新たに世界遺産に登録された14の遺産をレビュー! ヴェネチアは危機遺産指定を回避
国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産委員会は、ウクライナ、中国、エチオピア、パレスチナなどの歴史的または芸術的に重要な遺跡を、新たに世界遺産リスト、危機遺産リストに登録した。国連加盟国21カ国の代表で構成される同委員会は、サウジアラビアのリヤドで開催された会議の第2週目にあたる9月17日、投票を行って追加登録を決めた。
世界遺産リストの中には、イラン国内の24の州に点在している歴史建築、キャラバンサライ(旅人のための隊商宿や休憩所として使われた施設)54カ所が含まれる。キャラバンサライは、アジアとアフリカ、ヨーロッパを結ぶ交易路のネットワークに沿っている。これらの交易路のうち最も有名なルートが、シルクロードだ。
イスラエル占領下のヨルダン川西岸にあり、パレスチナの都市エリコの近郊に位置するテル・エス・スルタン遺跡も、世界遺産に新たに登録された。この決定は、2019年にユネスコを脱退したイスラエルの怒りを買った。エルサレム・ポスト紙が9月17日に発表した声明の中で、イスラエル政府のスポークスマンは、今回の加盟を「(ユネスコが)パレスチナ人を皮肉なやり方で利用していることの現れ」として非難した。
意外な動きとしては、地盤の脆弱化が危惧されるヴェネチアが、危機遺産リストに追加されなかったことだ。今年7月、ユネスコ世界遺産委員会は、ヴェネチアがオーバーツーリズム(観光公害)と気候変動の影響を緩和するための十分な対策をとっていないとして、危機遺産リストへの追加を検討していた。ヴェネチアのルイジ・ブルグナーロ市長は、この投票結果に満足しているようで、14日、X(旧Twitter)に「ユネスコで大勝利……ヴェネチアは危機に瀕していない」と投稿している。ブルグナーロ市長は以前、ヴェネチアを危機遺産リストに登録しようとする動きについて、「純粋に政治的な意図によるもの」と批判していた。
世界遺産委員会は今回、世界遺産リストに登録されているウクライナの複数の遺跡を新たに危機リストに追加する決定を下した。新たにリストに加わったのは、キーウの聖ソフィア大聖堂とキエフ・ペチェールシク・ラヴラ修道院、そしてリヴィウ市の歴史的な旧市街だ。ユネスコの声明によれば、この決定は「ロシアの攻勢がもたらす破壊の脅威を受けて」下された。
以下、今回ユネスコが新たに登録した世界遺産を見ていこう。
1. プレー山およびマルティニーク北部の尖峰群の火山・森林群(フランス海外県)*世
マルティニーク島における1902年から1905年にかけての一連の火山噴火は、火山学史上、画期的な出来事であり、マルティニーク、特にサンピエールの町の文化に永続的な影響を残した。この地域の文化的意義をさらに高めているのは、カエルの「Martinique Volcano Frog(学名Allobates chalcopis)」、ヘビの「Lacépède’s Ground Snake(学名Erythrolamprus cursor)」、固有種の野鳥「マルチニクムクドリモドキ(学名Icterus bonana)」など、世界的に絶滅の危機に瀕している種が豊富に生息していること。
2. オザラ・コクアの森林山塊(コンゴ共和国)*世
ユネスコは、この一帯の森林は「サバンナ生態系の氷河期後の森林再植林のプロセスを、ほかにないくらい大規模に実現した優れた例」としている。サバンナ生態系にはコンゴの森林、ギニア南部の森、サバンナが含まれ、それぞれに多様な動植物が見られるが、生息数は減少している。また、中央アフリカで最も重要なマルミミゾウの生息域でもある。
3. クルディーガの旧市街(ラトビア)*世
ラトビア西部に位置するクルディーガ旧市街は、ラトビアの伝統的な建築様式と外国の影響を受けた様式が融合した街並みが見られ、非常に保存状態がよい。ここは16世紀から18世紀にかけて地域全体の行政の重要な拠点であり、深い文化交流が行われていたことを示す例が、街角のいたるところに見られる。
4. エアフルトの中世ユダヤ人関連遺産(ドイツ)*世
ドイツ、テューリンゲン州の州都エアフルトの歴史的中心部に位置するこの施設は、旧シナゴーグ、ミクヴェ(ユダヤ教の沐浴施設)、ストーンハウスの3つのランドマークで構成されている。11世紀末から14世紀半ばにかけて、エアフルトのユダヤ人コミュニティが、中央ヨーロッパの多数派だったキリスト教徒たちと混ざり合っていたことが窺える。
