ジョニー・デップもシャロン・ストーンも! 画業にいそしむセレブリティ11人
常に世間から注目されるセレブリティにとって、1人静かに絵を描くことは、スポットライトと喧騒から逃れて心を落ち着かせる良い方法になるようだ。音楽界や映画界のスターの中から、絵画制作に情熱を傾ける11人をUS版ARTnewsが選んだ。
「ディスコの女王」と呼ばれたドナ・サマー。その歌声を聴きながら、数え切れないほどの人たちがダンスフロアで踊りに夢中になった。しかし、サマーがビジュアルアーティストでもあったことを知る人は多くない。
映画監督のロジャー・ロス・ウィリアムズと、ドナ・サマーの娘であるブルックリン・スダノによるドキュメンタリー映画『Love to Love You, Donna Summer』が、最近公開された。サマーの人生とキャリアを追ったこの映画によると、彼女は当初、俳優を目指していた。スダノはUS版ARTnewsに、「私たちは他人を、特に有名人のことを枠にはめて考えがちですが、それはおかしなことだと思います」と語った。「アーティストというのは、さまざまなメディアを使って創造的なことができるストーリーテラー。問題は、アーティストが複数の分野で力を発揮できるということを、オーディエンスが受け入れられるかどうかなのです。母は、ありとあらゆる意味でアーティストでした。絵やスケッチは、母の芸術性を別のやり方で表現したものにほかなりません」
スダノは、カリフォルニア州サウザンドオークスの自宅のガレージが、母のスタジオになっていたのをよく覚えているという。「ガレージにはいつも、制作中のカンバスが何枚も並んでいたものです。母は1枚描いたら、それが乾くまでの間、別の絵にとりかかるのが習慣でした」とスダノは説明する。サマーが絵を描くようになったのは、純粋に自分のためだった。「音楽活動は他人のため、絵は自分自身のためのものだったのです」
この6月、サマーの絵は、手書きの歌詞原稿やライブでの衣装、その他のゆかりの品とともに、クリスティーズのオークションに出品された。作品の多くは、スダノが幼少期を過ごしたカリフォルニアの家のリビングルームやキッチンに飾られていたものだ。
「私と妹が幼い頃から親しんでいた絵なので、売るのはほろ苦い思いがします。ただ、母を愛してくれたファンのことを考えると、倉庫に入れたままにしておくのは正しいことだとは思えませんでした。これらは共有され、体験されるべきものなのです」
2. ピアース・ブロスナン
映画「007」シリーズでジェームズ・ボンド役を演じる俳優のキャスティングについては、ファンの間でいつも意見が分かれる。ただ、1つだけ確実に言えることがある。ボンド俳優になる前に画家になりたかったのは、ピアース・ブロスナンだけということだ。
ブロスナンは16歳で社会人になり、何の経験もないまま南ロンドンで商業イラストの見習いとして雇われた。彼はUS版ARTnewsに、「私はアルバムのジャケットデザインをすることに憧れていたんです」と語った。「情熱を注げる対象が見つかったと思いました。生まれて初めてアーティストに囲まれる生活を送るようになったのです。私は直線しか描かせてもらえませんでしたが、お茶を入れたり、オリヅルランの鉢植えに水をやったりしながらも、とても幸せでした」。その後、プロスナンは俳優への道を進むことになる。
ハリウッドに移ったブロスナンは、スタジオでの制作用に画材を揃えたものの、カンバスに筆を走らせることはほとんどなかった。しかし、1986年に妻が卵巣がんと診断されると生活が一転。不安と苦悩を和らげるために2枚の絵を描き、それ以来ずっと制作を続けている。
ドラマ「ブル〜ス一家は大暴走!」のいたずら好きなメイ・フュンケ役や、現在出演中の「サーチ・パーティー」で知られるアリア・ショウカットは、18歳の頃から絵を描いていたという。もちろん、絵を描いてもアート界で注目されるとは限らないが、ショウカットは幸運にも、型破りなアートフェア「SPRING/BREAK Art Show」の創設者アンドリュー・ゴーリとアンブレ・ケリーを友人から紹介され、昨年ロサンゼルスで開かれた同フェアに参加することになった。
ショウカットによると、アーティストとしての活動は女優としてのキャリアを妨げるものではなく、むしろ2つの活動はそれぞれに良い影響をもたらすという。彼女は、2022年のアートネットニュースによるインタビューでこう語った。「それぞれが互いの糧になっています。どちらか一方をやっていないときは、もう一方をやっていて、そのおかげで続けることができるんです。いつか絵を描くのに飽きるかどうかは分かりませんが、絵を描くスタジオがなかったら俳優業に退屈してしまうでしょう」
4. シャロン・ストーン
マーティン・スコセッシ監督の『カジノ』や、ウディ・アレン監督の『スターダスト・メモリー』、そして、なんといってもポール・バーホーベン監督のスリラー映画『氷の微笑』が有名なシャロン・ストーン。彼女の名を聞いてアーティストとしての活動を思い浮かべる人はまずいないだろう。しかし、ストーンは少女時代から叔母に美術の手ほどきを受けて絵を描いており、大人になってからはペンシルベニア州のエディンボロ大学で絵画を学んだ。
