10のキーワードでおさらい! 村上隆の基本の「キ」

日本を代表する現代アーティストであり、キュレーターやコレクター、映画監督としての顔をもつ村上隆。2024年2月3日から京都市京セラ美術館で開催予定の8年ぶりの大規模個展「村上隆 もののけ 京都」を前に、10のキーワードで彼の活動を振り返る。

Photo: Kristy Sparow/Getty Images

1. アニメとマンガ

幼少期から漫画やアニメーション作品に夢中だった村上。その影響はアニメやフィギュアといったオタク文化に紐づいた作風にも見て取れる。そのひとつで、精液のような白い液体を放出する裸の青年の等身大フィギュア《My Lonesome Cowboy》(1998年)は、2008年のザザビーズのオークションで日本人アーティストとして最高額の16億円で落札された。また、等身大の美少女フィギュア「Hiropon」について、村上は高校時代を振り返り「当時、アニメから官能やファンタジーなど多くの要素を吸収した。そういう過程がこの作品を生み出した」と「CNN」の取材で語っている

2. 日本美術

村上は東京藝術大学で学び、専攻した日本画科では初の博士号取得者となった。博士論文のタイトルは『美術における「意味の無意味の意味」をめぐって』。浮世絵や琳派の構成は、のちに彼が提唱する「スーパーフラット」の原点となっている。2017年には、彼の作品とそのもとになった日本美術作品との関係を紐解く展覧会『Takashi Murakami: Lineage of Eccentrics』がボストン美術館で開催された。

3. スーパーフラット

スーパーフラットは、村上によって生み出された美術的概念。そのビジュアル上の特徴は、日本美術やアニメに見られるような平面的な構成だ。その原点について村上は、伊藤若冲の「群鶏図」や狩野山雪の「老梅図襖」を例に挙げている。ただし、スーパーフラットは必ずしもビジュアルの特徴だけを指すものではない。著書『SUPERFLAT』〈Kaikai Kiki〉のなかで村上は、敗戦後の日本を主題にオタクカルチャーやキャラクター文化と日本の美術史を結びつけて説明している。彼が「ハイアートも権威もサーもセレブレイトもカーストも無い日本文化の中の『芸術』」と語るように、美術と大衆芸術の位置関係がフラットであるという考え方や、戦後社会における日本社会における階級の均一性を表しているとも考察されている。

4. KaikaiKiki(カイカイキキ)

村上が2001年に創業した「アートの総合商社」。その前身は1996年に村上が制作スタジオとして設立したヒロポンファクトリーだ。現在は国内外で総勢250名の社員がアートや映像作品の制作、アーティストの発掘育成やマネジメント、ギャラリーや展覧会の運営などを行なっている。東京都元麻布の本社のほか、ニューヨークやシアトルに支社をもち、制作スタジオやギャラリー、グッズショップや喫茶店の「純喫茶ジンガロ」、CGアニメーションスタジオを擁する。

5. 逆輸入

マンガやゲームといった日本のカルチャーを芸術にし始めた村上。しかし、日本国内のアートシーンにおいては、「日本の文化にも良いところがあるのではないかということを主張し始めた途端に、否定されはじめた」と、著書『芸術闘争論』〈幻冬舎文庫〉のなかで語っている。これを機に、村上は欧米の美術市場において芸術家としての地位を戦略的に確立させることを決意した。2001年にロサンゼルス現代美術館でキュレーション展「Superflat」を開催し、2005年にニューヨークのジャパン・ソサエティで開催された「リトルボーイ:爆発する日本のサブカルチャー・アート展」では全米批評家連盟ベストキュレーション賞を受賞。個展は主に海外で開催している。2003年から2008年まで続いたルイ・ヴィトンとのコラボレーションは、日本においても村上の知名度を爆発的に上昇させるきっかけとなった。

*1 村上隆『芸術闘争論』〈幻冬舎文庫〉より

6. Mr.DOB(DOB君)

村上が1993年に生み出した大きな耳とつぶらな瞳が特徴的なキャラクター。名前の由来は、コメディアン由利徹のギャグ「おしゃまんべ」と、漫画『いなかっぺ大将』の「どぼじて、どぼじて」を無意味に組み合わせたフレーズ。変化し続ける村上の「分身」として知られるDOB君は、1996年から断続的に作られているシリーズ「727」やフィギュア、グッズなど、彼のキャリアを通して繰り返し登場している。

7. お花

一見すると無邪気に笑っているように見えるお花は、村上作品のアイコニックなモチーフの一つ。世界で最も有名なアートキャラクターの1つと言える。例えば前出の「リトルボーイ:爆発する日本のサブカルチャー・アート展」にも出品された《Time Bokan - Black》(2001年)は、ドクロの目の部分が花で構成されている。「ニューヨーク・タイムズ」紙は、この作品の中には「日本のアニメで頻繁に用いられる、建物を打ち砕くモンスターやキノコ雲の爆発に見られる、暴力と権力への魅惑と、その対極としての、ハローキティやその他の魅力的なキャラクターに代表される、いわゆる『Kawaii』への執着の中で展開される幼児化した無力感が意識的にまとめられている」と書いている。また村上は、2022年にはお花をモチーフにしたNFTを発表。なお、同年には「卓越したインターネット上の活動」を表彰するウェビー賞(Webby Awards)も受賞した

8. ルイ・ヴィトン

5度のコラボレーションを行なっている村上とルイ・ヴィトン。このコラボは、当時のクリエイティブ・ディレクターを務めていたマーク・ジェイコブスが村上のファンであったことから実現した。代表的なデザインには、同社の代名詞でもある「モノグラム」に33色もの色を施した「モノグラム・マルチカラー」や、パンダのキャラクターがプリントされた「パンダ」がある。遊び心ある村上のデザインによってファッション業界に新風を吹き込んだこのコラボは、「アートと商業が結びついた究極のクロスオーバーであり、ファッション史と芸術史に刻まれることになるでしょう」と、ジェイコブスは語っている

9. GEISAI

2002年から村上隆が主催している「GEISAI」は、若手作家の登竜門的な参加型アートイベント。新人作家の発掘のほか、日本における美術市場の生成も目的としており、過去には草間彌生や奈良美智、安藤忠雄といった著名な作家が審査員を務めている。2023年4月に開催された「GEISAI#22」では、30歳以上を対象とした「GEISAI Classics」も同時開催された。

10. 京都

村上隆 もののけ 京都」が、京都市京セラ美術館 東山キューブで2024年2月から開催される。村上が国内で個展を開催するのは、森美術館で行なわれた「村上隆の五百羅漢図」以来8年ぶりとなり、東京外で大規模個展を開催するのは今回が初。およそ170点の作品で構成される本展示は、約160点が新作の初公開となる。岩佐又兵衛の「洛中洛外図屏風」や曾我蕭白の「雲龍図」といった江戸時代の絵師たちの作品に村上が解釈を加え、再構築した作品が多数展示される予定だ。また関連企画として、京都市へのふるさと納税でもらえる限定返礼品「COLLECTIBLE TRADING CARD」も発表された

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