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イスラエルとの関係を糾弾された芸術団体創設者が辞任。辞任は「信念に基づく抗議」

イギリスのアート界では、イスラエルとの政治的・金銭的関係を指摘される人物や団体と決別するよう求める動きが続いている。そんな中、糾弾の対象となっている主要な芸術団体の創設者が理事会からの辞任を発表した。

2021年9月27日、イギリス・ロンドンの財務大臣官邸で行われたルバイナ・ヒミッド作品の除幕式に出席したキャンディダ・ガートラー。Photo: Tristan Fewings/Getty Images for Outset Contemporary Art Fund

イギリスの芸術慈善団体、アウトセット現代美術基金の共同設立者であるキャンディダ・ガートラーが同基金の理事会を辞任し、イギリスの芸術関連機関における全役職から退いたことを11月29日付のアートニュースペーパー紙が報じている。

この動きは、イスラエルと政治的・金銭的関係があるとされる芸術団体との決別を訴え、1100人以上のアーティストやアート関係者が公開書簡に署名したことを受けたもの。12月3日のターナー賞授賞式に先立ってテートの幹部宛に提出された書簡の署名者には、2024年度のターナー賞ファイナリストであるジャスリーン・カウルのほか、ヘレン・キャモック、ローレンス・アブ・ハムダン、シャーロット・プロジャーといった過去の受賞者たちが名を連ねている。

公開書簡でイスラエルとの関係を名指しされたのは、ザブルドヴィチ・アート・トラスト、ザブルドヴィチ・アート・プロジェクト、アウトセット現代美術基金の3団体で、アートパトロンのアニタ&ポジュ・ザブルドヴィチ夫妻とキャンディダ・ガートラーによってそれぞれ運営されている。

ARTnews日本版でも11月26日に伝えたように、書簡ではイスラエルの軍事行動がジェノサイドおよびアパルトヘイトにあたると認めた国際司法裁判所と国連の調査結果が引用され、上記3団体の創設者がイスラエルのガザ地区におけるジェノサイド政策に関与していることを非難。イスラエルの政策については、アムネスティ・インターナショナルもアパルトヘイトの犯罪にあたると指摘している。

さらに同書簡では、ザブルドヴィチ・アート・トラストとアウトセット現代美術基金が、倫理的に疑わしい政治的関係をごまかすために、美術館やアーティストとのパートナーシップを利用する「アートウォッシング」を行っているとも訴えている。

3団体はともに公開書簡についてのコメントを避けているが、ザブルドヴィチ夫妻は2023年に声明を出していると弁明。声明では二者間での解決を支持するとして、「イスラエルとガザで繰り広げられている恐ろしい戦争に深い悲しみを覚え、心を痛めている」と述べられていた。

イギリスではこのほかにも、イスラエルとの関係が疑われる人物との関係断絶を求める運動が行われてきた。ゴールドスミス・カレッジでは今春以来、親パレスチナ派の学生たちがゴールドスミス現代美術センター(CCA)に寄付を行っているキャンディダ&ザック・ガートラー夫妻との関係解消を要求。5〜6月にかけては、抗議の一環としてCCAを一時占拠した。学生たちはガートラー夫妻にイスラエルのネタニヤフ首相との個人的なつながりがあり、その政治運動に資金援助をしていると主張し、CCA占拠中にはガートラー夫妻の名前が寄付者ボードから削除されている。

一方、キャンディダ・ガートラーは声明で、辞任は反ユダヤ主義、そしてアート施設における「憎しみの常態化」と自らが名付けた事態に対する「信念に基づく抗議」であると述べている。また、ナチス・ドイツ時代のユダヤ人迫害を挙げ、その事実への追悼とともに、文化施設が偏見との闘いを怠っていることへの批判が辞任の理由であるとした。さらに彼女は、社会から疎外されたコミュニティや芸術家のコミュニティが、包摂性や倫理性を遵守できない文化施設に見捨てられる可能性があるとの懸念を表明している。

アートニュースペーパー紙によると、アウトセット基金イギリス支部の理事会は、辞任に関する声明の中で、ガートラーのアートフィランソロピーにおける「先見的なアプローチ」を称賛し、その退任を遺憾だとしている。同理事会はまた、現代アートを支援し、アーティスト、資金提供者、文化施設の間の対話を促進するのがアウトセット基金の使命であることを改めて示している。

なお、アウトセット基金とザブルドヴィチ夫妻にコメントを求めたが、本記事公開時点では回答を得られていない。(翻訳:石井佳子)

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