俳優としてのキャリアが軌道に乗ってからは筆を休めていたが、アートニュースペーパー紙のインタビューによると、名声を得たことで、世界中の美術館を一般への公開時間外に見学することができたのが人生最良の思い出の1つだという。
コロナ禍のロックダウンで自由な時間がたっぷりできたストーンは、暇つぶしにと友人から贈られたペイント・バイ・ナンバー・キット(下絵と絵の具に番号が振ってあり、番号に従って絵の具を塗ると絵が仕上がるDIY絵画キット)のおかげで、絵画への興味がよみがえった。ストーンはアートニュースペーパー紙に、「本物の筆を買って、絵筆の動かし方を思い出していきました」と答えている。「絵を描いて、描いて、描いて、自分を取り戻し、自分の心を取り戻した感覚がありました。長年失われていた自分の中心軸が見つかったのです」
今年3月、ストーンはロサンゼルスのアルーシュ・ギャラリーで初の個展「Shedding」を開催した。
5. ジム・キャリー
1999年の傑作『マン・オン・ザ・ムーン』で、夭折した実在のコメディアン、アンディ・カウフマンを演じてゴールデン・グローブ賞を受賞したジム・キャリーも、画家として精力的に活動している。ビジュアルアートを制作する俳優は少なくないが、キャリーほど作家としての注目度が高い例はめずらしい。
とはいえ、最初からそうだったわけではない。アーティストとしての知名度が一気に上がったのは2017年、ラスベガスのシグネチャー・ギャラリーでキャリーの個展が開かれ、スタジオで絵画を制作する様子を記録した6分間の短編ドキュメンタリー「I Needed Color」が公開されてからだ。ちなみに、このドキュメンタリーの動画は、2017年だけで500万回以上再生されている。
同年、カルチャーメディアのWマガジンによるインタビューで、「今の僕にとっては、心、精神、魂のすべてを傾けられる活動が大切。それは、あるときはアートであり、あるときは演技であり、あるときはただ誰かと話すこと」とキャリーは語っている。続く2018年には、ニューヨークのマッカローネ・ギャラリーで政治漫画の個展が行われた。
6. ルーシー・リュー
俳優として名を上げると、本格的なアーティストとして認められるのは難しくなる。映画とテレビ両方で成功した女優ルーシー・リュー(劉玉玲)が、画家としては中国名のユーリン(玉玲)で作品を発表しているのはそのためだ。
この記事で取り上げたセレブたちと同様、リューも若い頃からビジュアルアートに関心があった。1980年代、ニューヨークのクイーンズで10代を過ごした頃に彼女は写真を撮り始め、実験的なコラージュの制作もしていた。その後、1993年にニューヨークのキャスト・アイアン・ギャラリーで開催された写真展に出した作品が認められ、助成金を獲得。北京師範大学でアート制作と文化遺産について学んだ。しかし、自分自身をアートで表現する方法が見つかったのは2007年になってから、ニューヨーク・スタジオ・スクールで絵画を学んだ後のことだという。
2019年にはシンガポール国立博物館で、シンガポール人アーティスト、シュビギ・ラオとの2人展「Unhomed Belongings」が開催された。リューはアート販売サイトのArtsy(アーツィ)にこう語っている。「アーティストとしてとても大切な時間でした。私が本当にうれしかったのは、そこに商売の要素がなかったこと。作品を売るのではなく、多くの人に見てもらう機会だったのです。来館者がやってきて、自分の作品をじっくりと興味深そうに見てくれたときは最高の気分でした。そこには、つながる感覚があったのです……自分が孤立した存在ではなく、何かの一部であるとことが理解できました」
7. ジェームズ・フランコ
ジェームズ・フランコは、ハリウッドで俳優として活躍するかたわら、修士号や博士号を取得。さらにはパフォーマンスから詩、絵画に至るまで、芸術の世界でも活発な創作活動を行うなど、デビュー以来マルチな才能を発揮してきた。特筆すべきなのは、彼が一流のギャラリーや美術館で展覧会を開いていることだ。2014年には、ニューヨークのペース・ギャラリーで《New Film Stills》を発表。これは、シンディ・シャーマンの画期的な写真シリーズ「Untitled Film Stills」を、自らが被写体になって再現した作品だ。
しかし、評論家のロバータ・スミスは、ニューヨーク・タイムズ紙のレビューでこの展覧会を酷評。スミスの夫で、ソーシャルメディアのインフルエンサーでもある美術評論家、ジェリー・サルツも、フランコの演技は好きだと認めながら、「現時点ではジェームズ・フランコよりもジョージ・W・ブッシュの方がアーティストとして優れている」とニューヨーク・マガジンに書いている。
