メルボルンの国立美術館、現代アートの新館建設に90億円超の個人寄付
オーストラリア・メルボルンにあるビクトリア国立美術館(NGV:National Gallery of Victoria)は、現代アートとデザインに特化した新館の建設を計画。政府が支出する建設費用が不足する中、オーストラリアの億万長者で慈善家の一家から、1億豪ドル(約93億円)という前例がない額の寄付を受けた。
新館「The Fox: NGV Contemporary(ザ・フォックス:NGVコンテンポラリー)」は、メルボルンのアート特区に建設される予定で、寄付者である物流業界の大物、リンゼイ・フォックスと、その妻でNGV財団理事のポーラにちなんで命名される。
ビクトリア州とその文化行政を監督するオーストラリア政府は、ビクトリア国立美術館を含むアート特区の拡張に17億豪ドル(約1600億円)を投じている。ビクトリア州が支援するサウスバンクのアート特区刷新事業のための予算は、2020年11月に確保されていた。
だが、ガーディアン紙の報じるところによると、新館建設費用が当初政府に承認された予算では足りないことが判明したため、同美術館は不足分を提供してくれる民間からの寄付を募ることになったという。
今回の寄付は、存命の人物によるオーストラリア国内の美術館への寄付としては最高額だ。フォックス家は20年にわたり、ビクトリア国立美術館に資金を提供してきた。このほかにも同美術館は、オーストラリアの著名な金融家が1964年に設立した慈善団体、イアン・ポッター財団から新館建設費用として2000万豪ドルの寄付を受けている。
サウスバンクにあるNGVインターナショナルの裏手に建てられる予定の新館は、ビクトリア国立美術館の3番目の建物となる。高さ40メートル超の円形ホールを含む、1万3000平方メートル以上の展示スペースが設けられる計画だ。設計者には、オーストラリアの建築事務所、アンジェロ・カンダレパス・アンド・アソシエイツが選ばれている。
161年の歴史を持つビクトリア国立美術館は、これまでも個人の篤志家からの寄付によって支えられてきた。薬剤師で実業家のアルフレッド・フェルトンは、1904年に亡くなった時に財産の半分を同美術館に寄付している。
今回の寄付で、ビクトリア国立美術館はより多くの来館者を迎えられるようになる。新館の開館でアート特区の動員数は100万人の増加が見込まれており、同美術館のトニー・エルウッド館長は、この施設が「世界的な観光名所、そしてこの地域を代表する文化施設となるだろう」とARTnewsに述べている。
メルボルンのアート特区のリニューアル計画が発表された2020年、ビクトリア州政府のダニエル・アンドリュース首相は声明の中で、この計画を「オーストラリアにおける過去最大の文化インフラ整備プロジェクト」と表現していた。なお、建設予定の新館では、現代アートのほかに、デザイン、ファッション、建築などに関する展示を行う予定だ。
エルウッド館長は、次のように述べている。「これほど大きな支援を得られるとは思っていなかった。美術館の161年の歴史においても、オーストラリアの文化事業においても、前例のない規模だ」(翻訳:野澤朋代)
※本記事は、米国版ARTnewsに2022年4月20日に掲載されました。元記事はこちら。