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英アーティスト、イスラエルの文化施設ボイコットで受賞取り消し。「歴史への意識に欠ける」

建築理論の発展への寄与が認められた芸術家や著述家を表彰するドイツの建築賞が、イギリス人アーティストに授与した賞の取り消しを発表した。理由はイスラエルの文化施設に対するボイコットを表明する公開書簡に署名したことだった。

ヨルダン川西岸のベツレヘムにイスラエルが建設した分離壁に描かれたバンクシーの智天使。2017年12月に登場したもので、一方がバールを持ち、もう一方が壁の端を引っ張ってこじ開けようとしている(2023年12月23日撮影)。Photo: Maja Hitij/Getty Images

ドイツのシェリング建築財団が、イスラエルの文化施設に対するボイコットを表明する公開書簡に署名したことを理由に、イギリス出身のアーティストで作家でもあるジェームズ・ブライドに授与した賞金総額3万ユーロ(約490万円)の賞を取り消した。

同財団は、「建築理論への卓越した貢献」を称え、2年ごとに表彰を行っている。現在アテネを拠点に活動しているブライドルは、著書『WAYS OF BEING人間以外の知性』が高く評価され、今年6月に受賞が発表された。しかし、11月20日に予定されていた授賞式直前の17日、同財団の審査委員会が全会一致で賞の取り消しを決定したとのメールが届いたという。

理由は、10月にニューヨークの文学系サイト「LitHub(Literary Hub)」が発表した公開書簡にブライドルが署名したことだった。数千人が署名したその書簡は、「パレスチナ人に対する弾圧に加担、あるいはそれに対して沈黙している」イスラエルの文化施設へのボイコットを呼びかけている。

同財団は声明で、ブライドルのボイコット参加は、「ドイツの歴史を意識」して取るべき行動に「明らかに反する」と断定。その背景には、今月初め、ドイツ連邦議会が反ユダヤ主義を抑えるための決議を採択したことがある。この方針は、ユダヤ系知識人やアムネスティ・インターナショナルなどの国際NGOが、イスラエル政府に対する正当な批判を抑圧しかねないとの懸念を示す中で決定された。

採択された決議の対象は、「反ユダヤ主義を広め、イスラエルの生存権に疑問を呈し、イスラエルへのボイコット、あるいはイスラエル企業や製品へのBDS運動(ボイコット、投資の引き揚げ、制裁運動)を積極的に支援する団体やプロジェクトが財政的支援を受けること」とされる。ただし法的拘束力はなく、ドイツの文化団体の裁量で適用できる。

ブライドルは19日にアートレビュー誌への寄稿で、財団の決定にこう反論した。

「私は、アーティストたちに、彼らが依存する資金力のある機関や組織よりも、より良く、より倫理的に行動する責任を負わせるべきだとは思いません。こうした組織には倫理的に行動する義務があり、実際に資金を提供している作家の活動を認識する義務があります。しかし現実的には、そうした要求には限界があることもはっきりしています」

受賞理由とされた著作『Ways of Being』で、ヨルダン川西岸にあるイスラエルの分離壁についても触れているブライドルは、シェリング財団の要求に対する見解をこう述べている。

「信念と政治を切り離すことは不可能です」

(翻訳:石井佳子)

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