老婦人のキッチンにあった「幻の傑作」を、ついにルーブル美術館が取得。30カ月に及ぶ資金調達に成功
13世紀末イタリアの画家チマブーエの幻の傑作であることが判明した絵画は、かつてフランスの一般家庭のキッチンに掛けられていた。2019年のオークションで競り負けたルーブル美術館が、30カ月の「異例」の資金調達を経て、このほどついに取得に至った。
チマブーエによる《嘲笑されるキリスト》(1280年頃)は、十字架にかけられる前のイエス・キリストが嘲笑される様子を、10インチ(約25センチ)強のポプラ材の支持体に金箔を使って描いたもの。専門家によると、この絵画はチマブーエがキリストの伝説的な場面を描いた8つの連作のうちの1つであることがわかっている。ニューヨークのフリック・コレクションとロンドンのナショナル・ギャラリーがそのうちの1点をそれぞれ所蔵しているが、残りの5点は行方不明のままだ。
ガーディアン紙によると、この作品はかつて年配のフランス人女性が所有しており、キッチンのコンロの上に掛けられていた。ある時、女性は家の整理のためこの絵を捨ててしまおうと考えたが、幸運な気まぐれで美術専門家に鑑定を依頼してみたところ、40万ユーロ(現在の為替で約6500万円)という見積もりが返ってきた。さらに別の専門家に再鑑定を依頼した結果、本物のチマブーエであることが判明したのだ。
こうして《嘲笑されるキリスト》は、2019年にパリ郊外のセンリスにあるオークションハウス、アクテオンに出品された。当時、ルーブル美術館はこの絵を手に入れようと入札合戦に参加したが落札できず、別の入札者が手数料込み2400万ユーロ(現在の為替で約39億円)で競り落とした。この記録は、オークションに出品された中世の絵画としては史上最高額、オールドマスターの作品としては8番目に高い落札額となり、チマブーエはレオナルド・ダ・ヴィンチやラファエロの作品と並ぶことになった。
アクテオンのドミニク・ルコアン代表は当時発表した声明で、「市場に出た唯一のチマブーエ作品でしょう。チマブーエのような希少な画家のユニークな作品がオークションに出る時は、心算が必要です。その落札金額に驚嘆するでしょうから」と語った。
残念なことに、元の所有者であった女性は90代と高齢で、オークションの2日後に亡くなってしまったが、同年、フランス政府は《嘲笑されるキリスト》をフランスに留め置くため本作を国宝に指定し、一時的な輸出禁止措置をとった。その間、ルーブル美術館は30カ月かけて購入資金を工面し、ついに今回購入に至ったというわけだ。
ルーブル美術館は、本作購入のための資金調達の詳細は明かしていないが、後援者に寄付金の免税を提案し「異例の動員」をかけたという。
同館によれば、《嘲笑されるキリスト》は2025年に開催される展覧会のメイン作品になる予定で、同館が所有する絵画の中で最も古い作品の一つとなる。(翻訳:編集部)
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