ラインホルト・ヴュルト(Reinhold Würth)
拠点:ドイツ・キュンツェルザウ
職業:自動車・運送・金属・電機・住宅・建設関連用品(Würth Group)
収集分野:近現代アート、戦後美術、中世美術
ラインホルト・ヴュルトが初めて絵画を手に入れたのは1964年。ドイツの表現主義画家、エミール・ノルデの作品で、今も彼のコレクションに収められている。ただしこの作品が例外的なわけではなく、彼はこれまで購入した1万8300点の作品を全て保有し続けており、2016年にはベルリンの美術館、グロピウス・バウで大規模なコレクション展を開催した。
これほどの数になると、普通なら保管をどうするかに頭を悩ませることになるだろう。しかしヴュルトの場合、所有作品をドイツとスイスにある4つの美術館で公開しているほか、自らが経営する企業グループの社屋にも展示することでこの問題をクリアしている。
彼は、2020年6月にもドイツのキュンツェルザウに、デイヴィッド・チッパーフィールド・アーキテクツ設計のヴュルト美術館別館をオープン。3900万ユーロ(約56億円)をかけて、新たに5500平方メートルの増築を行った。こけら落としの展覧会「The Long View: Reinhold Würth and His Art Collection」では、ヴュルトの膨大な近現代アートのコレクションから約150点が展示されている。
ヴュルトのコレクションには、エルンスト・ルートヴィヒ・キルヒナー、ゲオルク・バゼリッツ、ロイ・リキテンスタイン、ゲルハルト・リヒター、エミール・ノルデ、マックス・ベックマンなどの傑作が並ぶが、2010年にハインリヒ・カンペンドンクとマックス・エルンストの贋作が2点含まれていたことが分かった。両作品ともに天才贋作師であるヴォルフガング・ベルトラッキによって描かれたもので、ベルトラッキは後に6年の実刑判決を受けた。
ヴュルトはまた、ハンス・ホルバイン(子)作の聖母マリアの絵を、2011年にプライベートセールで手に入れた。ドイツ・ルネサンス美術の中でも最も価値の高いものの1つとされるこの作品の正確な価格は不明だが、専門家の間では6000万ドル(約87億円)以上と見られている(当時のオークション以外での最高販売額)。最近では、マックス・ベックマンの《Water Tower in Holland》(1942)や、ロイ・リキテンスタインの《Metallic Brushstroke Head》(1994)などがコレクションに加わった。
注:記事中の円換算額は、US版ARTnewsで2022年版トップ200コレクターズが発表された2022年10月時点の為替レートによる。