ジャクソン・ポロックの「床アート」NFTコレクション、3日間で約7400万円の売り上げ
7月18日、ジャクソン・ポロック・スタジオと、デジタルアートプラットフォームのアイコニックは、ポロックのスタジオの床を4区画に分けてNFT化したコレクション「Beyond the Edge: The Jackson Pollock Studio Collection」を発売した。
30年以上隠されていたポロックのスタジオの床
発売した抽象表現主義の代表的作家であるジャクソン・ポロックは、カンバスを床に広げ、その上にエナメル塗料を垂らしたり投げつけたりして制作を行ったことで知られる。その結果、カンバスからはみ出した塗料が、床の上で意図しないアート作品となっていた。
ポロック=クラズナー・ハウス・アンド・スタディ・センターのディレクター、ヘレン・ハリソンは、1980年代にスタジオの床があらわになった瞬間を鮮明に覚えているという。1953年にポロックは、防寒のためスタジオの床に断熱用の板を敷き詰めた。そのため、1946年から1952年までの制作で飛び散った塗料が、その下に封じ込められることになったのだ。
後年、ポロックの制作過程を知る重要な手がかりが床から発見できるかもしれないと考えた保存修復師たちは、メゾナイト板を取り除くことにした。当時、ニューヨーク州イーストハンプトンの文化施設ギルド・ホールのキュレーターで、ニューヨーク・タイムズ紙のアートコラムニストでもあったハリソンは、この除去作業の取材記事を同紙に寄稿している。
そのときのことを、ハリソンはUS版ARTnewsにこう語った。
「防水紙をはがし、正方形のメゾナイト板が取り除かれるにつれ、ポロックの制作の痕跡が次々と現れました。やがて床全体が見えるようになり、驚くべきアート作品が姿を現したのです。まるで考古学の発見のようでした」
その後は美術史家たちが、どの塗料の跡や線が《ブルー・ポールズ》(1952)や《収斂》(1952)といったポロックの重要作品に関連するものかを分析していった。
スタジオの床をデジタル化して永久保存する
スタディ・センターの監督下で運営されているジャクソン・ポロック・スタジオ(ポロック財団とは別組織)は、これまでもファッションや室内装飾向けのコラボレーションのため、床の画像をライセンスし、その収益をポロックと妻リー・クラズナーの家やスタジオなどの施設保存に充ててきた。そのため、今回のアイコニックによるNFT化の提案も、すんなりと実現に向けて動き出した。
アイコニックは、ジャクソン・ポロック・スタジオのほか、複数の文化施設にデジタル面のサービスを提供している。同社のクリス・カミングCEOはUS版ARTnewsに対し、このコレクションは「スタジオの床に命を吹き込み、デジタル化して永久に保存するチャンスだと考えた」と語っている。
NFTの制作にあたり、アイコニックのチームは床の高解像度写真を何百枚も撮影し、AIツールを使ってつなぎ合わせた。こうして800ギガバイトのファイルができ上がったが、カミングによるとコンピュータのグラフィックボードが何枚も故障することになったという。
各NFTのエディションは125で、紙のプリントとセットになっている。また、アイコニックがジャクソン・ポロック・スタジオと共同開発した他のコレクションを見るためのアクセスキーとしても機能する。
収益の一部を施設の保存資金に
アイコニックの会員権であるアートパスを持つコレクターを対象として7月18日に行われた先行販売では、数時間のうちに各セットの売り上げが合計10万ドル(約1400万円)に達したとカミングは明かした。残りのNFTは7月19日に発売され(20日販売用の60セットを除く)、アートパス所持者向けの価格は1500ドル(約21万円)、それ以外は1800ドル(約25万円)とされた。結果は各日とも即座に完売で、3日間の売り上げは合計52万5000ドル(約7400万円)を記録している。
今回のコラボの目的は、デジタルフォーマットでの作品保存だけではない。1次販売の収益の50%、2次販売の収益の5%がスタディ・センターに寄付され、ジャクソン・ポロック・スタジオの継続的な管理運営のための資金となる。
「ユニークなのは、スタディ・センターの決断により、見学者がスタジオの床の上を歩けるようにしたことです。一方で、この素晴らしい体験を可能にするためには、しっかりと保存・維持を行う必要があります」とカミングスは説明する。
今後は、ジャクソン・ポロック・スタジオとのコラボで、ポロックにインスピレーションを受けたデジタルアーティストによるNFTコレクションや、オーディナルズ(Ordinals)バージョンのコレクション(NFTだがイーサリアムではなくビットコインで取引される)なども予定されている。これらの収益も施設の保存・維持に充てられる予定だ。
実際、建物の維持・保存のためにやるべきことは多い。「このスタジオこそが私たちのコレクションの実体です」とハリソンは言う。「歴史的な建物の場合、特に床のように傷みやすいものは、常にメンテナンスが必要ですし、屋根も定期的に取り替えなければいけません。それにシロアリの被害も懸念材料です」(翻訳:清水玲奈)
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