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バスキアのドローイングは35億円超! クリスティーズ21世紀美術セールの高額落札を一挙紹介

11月21日、秋のニューヨーク・オークションシーズンの最後を飾るクリスティーズの21世紀美術イブニングセールが行われ、市場低迷の先に明かりが見えるような活発な競りが繰り広げられた。落札額トップ10の作品を中心に、その結果をお伝えする。

ジャン=ミシェル・バスキア《Untitled(無題)》(1982)。Photo: Christie's Images LTD 2024

11月21日、クリスティーズ・ニューヨークが21世紀美術イブニングセールを開催。隙間なく席が埋まる中、対面での参加者のほか、電話やオンラインを介した入札者が何度も活発な競り合いを繰り広げるなど会場は熱気に満ちていた。同オークションでは2ロットで出品取り下げがあったが、42ロットの出品作全てが落札され、落札総額は1億650万ドル(直近の為替レートで約164億円)に達した。中でも、ジャン=ミシェル・バスキアのドローイングは2300万ドル(約35億4000万円)で落札され、バスキアの紙作品の最高額を更新している(以下、記事中の価格は、特記のない場合全て手数料込み)。

手数料を除く落札総額の事前予想は7400万ドルから1億800万ドル(約114億〜166億円)だったが、結果は8700万ドル(約134億円)で予想の範囲内に収まった。クリスティーズによる保証付きロットは6、第三者保証付きのロットは17と(*1)、出品作品の半分以上で事前に販売が決まっていたことになる。


*1 作品を出品してもらいやすくするため、オークションハウスあるいは第三者が一定の金額で購入することを事前に出品者に保証すること。

これに対し、2023年秋の21世紀美術セールの落札総額は8840万ドル(約136億円)。最低予想額の9600万ドル(約148億円)を800万ドル(約12億円)ほど下回ったため期待外れの結果と言われたが、手数料込みでは1億750万ドル(約165億5000万円)で、出品数は今回と同じ42ロットだった。

ともあれ、2週間にわたる秋のオークションシーズンを締めくくるクリスティーズのイブニングセールの売り上げが予想の範囲に収まったことで、市場低迷からの回復に対する期待感が漂っていた。

「質の高い作品への需要」に関係者も明るい表情

このオークションでは、フィレレイ・バエズ、ウィリアム・エグルストン、デンジル・フォレスター、サーシャ・ゴードン、ロニ・ホーン、アナ・メンディエタ、ヒラリー・ペシス、サラ・ジーの8人が自己の最高落札額を更新。また、バスキアに加え、ルイーズ・ブルジョワの紙作品とキース・ヘリングの彫刻作品も、それぞれの分野での史上最高落札額を記録している。

バスキアの《Untitled(無題)》(1982)は予想落札額が2000万ドルから3000万ドル(約31億〜46億円)で、このオークションでは飛び抜けて高額の作品だった。入札開始から2分半後、予想額の最低ラインに迫る1950万ドル(約30億円)で決着し、手数料込み2300万ドル(約35億4000万円)でバスキアによる紙作品の新記録となった。なお、これまでの最高額は、1982年にニューヨークのサザビーズで落札された《Untitled(Head)(無題 [頭] )》の1520万ドル(約23億4000万円)だった。

今回の落札作品には、苦悩に満ちた表情を浮かべた人物の半身像が描かれており、頭に勝利の栄光の象徴とされる月桂冠を被っているように見える。1996年に、今回出品した匿名の売主がディーラーのエンリコ・ナヴァラとトニー・シャフラジから購入し、それ以来、市場に出たことはなかった。なお、この作品には(高額であるもかかわらず)保証が付いていなかった。

今回のオークション結果を業界関係者は肯定的に見ている。たとえばニューヨークのディーラー、ドミニク・レヴィは80分間のオークション終了後、US版ARTnewsの取材にこう答えた。

