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ルイ・ヴィトンがフランク・ゲーリーによるバッグ・コレクションを発表! 「バッグはそれ自体が彫刻のよう。そこが面白いし、楽しい」

1989年にプリツカー賞を受賞した巨匠建築家フランク・ゲーリーが、アート・バーゼル・マイアミ・ビーチに合わせ、これまで長きにわたって様々なコラボレーションを展開してきたルイ・ヴィトンからバッグ・コレクションを発表した。

アートバーゼル・マイアミ・ビーチで発表された、ルイ・ヴィトンとフランク・ゲーリーのコラボレーション・バッグ。Photo: MARIO KROES/COURTESY OF LOUIS VUITTON

94歳になった今も精力的に創造性を探求し続けるフランク・ゲーリーが、12月13日、アート・バーゼル・マイアミビーチルイ・ヴィトンのためにデザインした11スタイルからなる限定バッグ・コレクションを発表する。

ルイ・ヴィトンとゲーリーのコラボレーションは、パリ郊外のブローニュの森にあるフォンダシオン・ルイ・ヴィトンの建築から、ムラーノガラスを用いた香水ボトルまで多岐に渡る。今回のコレクションはその最新版だが、バッグのカテゴリーでは、2014年にも同ブランドの「カプシーヌ」シリーズのための限定デザインを提供している。ビルバオのグッゲンハイム美術館ロサンゼルスのウォルト・ディズニー・コンサートホールのようなビッグプロジェクトに比べれば、こうしたコラボは「楽しい遊び」のようなものだとゲーリーは語っている。

「建築というのは、スケッチから思考が始まり、実際の建造物として実現されるまでに何カ月もかかります。一方のバッグに要する時間はほんの数日。数年前、私はティファニーともコラボレーションしましたが、そのときも同様でした。自分達が用いる建築言語をより小さなスケールに落とし込むのに時間はかかりません。承認を得るための多くの会議に出席する必要もないんです」

今回のプロジェクトに着手するにあたり、ゲーリーがコラボレーターに指名したのは義理の娘であるジョイス・シン。二人はまず、バッグの紙モデルづくりから始めたという。その結果、「誰にも見せられないような馬鹿げたアイデアが大量に生まれましたが、探索を始めると、つい夢中になってしまうんです」と彼は笑い、こう続けた。

「バッグというモノは人間的なスケールですし、バッグが持つデザイン言語も素材も非常に身近です。ですから、建築に比べてより直接的であり、進行のスピードも速い。無限に速くなるんです」

ゲーリーはまた、「建築の場合、全体像が見えるまでに時間がかかります。公共の安全や予算管理、工学、資材の入手可能性、そのメンテナンスなどあまりに多くのことを考えなければなりません。フィナーレにたどり着くまでには、多種多様なハードルをクリアする必要があるのです」と付け加えた。

実はゲーリーは、2014年のルイ・ヴィトンとのコラボレーションで発表したツイステッドボックスバッグに特別な思い入れがあるという。トランクから着想を得たこのバッグは、ゲーリー建築を思わせる独創的なフォルムが特徴で、外装(スムースレザー)には、特別な「LV x FG」モノグラムがエンボスされている。

彼はこのバッグの特徴でもある湾曲した底を指差し、「時の試練によく耐えたなと誇らしく思います」と語る。

「バッグはそれ自体が彫刻のよう。そこが面白いし、とても楽しい。ビジネススーツを着て面接に向かう若い女性を想像してみてください。このバッグを面接官の前のテーブルに置くと、かなり強いインパクトを残せるはずです」

今回のルイ・ヴィトンとのコラボレーションでも、ゲーリー節は健在だ。バッグはいずれも、「建築と形式」「素材の探求」「動物」の3つのカテゴリにそれぞれ分類される。プレキシガラスや真鍮、成型皮革といった素材使いや、最先端の3Dプリントやそれとは対照的なアクワレルハンドペイントといった技術の応用にも、彼らしいアプローチが見てとれる。

「カプシーヌ BB クロック」バッグには、蛍光イエローの抽象画のような本体に、自身がロンドンのレストラン「セクシー フィッシュ」のために最初に製作した、4メートルのワニ型の彫刻から着想を得たハンドルをあしらった。

彼の最も有名なプロジェクトを反映しているものもある。「カプシーヌ BB アナログ」は、ニューヨーク市のIACビルのファサードにヒントを得た彫刻的なフォルム。ラムスキンが用いられており、建物の外観を彷彿させるモノクロのイメージがスクリーンプリントされている。

「カプシーヌ BB シマー ヘイズ」では、シースルーのプレキシグラスのパネルがルイ・ヴィトンのモノグラムが刻印された真鍮のリベットで固定されており、バッグの外装は、虹色のPVCで覆われている。このコンセプトは、ゲーリーがシアトルのポップカルチャー・ミュージアムのために作った透明モデルから生まれたという。

