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今週末に見たいアートイベントTOP5: 国内外34作家の100作品でエコロジーを考察、世界的デザイナー倉俣史朗の仕事を一望

関東地方の美術館・ギャラリーを中心に、現在開催されている展覧会の中でも特におすすめの展示をピックアップ! アートな週末を楽しもう!

倉俣史朗《ミス・ブランチ》1988年 富山県美術館蔵 撮影:柳原良平  © Kuramata Design Office

1. 私たちのエコロジー:地球という惑星を生きるために(森美術館)

マルタ・アティエンサ 《漁民の日2022》 2022年 ビデオ、サイレント 45分44秒(ループ) 制作協力:ハン・ネフケンス財団、モンドリアン財団、シェーン・アケロイド コミッション:第17回イスタンブール・ビエンナーレ Courtesy: Silverlens, Manila/New York

現代アートとエコロジーの対峙。国際的作家の新作が多数

森美術館の開館20周年記念展は、「エコロジー」がテーマ。いまや世界共通の課題である地球規模の環境危機に、“現代アートはどう向き合うのか?”を探っていく。参加するのはハンス・ハーケ、アピチャッポン・ウィーラセタクン、アリ・シェリ、アグネス・デネス、桂ゆき、鯉江良二、岡本太郎、松澤宥、西條茜ら国内外のアーティスト34人。歴史的な作品から新作まで約100点を取り上げ、作品に込めたコンセプト、素材や制作プロセスなどに、未来の可能性を見出していく。高度経済成長期に環境汚染が問題となった日本で制作・発表されたアートも再検証される。

エコロジカルな展示を目指し、輸送を抑えて日本での現地制作を推奨した結果、国際的な作家の新作が多数そろった。スウェーデン生まれのニナ・カネルは、会場の床に貝殻を敷き詰めた大規模インスタレーションを展開。鑑賞者が踏みしめることで粉砕された貝殻は、後日セメントの原料に再利用される。米国のイアン・チェンが発表するのは、AI シミュレーションの亀「サウザンド」。生き残るための様々な条件に合わせて動き回り、変化に対応して進化する。保良雄の、自然のなかで長い歳月をかけて形成された大理石と、ゴミを高温で溶解させてできた物質のスラグを並置するインスタレーションなども。

私たちのエコロジー:地球という惑星を生きるために
会期:10月18日(水)~ 2024年3月31日(日)
会場:森美術館(東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階)
時間:10:00 ~ 22:00 (1/2と3/19を除く火曜は17:00まで、入場は30分前まで)


2. 井原信次 1111(KEN NAKAHASHI)

© Shinji Ihara "Lay Flowers 22" 2023, Oil on canvas mounted panel, 41 × 24.2 cm

限りなく繊細に描き上げた、愛猫への鎮魂歌

1987年生まれの井原信次は、大学で西洋画の古典技法や油画材料について学ぶ。そして20歳の頃に性的マイノリティであることに気付き、絵を描くことを自己の内面を表現する手段へと変えていった。自身が「点の集合で描く」と語る、限りなく緻密な描写、そして温かみのある陰影を持った絵画作品は見る者を強く惹きつける。

本展では、井原が長年生活を共にしてきた飼い猫が亡くなった2022年11月11日から、花を手向けるように描いてきた22枚のペインティング《Lay Flowers》を中心とした新作を発表する。両手で優しく持った花や猫じゃらしを、微細な宝石を一粒一粒置いていくように描かれた作品群は、井原の愛猫への深い愛情を伺い知ることができる。

井原信次 1111
会期:10月27日(金)~12月9日(土)
会場:KEN NAKAHASHI(東京都新宿区新宿3-1-32 新宿ビル2号館5階)
時間:11:00 ~18:00


3. 京都精華大学55周年記念展「FATHOM—塩田千春、金沢寿美、ソー・ソウエン」(京都精華大学ギャラリー)