「好結果を呼んだのは優れたキュレーションです。若手アーティストの作品が健闘し、オークションではあまり目立たないロニ・ホーンのようなアーティストの作品にも高値が付くなど、質の高い作品への需要が見られました。ただし、しっかりした情報をもとに慎重に選ぶという傾向は変わっていません」

レヴィが指摘したように、若手アーティストについて言えば、オークション初登場のフィレレイ・バエズが予想最高額の3倍にあたる56万7000ドル(約8700万円)という驚くべき結果を叩き出した。また、予想最高額が120万ドル(約1億8500万円)とされていたロニ・ホーンの落札額は150万ドル(約2億3100万円)、手数料込み180万ドル(約2億7700万円)となっている。

投資家のマックス・ドルジサーも、明るい表情でこう語っている。

「予想が裏切られるようなこともなく、非常に好い結果だったと言えるでしょう。19日のような華やかさはありませんでしたが、あのようなセールはそうそうありませんから」

19日に行われたクリスティーズの20世紀美術イブニングセールは、落札総額4億8600万ドル(約748億円)を達成。デザイナーで慈善家でもある故マイカ・アーティガンによるコレクションのセールでは、ルネ・マグリットの作品が1億2120万ドル(約188億円)で落札され、マグリットのオークション記録を塗り替えている。

落札額トップ10にクーンズが2点ランクイン

事前の関心が低かったためか、ダイアン・アーバスの写真とエリック・フィッシュルの絵画が出品取り下げとなったが、出品された42作品は全て落札されている。そのうち15点は予想最高額を上回り、予想額の範囲内で落札されたものが12点、予想を下回った作品が15点だった。

アートネットニュースによると、US版ARTnewsのTOP 200 COLLECTORSに名を連ねる2人のコレクターから3点が出品されている。製紙・出版業の大物実業家ピーター・ブラントは、バスキア作品と市販の掃除機をガラスケースに収めたジェフ・クーンズのレディメイド作品(および出品が取り下げられたエリック・フィッシュルの作品)を、ギリシャ系キプロス人実業家のダキス・ジョアノーはクーンズの《Large Vase of Flowers(大きな花びん)》(1991)を出品した。

この夜、2番目の高値で落札されたのは、1997年以来、記録から消えていたデイヴィッド・ホックニーの《Four Empty Vases(4つの空いた花瓶)》(1996)。3分間の競り合いののち、350万ドルから550万ドル(約5億4000万〜8億5000万円)の予想落札額を大きく上回る710万ドル(約11億円)、手数料込み860万ドル(約13億2000万円)で、会場の参加者が落札している。

ジェフ・クーンズ《Large Vase of Flowers》(1991)。Photo: Christie's Images LTD 2024

ジェフ・クーンズは、落札額トップ10に2作品が入るという人気ぶりで、ジョアノーが出品した《Large Vase of Flowers》は3位に入った。これはカラフルに彩色された木彫作品で、高さが120センチほどある。予想額は600万ドルから800万ドル(約9億2000万〜12億3000万円)で、第三者保証が付いていたが、オークション開始から2分半後には680万ドル(約10億5000万円)、手数料込み820万ドル(12億6000万円)で落札された。

エディション数3のアーティストプルーフであるこの彫刻を、ジョアノーは1993年にクーンズ本人から入手。その後、2014年から15年にかけて開催されたクーンズの回顧展を含め、19の美術館展で展示された。2009年にはクリスティーズ・ニューヨークで、別のエディションの作品が予想最高額600万ドル(約9億2000万円)に迫る570万ドル(約8億8000万円)で落札された。花のモチーフについて、作者のクーンズはこう語っている。

「子どもの頃に美術教室で学んで以来、ずっと花を描いています。私は、花がただそこにあって自らの姿を見せているという感覚が好きなのです。花を見る者は、その中に優美さを見出します。花は生命が前進していくことの象徴です」

