「コミュニティへの帰属意識を大切にしたい」──ユーリ・ファン・デル・リースト(Yuri van der Leest)【アート界が注目するアジアの若手コレクター Vol.3】
今年34回目を迎えたUS版ARTnewsの名物企画「TOP 200 COLLECTORS」の中でも今年の注目は、アジアで台頭著しい若手コレクターの存在。その面々を紹介する企画の第3弾は、アートコレクションの醍醐味を「かゆいところに手が届くもの」と語るユーリ・ファン・デル・リースト。
拠点:香港
職業:広報・アドバイザリー企業
収集分野:現代アート(絵画、写真、版画、彫刻、ファブリックを素材とする作品)
愛する香港にゆかりのある作品を収集
ユーリ・ファン・デル・リーストがアート作品の収集を始めたのは、10年ほど前に中国の写真家、故ファン・ホーが香港の銅鑼湾(コーズウェイベイ)を撮影した1953年の作品に出会ったことがきっかけだった。この作品に魅了された彼は、ファン・ホーのビンテージプリントの収集に夢中になったという。
「私にとってアートコレクションは、いわば『かゆいところに手が届く』ものだと気づいたのです。その魅力は、歴史、美学、工芸/技術、人類学、政治、哲学、経済など、さまざまな要素が統合されたコンセプチュアルな視点です」
そう語るファン・デル・リーストは、やがて他のアーティストでも同じような体験ができると感じ、さまざまな作品を購入するようになった。コレクションは現在約135点にのぼるが、その中心を占めるのは香港に関連するアート作品だ。2022年には香港のロッシ&ロッシ・ギャラリーの展覧会「A Collection in Two Acts」で、彼のコレクションが公開されている。
初期の購入作品には、マレーシア人アーティスト、ラム・シオン・オンが香港のビクトリア・ハーバーを描いたキュビスム風の水彩画がある。「ある意味、のちに私のコレクションの『モード』となった路線とは異なる作品です」とファン・デル・リーストは振り返る。
「しかし、私が愛してやまない香港を描いていますし、私という人間の深い部分を占めるコレクションの発端となった作品なので思い入れがあります」
重要なのは感覚に訴えかけてくるかどうか
ファン・デル・リーストのコレクター魂は、親譲りとも言える。彼の父親は約130点のポンプオルガンを収集し、そのコレクションを収めるため、自宅の裏に専用の博物館を建てたほどだ。
「父は地元をくまなく回って、自分がこれまでに持っていないものや変わった特徴のあるポンプオルガンを次々と手に入れていました。自ら、教会でポンプオルガンの修理をすることもあったようです。ネズミは教会のオルガンが大好きなんだ! というのが父の口癖でした」
こうした父親の影響で、ファン・デル・リーストは1950年代〜60年代のコミックを集めるようになり、地元のコミックショップで同じ趣味を持つ仲間にも出会った。アートの世界でも同様に、アーティスト、ディーラー、コレクターたちのコミュニティへの帰属意識を感じている。
今年のアート・バーゼル香港で、ファン・デル・リーストは香港を拠点とする2人のアーティストの作品を購入した。ヤン・ドンルン(楊東龍)の静物画5点の連作と、ジャファ・ラムの彫刻《Equal=Unequal》(2020)だ(彼は2022年にもジャファ・ラムの別の作品を購入している)。
「ヤン・ドンルンは、香港のごく普通の人たちの日常生活とそれを取り巻く環境を、細部まで愛情を込めて、そして今までにない視点で捉えようとするアーティストです。一方でジャファ・ラムの作品は、コロナ禍の最初の年、自宅とアトリエに閉じこもり、自らの恐怖、不安、情熱、切なさを制作活動に注いでいた頃の経験を表現しています」
作品を購入するかどうか考えるときに彼は、自分の直感をベースにリサーチを行い、友人やディーラー、アーティストの話も参考にするという。
「しかし結局のところ、美的な側面は、アートと切り離すことのできないものだと思います。作品が美しくなくてはならないというわけではありません。不穏で人を不快にさせるような作品が、驚くほど力強いこともありますから。でも、見たときの印象や構成、素材が自分の感覚に訴えかけてくるかどうかを、何よりも大切にしています」
アート作品を買い始めた頃は、「自分のコレクションに合うかどうかを考えずに、気に入ったものはほとんど全て買っていました」と、ファン・デル・リーストは打ち明ける。
「これではダメじゃないかと、しばらく悩んだこともあります。でも、振り返ってみると、心配する必要はありませんでした。何年もかけて、より多くのものを見たり探したりするうちに、自分の好みが成熟していき、テーマが浮かび上がってくるのが分かったのです」(翻訳:清水玲奈)
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