80代の匿名男性、23億円のダ・ヴィンチ作品をついに売却? 仏政府との約7年におよぶ裁判に勝利
父親から相続したレオナルド・ダ・ヴィンチの素描を売却する権利をめぐり、フランス文化省と長年争ってきた80代の男性が勝訴した。
裁判資料にA.B.というイニシャルで記される80代の男性が売却を試みたのは、レオナルド・ダ・ヴィンチによる素描。木に縛り付けられた聖セバスチャンを描いたもので、裏面には、陰影の研究に関するダ・ヴィンチ本人のメモや図が残されている。
男性はこの素描をパリのオークション会社、タジャンを通じて売却するため、2016年にフランス政府に輸出許可を申請した。しかし文化省は当初、ダ・ヴィンチの素描は国宝であるとして輸出許可申請を拒否。というのも、フランスの法律では「国家的な重要性がある」と見なされる貴重な美術品や文化財については、売り手が政府から輸出許可を取得することが義務付けられており、行政当局は、輸出証明書の拒否を行う権限を付与されているのだ。
そのうえで同省は、ルーブル美術館に代わって1000万ユーロ(現在の為替レートで約15億9000万円、以下同)で作品を買い取ることを提案したが、A.B.はその申し出を退けていた。
その後、この作品は文化省側とA.B.側の2人の専門家による鑑定に基づき、およそ1560万ドル(約23億円)の価値があると判断された。
このとき同省は、少なくとも従来の方法では当該作品に関する法的追求を継続しないとしたが、A.B.が2021年に新たな輸出許可を申請した際、当時のロゼリン・バシュロ文化相は、この作品が盗品であることを暗に伝える手紙をA.B.に送ったうえで、合法的に入手されたものであることを証明するよう要求した。
A.B.は弁護士を通じて同省に書簡を送り対抗したが、文化省はこれを無視。A.B.はやむを得ず、同省に証明書の提出を強制する差し止め命令を裁判所に求めていた。
裁判所は今年10月20日にこの差し止め命令を認め、同省が60日以内に輸出許可を与えること、そしてA.B.の訴訟費用2000ユーロ(約32万円)を負担するよう求めた。(翻訳:石井佳子)
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