もう1つトップ10に入ったクーンズ作品は、オークションの6番目に登場した。《New Hoover Celebrity IV, New Hoover Convertible, New Shelton 5 Gallon Wet/Dry, New Shelton 10 Gallon Wet/Dry Doubledecker(ニュー・フーバー・セレブリティIV、ニュー・フーバー・コンバーティブル、ニュー・シェルトン5ガロン・ウェット/ドライ、ニュー・シェルトン10ガロン・ウェット/ドライ・ダブルデッカー)》(1981-1986)というこの作品は、さまざまなタイプの掃除機をガラスケースに入れたもの。350万ドルから550万ドル(約5億4000万〜8億5000万円)の値が付くと予想されていたが、90秒間の競り合いの末、420万ドル(約6億5000万円)、手数料込み510万ドル(約7億8500万円)で決着した。

出品者のブラントがこの作品を手にしたのは、1991年のサザビーズ・ニューヨークのオークションで、価格は13万7500ドル(約2100万円)。そのときの売主は、イギリスの大手広告会社創業者、チャールズ・サーチだった。2013年のオークションでは、予想最高額1500万ドル(約23億円)だったが不落札。2017年には予想最高額が1000万ドル(約15億4000万円)に引き下げられたが、落札額は手数料込み640万ドル(約9億8500万円)で、結局買い手がキャンセルしたという経緯がある。

草間彌生《Pumpkin(南瓜)》(2022)。Photo: Christie's Images LTD 2024

女性アーティストの作品がトップ10の4位と5位に

落札額トップ10のうち、女性アーティストによるものは2作品。まず、草間彌生の《Pumpkin(南瓜)》(2022)は、トレードマークであるカボチャの作品の中でも最大級の大きさ(幅245センチ)で、予想額は600万ドルから800万ドル(約9億2000万~12億3000万円)とされていた。入札開始から1分後、予想最低額を下回る560万ドル(約8億6000万円)、手数料込みで680万ドル(約10億5000万円)で落札されたが、結果としてはこの夜4番目の高額作品となった。カボチャの彫刻のオークションでの最高落札額は、2023年に香港のサザビーズで同程度の大きさの《Pumpkin (L)(南瓜 [L] )》(2014)が出品されたときの800万ドル(12億3000万円)。作者の草間はかつて、「カボチャは私に語りかけてくる」と発言している。

5位に入ったのは、イギリス系アメリカ人の画家、セシリー・ブラウンの《The Butcher and the Policeman(肉屋と警官)》(2013)で、売主はこれを2014年に購入している。ジョゼフ・コンラッドの小説『闇の奥』の一節から名付けられた高さ約170センチのこの作品は、予想額400万ドルから600万ドル(約6億1600万〜9億2000万円)のところ、3分半続いた競り合いの末、490万ドル(約7億5500万円)、手数料込み600万ドル(約9億2000万)で落札。これは、2018年にニューヨークのサザビーズで幅280センチの《Suddenly Last Summer》(1999)が達成した680万ドル(約10億5000万円)の自己最高額にわずかに届かなかった。ブラウンは昨年、ニューヨークのメトロポリタン美術館で回顧展が開かれ、現在はダラス美術館で別の展覧会が開催中。さらに、来年にはフィラデルフィアのバーンズ・コレクションでも個展が予定されている。

落札額トップ10に入ったその他の作品は以下の通り。

デイヴィッド・ハモンズの彫刻《Untitled (Flight Fantasy)(無題 [フライト・ファンタジー] )》(1978年頃)、390万ドル(約6億円)
ジョージ・コンドの絵画《The Executives and Their Wives(エグゼクティブとその妻たち)》(2011)、390万ドル(約6億円)
キース・ヘリングの彫刻《Untitled (Hollywood African Mask)(無題 [ハリウッド・アフリカン・マスク] )(1987)、320万ドル(約4億9000万円)
ラシード・ジョンソンの絵画《Triptych “Box of Rain”(三連画「ボックス・オブ・レイン」)》(2020-2022)、270万ドル(約4億1600万円)

(翻訳:清水玲奈)

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