シンディ・シャーマン自身も黙っていなかった。展覧会について彼女はこう語った。「光栄です、としか言いようがありません。アートと言えるかどうかはわからないけれど。とにかく、彼がこの作品を作ったことよりも、ペースがこれを展示したことが不思議です」
8. アンソニー・ホプキンス
イギリス人俳優のアンソニー・ホプキンスが、子どもの頃からクリエイティブな才能を見せていたのは、この記事で取り上げた他の俳優たちと共通する点だ。ホプキンスの絵画への情熱に再び火がついたのは2003年、妻に後押しされてのことだった。2020年にUS版ARTnewsがインタビューしたとき、ホプキンスは絵画を再び描き始めたことや、コロナ禍では制作を日課としていたことを語った。さらに、彼の絵を見た友人のスタン・ウィンストンのアドバイスについても話している。ウィンストンは、スティーブン・スピルバーグ監督の超大作『ジュラシック・パーク』(1993)の特殊効果を担当したことで知られる人物だ。
「『これ、誰が描いたの?』とスタンに聞かれたので、すまなさそうな顔をして、『ええと、僕だよ』と答えると、なぜそんな顔をするかと言うので、『正式な美術教育を受けていないから』と説明しました。すると、私の手を握ってこう言ったんです。『教育やレッスンを受けてはだめだ。君はアーティストだ。君は画家だ』」
9. シルヴェスター・スタローン
1977年に3部門のアカデミー賞を受賞した映画『ロッキー』で、シルヴェスター・スタローンが演じた架空のボクサー、ロッキー・バルボアについては、映画ファンなら知らない人はいないだろう。しかし、スタローンが、世界チャンピオンと戦う荒削りなボクサーを主人公にした自らの脚本でブレイクする前に、主人公になぞらえた自画像を描いていたことを知る人は少ないかもしれない。
スタローンは2021年、ドイツのハーゲンにあるオストハウス美術館で大規模な個展を開いた。その開幕を前に行われたアートネットニュースのインタビューで彼は、「当時の自分の顔をより誇張した『パグ顔』の自画像では、悲しみを表現するため、ねじ回しを使って目の部分の絵の具を削った」と説明している。
スタローンは絵画でも、映画と同様、英雄的であると同時にほころびや欠点のある男性像を描く。上述のインタビューでは、「アートでも映画でも、スパルタクスやヘラクレスのように、非常に男性的でハイパーリアルな人物をテーマにしてきた」と語った。スタローンはまた、絵画に挑戦すると俳優としての評価が下がりがちなことを痛感している。そのため、映画監督として、また俳優として真剣に受け止めてもらえるよう、自分の作品はなるべく人目に触れないようにしてきたという。もっと早くからアーティストとして認められていたら、俳優業は後回しになっていたとまで言い、こう付け加えた。
「絵を描いているとき、私は自分がむき出しの真実に近いところにいるように感じる」
10. ジョニー・デップ
世界のセレブの中でもとりわけ知名度が高い俳優のジョニー・デップは、超有名人のポートレートを制作し、限定版スクリーンプリントとして発表した。デップの初個展は2022年、イギリス各地にギャラリーを展開しているキャッスル・ファイン・アートで開催されている。
ニューヨーク・ポスト紙によると、デップがインスタグラムで「NOW AT #CASTLEFINEART」という言葉とともに、スクリーンプリントの作品4点と自分が写った写真を投稿した20分後、デップのファンとスクリーンプリントの新作を購入しようとするアートファンによるアクセスが集中し、ギャラリーのウェブサイトが一時クラッシュしたという。苦情が殺到する中でギャラリーは、デップのデビューコレクション「Friends and Heroes」シリーズのプリント780点が全て売り切れたとツイート。売上総額は約365万ドル(約5億円)に上ると見られている。
2023年3月には、やはりキャッスル・ファイン・アーツから、「Friends and Heroes II」が発売された。テーマは前作と同じで、ヒース・レジャー、ボブ・マーリー、リバー・フェニックス、ハンター・S・トンプソンといった人物が描かれている。これもまた、即完売した。
11. リサ・エデルシュタイン
コロナ禍では、セレブを含む多くの人々が絵を描くことに目を向けた。女優のリサ・エデルシュタインは米フォーブス誌のインタビューで、俳優の立場から感じたことをこう語っている。「ドローイングや油彩を始めたとき最初に気づいたのは、誰かにチャンスをもらうのを待たなくても新しいことをやっていいんだということです。そして、自分がどれだけ行動する必要があるかを学びました」
エデルシュタインは、マジックマーカーで絵を描き始め、やがて、自分自身のユダヤ人としての生い立ちをテーマとした水彩画に移っていった。2023年初め、ニューヨークのギャラリー、SFAアドバイザリー(その後閉業)を会場に、個展「Lisa Edelstein: Family」を開催している。(翻訳:清水玲奈)
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