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エディ・スリマンによる「ウィンドウアートプロジェクト」が始動! 第一弾は「ニュー・ゴシック・アート」を代表するバンクス・ヴィオレット

セリーヌがアメリカ人アーティストのバンクス・ヴィオレットとコラボレーションし、「セリーヌ ウィンドウアートプロジェクト」をスタート。東京・青山を含む世界14の旗艦店ウィンドウを彩っている。

ニューヨーク・マディソンアベニューの旗艦店に飾られたバンクス・ヴィオレットのインスタレーション作品。

セリーヌのアーティスティック、クリエイティブ、イメージ・ディレクターのエディ・スリマンのもと展開される「セリーヌ ウィンドウアートプロジェクト」が、その第一弾として白羽の矢を立てたのは、1973年生まれのアメリカ人アーティスト、バンクス・ヴィオレット(Banks Violette)。ニューヨークの名門美術学校、スクール・オブ・ザ・ビジュアル・アーツとコロンビア大学で学んだヴィオレットは、ミニマリズムやコンセプチュアル・アーティストからの影響を、主にインスタレーション・アートとミクストメディアの作品に昇華している。モノクロの色彩、髑髏などの不穏なモチーフを多用するヴィオレットは、2001年に生まれた現代美術運動「ニュー・ゴシック・アート」の代表的作家としても知られている。

パリ・デュフォの展示風景。

今回、ニューヨーク、LA、中国、シンガポール、パリ、ミラノ、イギリス、そして日本(表参道銀座)の世界14のセリーヌ旗艦店で同時に展示されるのは、蛍光灯でつくられたシャンデリアだ。ヴィオレットは、「私は彫刻というものを、身体の空間に入り込むものとして捉えている」と語るが、この繰り返されるモジュール形式のフォルムは、劇場が崩壊する状態を表現している。作品はストップモーションのように、安定した状態から壊れた状態へ、華やかな形からだらしない形へ、立っている状態からつまづき、やがてうなだれるように「崩壊」していく──14の旗艦店の空間では、それぞれに異なる「崩壊の状態」を見ることができる。

キュレーターのネヴィル・ウェイクフィールドはこれらの作品を、「つまずき、倒れた人物になぞらえている」と説明する。それは、10年ほどアートワールドから距離を置いていたヴィオレット自身の物語でもある。

「ヴィオレットのアートは、音楽、美術、演劇、ファッションからインスピレーションを得て、周囲のあらゆるものがゆっくりと崩壊していく圧力を記録した気圧計の痕跡のような形をとっている。その圧力に屈したヴィオレットは、やがて自分が作り上げた世界から撤退した」

ヴィオレットの作品はこれまで、美術館での初個展となったホイットニー美術館(NY)での「Banks Violette: Untitled」(2005年)を皮切りに、イエルパブエナ芸術センター(カリフォルニア)、ボイマンス・ファン・ベーニンへン美術館(ロッテルダム)、サーチ・ギャラリー(ロンドン)など世界有数の美術館でも紹介されてきた。また、その作品はグッゲンハイム美術館やニューヨーク近代美術館(MoMA)、ロサンゼルス現代美術館(MoCA)などに所蔵されている。

一方、写真家としても活動するスリマンは、2005年以来、ヴィオレットと親交を深めてきた。ときにはヴィオレットら、自身と同時代を生きるアーティストを被写体に作品制作を行い、2007年には、自身がキュレーションを担当したグループショー「Sweet Bird of Youth」(Arndt & Partner/ベルリン)で、ヴィオレットやダン・コーレン、ライアン・マッギンレー、ガーダー・アイダ・アイナーソンといったアーティストに光を当てた。また二人はセリーヌ オム2022-23年秋冬コレクションでもコラボレーションを行っており、ヴィオレットのアートワークを用いたスペシャルピースをランウェイで発表している。

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