塩田千春《愛についての手紙》2022 Photo:Doug Eng ©JASPAR, Tokyo, 2023 and Chiharu Shiota

ジャンルや国を超えアイデンティティを問う3作家の現在地

京都精華大学芸術学部で洋画を専攻したアーティスト、塩田千春、金沢寿美、ソー・ソウエンを特集する。3人は世代が異なるものの、絵画の範疇を超えてインスタレーションやパフォーマンスなど、多岐にわたるジャンルで表現活動を行ってきた。そして、大学卒業後にドイツに渡った塩田、在日韓国人三世として育った金沢、2020年にアーティストネームを改名したソウエンは、アイデンティティについての問いを表現の核に据える共通点も持つ。

本展では3人のインスタレーションや平面作品を展示する。展覧会タイトルの「Fathom(ファゾム)」は、人間が両手を左右に広げた時の幅に由来する「身体尺」のひとつで、そこから派生して「理解する」「探究する」という意味にも使われる。自らの身体行為を通して何かを探り、浮かび上がらせようとする3人がそれぞれ向き合ってきた問いや、主題の「現在地」を体感してもらいたい。

京都精華大学55周年記念展「FATHOM—塩田千春、金沢寿美、ソー・ソウエン」
会期:11月17日(金)~12月28日(木)
会場:京都精華大学ギャラリーTerra-S(京都市左京区岩倉木野町137京都精華大学明窓館3F)
時間:11:00 ~ 18:00 


4. Nerhol REVERBERATION(The Mass)

注目のアーティストデュオ、Nerholが帰化植物をモチーフにした新作を発表

彫刻を行う飯田竜太と、支持体となる紙や平面的構成に向き合う田中義久からなるアーティストデュオ、Nerhol(ネルホル)。2007年に結成し、2011 年からは、200 カット以上撮影をした全て異なるポートレートを束ねて彫刻することで生み出される歪んだ人物像の立体作品を発表し、大きな注目を集める。その後は動植物、水、インターネットにアップされた画像データや記録映像など、様々な特定のモチーフを選びながら、そこに内包される時間と歴史を表現する「写真でもあり、彫刻でもある」作品を制作している。

本展では、近年Nerholが継続的に取り組んでいる帰化植物をモチーフにしたシリーズを中心にした新作を発表する。帰化植物は、本来の自生地から人間活動など様々な要因により他の地域へ運ばれ、その土地で野生化した植物のことを指す。帰化植物と人間などの間に介在する歴史と時間という概念はNerhol作品に欠かせないコンセプトだ。彼らの作品群は、私たちが 普段何気なく目にするものに再び注目させ、そこに向き合う時間を与えてくれるだろう。

Nerhol REVERBERATION
会期:11月18日(土)~12月26日(火)
会場:The Mass(東京都渋谷区神宮前5-11-1 )
時間:12:00 ~ 19:00 


5. 倉俣史朗のデザイン―記憶のなかの小宇宙(世田谷美術館)

倉俣史朗《ミス・ブランチ》1988年 富山県美術館蔵 撮影:柳原良平  © Kuramata Design Office

唯一無二のデザインを手掛けた倉俣史朗の人生と仕事を一望

1960年代から90年代にかけて活躍したインテリアデザイナー、倉俣史朗(1934-1991)の回顧展。倉俣は1965年に独立して事務所を構え、同時代の美術家たちとも交流をしつつ、造花のバラをアクリル樹脂で閉じ込めた椅子や、大きさを少しずつ変えて格子状に49個並ぶ「引出し」、7本の針を持つ「時計」など、一風変わったデザインながらも機能性を持った家具とインテリアデザインを数多く手掛けた。

1980年代にはイタリアのデザイン運動「メンフィス」に参加し、その名は一躍世界中に知られることとなる。倉俣の作品は各国の美術館に収蔵されており、唯一無二の仕事の数々は、今なお国内外で高い評価を得ている。本展では、倉俣の家具やインテリアの仕事に加えて、創作の源泉が垣間見えるイメージスケッチや夢日記を紹介する。そして、倉俣語録とも言われた作家自身の言葉を織り交ぜながら、独立以前から56歳の早すぎる死までを振り返る。

倉俣史朗のデザイン―記憶のなかの小宇宙
会期:11月18日(土)~ 2024年1月28日(日)
会場:世田谷美術館(東京都世田谷区砧公園1-2)
時間:10:00 ~ 18:00(入場は17:30まで)

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