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ベルリン新国立美術館でナン・ゴールディンがドイツを真っ向批判。「なぜ事実を認めないのか」

開催前から物議を醸していたベルリン新国立美術館(Neue Nationalgalerie)でのナン・ゴールディン個展がついにスタートした。11月22日のプレビューイベントに現れた作家は、自身を「反ユダヤ主義」と呼ぶドイツの一部報道機関を非難し、ドイツ政府に対しても苦言を呈した。

ナン・ゴールディン。Photo: Fabian Sommer/DPA/Picture Alliance via Getty Images

ドイツのナン・ゴールディンの写真と映像に焦点を当てた展覧会が、11月22日からベルリンの新国立美術館(Neue Nationalgalerie)で始まった。しかしオープン前から、本展はドイツの報道機関で物議を醸している。というのも、世界のアート業界で物議を醸した公開書簡──2023年にアートフォーラム誌が掲載した、ガザへの攻撃停止を求める内容で、ハマスによるイスラエルへの攻撃について言及されていないことが問題視された──にゴールディンが署名していたからだ。つまり、ドイツの一部報道機関は、ゴールディンは反ユダヤ的であると考えており、反ユダヤ的な芸術家の個展をドイツで開催するなど言語道断、というのが、彼らの主張だ。

こうしたなか、ゴールディンは個展のプレビューイベントでスピーチを行い、ドイツに対して、イスラエルによるガザへの攻撃の停止を求める人々の訴えを真剣に受け止めるよう呼びかけた。

「反ユダヤ主義という言葉は今や武器として使われていて、本来の意味を失っています。イスラエルへのあらゆる批判を反ユダヤ主義であると断言することで、ユダヤ人に対する暴力的な憎悪の定義と阻止が難しくなっているのです」

ゴールディンはまた、イスラム恐怖症の蔓延がドイツ政府によって「無視されている」と指摘し、こう続けた。

「反ユダヤ主義という言葉は、ドイツのパレスチナ人コミュニティとこのコミュニティ支援者を標的にした武器として使われているのです。国際刑事裁判所は、ガザ地区における攻撃はジェノサイドに該当すると語っていますし、ローマ法王もイスラエルによる攻撃について言及しています。こうした事実をなぜドイツは受け入れられないのでしょうか」

そしてスピーチの最中にゴールディンは、ガザ地区に捧げる4分間の黙祷を実施した。これに対し、ドイツのフランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング(FAZ)紙が報じたところによると、新国立美術館のディレクターを務めるクラウス・ビーゼンバッハは、集まった聴衆の前でゴールディンに対する反意をあらわにしたという。ビーゼンバッハは、ゴールディンの言論の自由を全面的に認めつつ、その意見の内容には同意できないと語った。

「私たちは、イスラエルが存在する権利は十分にあると考えています。ハマスによるイスラエルへの攻撃は、いかなる理由でも正当化できない残虐なテロ行為であったと同時に、ガザ地区とレバノン市民の苦しみは無視できないものであり、私たちは地域の人々に同情しています」

ゴールディンとビーゼンバッハの講演中、一部の参加者はパレスチナの旗を振っていた。FAZ紙によると、ビーゼンバッハの発言に対し、野次を飛ばすオーディエンスも少なくなかったという。

ドイツ通信社によると、ゴールディンは自身の個展をめぐる議論を背景に、そのオープニングの2日後にあたる11月24日に新国立美術館で開催されたシンポジウム「分極化の時代における芸術とアクティビズム ー 中東紛争に関する議論の場」への参加を辞退している。彼女は自身のインスタグラムで、反ユダヤ主義やイスラム恐怖症、イスラエル・ハマス紛争に関するこのシンポジウムは、「私の知らない間に企画されたものであり、美術館が私の政治的スタンスを支持していないことを証明するための試み」であると述べた。

パレスチナとの連帯を表明するため、アーティストにドイツ政府の「マッカーシズム」を支持する機関への協力を辞退するよう呼びかける運動「ストライク・ジャーマニー」は同団体のインスタグラム上で、このシンポジウムは「ナン・ゴールディンの個展を開催した美術館の館長、ビーゼンバッハに対する批判回避のための先制防衛に過ぎない」と訴え、新国立美術館が、同団体がシオニストと呼ぶドイツ政府から莫大な資金提供を受けている事実に目を向けさせないための施策だと指摘した。

ストライク・ジャーマニーのインスタグラム投稿を受け、複数のアーティストはイベントへの参加を取りやめている。当初、基調講演を行う予定だったヒト・シュタイヤーは先週、参加しないことを発表し、キャンディス・ブライツとエイヤル・ワイツマンもイベントへの登壇を取りやめた。

先週初めにメディアに送られたプレスリリースの中でビーゼンバッハは、「サバ・ヌール・チーマとメロン・メンデルによるシンポジウム『分極化の時代における芸術とアクティビズム ー 中東紛争に関する議論の場』では、長らく必要とされてきた建設的な議論の場を提供したいと考えています。活動家兼アーティストとして、芸術の政治的関与を主張するナン・ゴールディンの展覧会開催を機に、中東紛争の現状を踏まえ、政治的な芸術の責任について緊急の問いを投げかけます」

またビーゼンバッハは同じプレスリリースの中で、このシンポジウムはゴールディンとは関係なく「独自に」企画されたものであり、従ってゴールディンの作品がシンポジウム内で取り上げられることはないと述べ、「私たちは、たとえ彼女の意見に常に同意するわけではないとしても、彼女が自身の意見を表明する権利を全面的に支持します」と続けている。(翻訳:編集部)

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