贈り物と言えるだろう。いまだ和解に至らない過去と現在を記録し、いつまでも心に残る贈り物なのだ。(翻訳:清水玲奈)

from ARTnews

あわせて読みたい

  • ARTnews
  • CULTURE
  • 米軍のゴミを「アート」に変えて送り返す──アジズ・ハザラが捉えたアフガニスタンの現実【New Talent 2023】