ゲーリーは、すべてのプロジェクトには共通の目的があると考えている。それは、人々の感情を惹きつけること。

「コンサートホールを設計するとき、私はオーケストラと聴衆の関係を考えます。建築は、それを実現するための引き立て役なのです」

2021年にルイ・ヴィトンのフレグランス「レ・エクストライット・コレクション」のボトルに加えたシャープなエッジには、こんな想いが込められている。

「そのエッジはセクシーであり、非常に女性的だと思います。このプロジェクトに取り組んでいたとき、私はほとんどの時間、これについて考えていました。建築のデザインにも似ているのですが、私は、たとえ人々が声に出して言わなかったとしても、いわば『感情の議論』に参加させるようなデザインをいつも志しているのです」

ルイ・ヴィトンがアートバーゼル・マイアミ・ビーチのグローバル・アソシエート・パートナーを務めるのは今年で2年目だ。同ブランドのブースはゲーリーの功績を称えるデザインで、彼が2014年に手掛けた住宅用のウィンドウディスプレイにインスピレーションを得た帆のようなメッシュ構造で覆われている。そして中には、彼がルイ・ヴィトンのために描いたスケッチやオリジナルのアートワーク、スケールモデルやトランクなどが展示されている。

創造性を支えるのは、芸術家たちへの強い共感

ゲーリーは60年代からエド・ルシェロバート・ラウシェンバーグエルズワース・ケリーといったアーティストたちと親交を深めた。ゲーリーのスケッチは、一見しただけでは実現不可能に見えるが、こうした造形には、彼ら芸術家たちへの強い共感が込められているのだ。

「偉大な画家たちは、瞬く間に絵を完成させます。マティスもそう。そうしてできた作品は100年後もその価値は色褪せない。創造性には魔法があるのです。それが、優れた芸術の共通点です。様々なアイデアを繰り返し試し続けて初めて生み出されるものなのです」

彼の周辺にいる現代アーティストたちは、常に彼に新鮮で挑戦的なインスピレーションを与えている。

「最初は繰り返し、そんなことは到底できない、というプレッシャーに押しつぶされそうになります。でも、なんとかやり遂げるんです」

自称フランス好きのゲーリーは、LVMHの会長兼最高経営責任者であるベルナール・アルノーと特別な関係を築いている。

「ベルナールは私が何か興味を引くことをすると、写真に撮って胸ポケットに入れるんです。何度もそういうシーンを見てきました。彼は自分の感覚でそうするんです。一方、私は彼が興味を持ったかどうかすぐにわかります。私たちはもはや言葉を介さなくとも分かり合えるんです」

そう語るゲーリーはアルノーを「非常に啓発的なクライアント」と表現する。

「彼は芸術を、音楽を、そして文学を知っています。すべてを知っているんです。彼は教養豊かであらゆるものを見てきました。だから、もし私が何かいつも通りのことをやると、彼は間違いなく『そうじゃない」と言うでしょうね私は彼の感覚をとても信頼しているんです」

ゲーリーとアルノーは今、新しい不動産プロジェクトを進行中だ。フランス・コニャックのシャラント川沿いにあるモエ ヘネシーのセラーの隣に、ゲーリーが設計するコニャック博物館を建設するのだ。

通常のコラボレーションにおいてアルノーは、ゲーリーに多くの裁量を与えている。しかしゲーリーは今回のバッグのデザインにおいて、ルイ・ヴィトンのロゴを残すことに気遣ったと話す。「なぜなら、このロゴは彼らの大切なロゴです。私はサイズや表面を少し変えただけ。ブランドの根幹に関わる重要な要素は、尊重すべきです」

一方、今回のコラボレーションのような同ブランドで最も収益性の高い製品カテゴリーにおいては、自身にとっても挑戦的なアプローチを欠かさない。

彼の「カプシーン MM フローティング・フィッシュ」は、真っ赤な魚を彷彿させる派手さがあるが、「Bear With Us」と名付けられたクラッチは、ゲリーによる同名の彫刻をミニチュア化した作品で、金属で覆われた紙をくしゃくしゃに丸めたような造形だ。「これがバッグになるとは自分自身、予想していませんでした」

この彫刻の金色のバージョンは、アルノーの娘で、現在クリスチャン・ディオール・クチュールのCEOを務めるデルフィーヌのパリの自邸の庭にある。

今回発表されたバッグコレクションの価格は、1万ユーロから3万3000ユーロ(約150万円〜520万円)。間違いなく、コレクターアイテムになるだろう。最後にゲーリーは、ニューヨークにある彼がデザインした建築のきらめく質感はバッグにも応用できるかもしれない、と話した。つまり次があると言うことですか? と尋ねると、彼は「はい、彼らが許す限りはね」と笑った。

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