ハイパーリアルな色鉛筆ドローイング。Cj ヘンドリーが語る色へのこだわり

遠くからは淡いゴールドに見えるこの作品。オーストラリア出身で、ニューヨークブルックリンを拠点に活動するCj ヘンドリーが、プラチナブロンドのウィッグを描いたドローイング《Andrew(アンドリュー)》は、実際には黄色をほとんど使っていない。「茶色と黒が多いけれど、作品全体ではブロンドに見えるんです」。最近スタジオを訪問した時、彼女はそう教えてくれた。

Cj ヘンドリー《Andrew(アンドリュー)》 Photo courtesy of the artistCj ヘンドリー《Andrew(アンドリュー)》 Photo courtesy of the artist

ヘンドリーは2017年からペンや色鉛筆で描いた、ハイパーリアリズムのドローイングで知られる。インスタグラムで作品を投稿・販売し、ちょっと変わった場所での展覧会を自ら企画して活動資金を得ている。

たとえば、心理テストで使われる絵をモチーフにした「ロールシャッハ」シリーズの展示は、城の形をした空気圧式のトランポリンで行われたが、これは精神病棟にある(患者がケガをしないよう)クッション材を敷き詰めた部屋に見立てたもの。「モノクローム」シリーズの展示では、くしゃくしゃにしたパントン社の色見本チップを描いたドローイングを、それぞれの作品と同色のプラスチックレンガで組み立てた部屋に配置した。2021年12月に行われた最新の個展では、チョコレートのポップアップストアでウィッグのドローイングを展示している。

Cj ヘンドリー《Ralph(ラルフ)》 Photo courtesy of the artistCj ヘンドリー《Ralph(ラルフ)》 Photo courtesy of the artist

ヘンドリーのドローイングはどれも、1枚の写真から起こしていく。「参考画像を送ってもらえないかとよく聞かれるけれど、自分で撮ればいいでしょって思うんです。一つ一つに、相当な労力がかかっていますから」。彼女の作品はかなり大きいものが多いので、まず写真を完成作品の半分の大きさでプリントする。そして、一般的なグリッド技法を用いて、描く対象を紙の上に拡大していく。

ヘンドリーの描くモチーフは、有名デザイナーのスニーカーやグッチのバッグから、巨大な絵具の塊、花、魚介類まで幅広く、それらをシリーズで制作している。また、対象物の色や質感だけでなく、その物が持つ社会的な意味への関心も作品に反映されている。たとえば、ウィッグは人を変身させられるという点に引かれたとヘンドリーは言う。「自分がなりたいキャラクターになれるのが一つ。それに、トランスジェンダーやガン患者の人たちにもウィッグは使われています」

Cj ヘンドリー《Nathan(ネイサン)》 Photo courtesy of the artistCj ヘンドリー《Nathan(ネイサン)》 Photo courtesy of the artist

ヘンドリーにとって、ドローイングでは線よりも明暗が重要だ。「私が取り組んでいるのは奥行き感を出すことで、色付けはパッと見よりもずっと暗いんです」。このことに気がついたのは、色鉛筆を使った描き方を教えるユーチューブ動画を見ていた時だという。「動画の中で描いていたのは(緑色の)リンゴなんですが、本物らしくは見えなかった。なぜかというと、ライムグリーンの色鉛筆を使っていたからです」とヘンドリーは話す。「リンゴの表面には茶色が多く、ワインレッドも少し入っているけれど、明るいグリーンじゃない」。明暗を出すのには筆圧を変えることも必要だ。それぞれのドローイングにいくつ色の層があるかは分からないが、一色に見えるものには20の異なる色合いが使われているという。

ヘンドリーは材料の質にこだわりを持っている。アートの道に進もうと決めた時は、シャネルのブティックで働いていた間に集めたラグジュアリーグッズを売って、良質の画材を手に入れた。「お金に恵まれた環境で育ったわけではないけれど、つまらないものをたくさん持つより、本当に価値があるものを少し持つほうがいいんです」とヘンドリーは語る。「だから、始めたばかりだからといって、プリント用紙にボールペンで描くようなことはしたくなかった。日本の美しいペンが欲しい、すばらしいコットン紙が欲しいと思いました」

Cj ヘンドリー《Rodney(ロドニー)》 Photo courtesy of the artistCj ヘンドリー《Rodney(ロドニー)》 Photo courtesy of the artist

ヘンドリーは、「カランダッシュ」ブランドの色鉛筆を使っている。「滑らかな描き心地が本当に気に入っているので。ただ、色鉛筆は色数が決まっているので、カランダッシュにない色は他のメーカーのもので補うんです」。そのために使うのは、プリズマカラーとウィンザー&ニュートンだ。「最初の頃はプリズマカラーの色鉛筆を使っていたけれど、ワックス分が多く、細かいところが思うように描けなかった」とヘンドリーは説明する。「それでカランダッシュに変えたんです。カランダッシュのパブロシリーズの色鉛筆は固いので細かい描写に適しているし、広い面をカバーするにはソフトなルミナンスシリーズを使います」。彼女のスタジオには、小さな木箱が積み重なった棚があり、それぞれの箱に1、2色の色鉛筆が入っている。

Cj ヘンドリー、制作中の《Peter(ピーター)》 Photo courtesy of the artistCj ヘンドリー、制作中の《Peter(ピーター)》 Photo courtesy of the artist

制作プロセスや画材にこだわりながらも、ヘンドリーは自分のアートをベーシックなものだと言う。「文字通り、見たままのものなんです。私のドローイングを見て、これは何だろうと考え込むことはないでしょう。単にカツラなんですから」(翻訳:平林まき)

※本記事は、米国版ARTnewsに2022年1月12日に掲載されました。元記事はこちら

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