5. ヴァイキング時代の円形要塞群(デンマーク)*世
ここでは、5つの遺跡に、大規模なリング状のヴァイキング時代の要塞の複合体が含まれ、いずれにも不思議な幾何学的なデザインが見られる。これらの要塞(アッガースボー、フュアカト、ノンネバッケン、トレルボルグ、ボルグリングにある)は、紀元970年から980年の間に建設され、重要な陸路と海路の近くに建設された。地域の自然の地形を利用して造られていて、まるで地面から浮き上がったかのように見える。
6. トロンデック=クロンダイク(カナダ)*世
ユーコン川沿いに位置するトロンデック=クロンダイクは、カナダ北西部の亜寒帯地域に居住する先住民族トロンデック・フェッチン族の故郷である。19世紀末のクロンダイク・ゴールドラッシュの結果、先住民コミュニティが前代未聞の社会的変化を余儀なくされた事実については、数々の考古学的・歴史的資料が詳しく物語っている。
7. ペルシャのキャラバンサライ(イラン・イスラム共和国)*世
このリストの中には、イランの24の州に点在する54の歴史的なキャラバンサライ(旅人のための道端の宿や避難所のようなもの)が含まれている。キャラバンサライは、アジアとアフリカ、ヨーロッパを結ぶ交易路のネットワークに沿って並んでおり、最も有名なものはシルクロードである。
8. サンティニケタン(インド)*世
影響力のある詩人・哲学者であるラビンドラナート・タゴールは、古代インドの芸術の伝統と、学問を通じて人々が宗教や文化の違いを超越できるという希望に基づき、1901年に西ベンガルに全寮制の学校およびセンターとして、シャーンティニケタンを設立した。「ヴィシュヴァ・バーラティ」と呼ばれる人類統一の原則に基づき、1921年にいわゆる「世界大学」がここに設立された。時代背景にもかかわらず、建物はイギリスの植民地時代の建築様式やヨーロッパのモダニズムの流れをはねのけ、汎アジア的なモダニティを表現した実験的な建築となっている。
9. 普洱(プーアル)、景邁山古茶林の文化的景観(中国)*世
ブラン族とダイ族によって1000年以上にわたって耕作されてきた古茶樹が立ち並ぶ林の文化的景観も、新たに世界遺産に選ばれた。「古茶樹を森林の下層で栽培する伝統的な農法は、山の生態系と亜熱帯モンスーン気候の特殊な条件に対応する方法であり、地元の先住民コミュニティが維持する統治システムと結びついている」とユネスコは評価している。
10. 加耶古墳群(韓国)*世
加耶古墳群は、紀元1世紀から6世紀にかけて朝鮮半島南部に形成された加耶連邦に典型的な古墳を含む考古学的墓地遺跡である。空間的に階層を設けた構造と、美的な特徴は、伽耶の政治体制について多くを物語る非常に重要な遺跡となっている。
11. 鹿石および青銅器時代の関連遺跡(モンゴル)*世
紀元前1200年頃から600年頃まで、鹿や鹿の彫刻が施された石標、いわゆる「鹿石」は、中央モンゴル民族の葬送儀礼において重要な役割を果たしていた。これらの石標は、ほとんどの場合、儀礼的な塚やヘレクスル(積石塚)、犠牲祭壇を含む複合的な遺跡の中に立っている。
12. ケル島の古代リンガプラ(チョック・ガルギャー)の考古遺跡(カンボジア)*世
ケル島遺跡は、彫刻、壁画、碑文が散在する寺院と聖域の複合体である。ケル島は、アンコールとともに、クメール帝国の2つの首都のうちのひとつで、928年〜944年には唯一の権力を持つ首都だった。
13. ゲデオの文化的景観(エチオピア)*世
ここは「農業森林」が広がり、エチオピア大地溝帯の東側、エチオピア高地の急峻な端に位置するエリアだ。長年にわたってこの地域を守りながら暮らしているゲデオ族にとっては大切な聖域である。ゲデオ族の伝統的な栽培技術によって、コーヒーの木の生育に欠かせない貴重な土着の穀物、エンセットが保護されている。
14. シルクロードのザラフシャン・カラクム回廊(タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン)*世
ザラフシャン・カラクム回廊は、中央アジアにおけるシルクロードの重要な区間であり、古代の交易路をありとあらゆる方向からつないでいる。ザラフシャン川に沿って東西に走り、肥沃な河谷、荒涼とした砂漠、水が豊かなオアシスが結びつくルートになっている。(翻訳:清水玲奈)
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