ユネスコが世界初の略奪文化財バーチャルミュージアム設計案を発表。不正取引や保護への意識向上を狙う
10月初旬にユネスコ(国際連合教育科学文化機関)は、略奪文化財を展示するバーチャルミュージアムの設計案を発表した。2022年9月に明らかになった同ミュージアムの設立計画が、一歩実現に近づいた形だ。
250万ドル(約3億7000万円)が投じられるバーチャルミュージアムは、ユネスコがインターポール(国際刑事警察機構)をはじめ世界各国と協力して進めているプロジェクト。第1ラウンドの資金はサウジアラビアから提供された。
「このバーチャルミュージアムは、関係当局、文化分野の関係者、若い世代を中心とする一般市民に、不正取引や文化遺産保護の重要性への意識を高めてもらうための画期的なツールとなるだろう」と、ユネスコは発表の中で強調した。
設計を行ったのは、2022年にプリツカー賞を受賞したブルキナファソ出身の建築家、フランシス・ケレ。この人選について、ユネスコのオードリー・アズレー事務局長は、アートネットニュースにこう語った。
「本プロジェクトでは、従来の常識を覆すことのできる建築家、既成概念にとらわれずに空間をデザインできる建築家、有形のものと無形のものを密接に結びつけることのできる建築家が必要でした」
バーチャルミュージアムのデザインは、そびえ立つバオバブの木を思わせるものだ。アフリカ原産の高木であるバオバブは、葉や果実を食用にするほか、樹皮を家の壁に用いるなどさまざまな活用法があり、聖なる木とされている。
設計案では、太い幹と横に広がった短い枝を持つバオバブの特徴的なシルエットをベースに、フランク・ロイド・ライト設計のグッゲンハイム美術館を象徴するドーム状空間の要素も取り入れられている。
バーチャルミュージアムの中では、3Dで詳細に再現された文化財が鑑賞できる。各文化財は、それが元あった国による証言など、文化的意義を示す文献とともに展示される計画だ。
バーチャルミュージアムのオープンは2025年に予定されているが、英ガーディアン紙によると、ユネスコは開館時のコレクションを構成する作品を直前まで公開しないという。ユネスコのアズレー事務局長は、同紙にこう語っている。
「略奪文化財は、どれもその背後にある歴史やアイデンティティ、人間性などを伝えるもの。それらが本来保管すべき人々から引き離され、研究の機会が失われ、忘却の彼方へと追いやられる危険性があるのです」(翻訳:石井佳子)
from ARTnews