家族アルバムからインドの歴史と変化を掘り起こす──デバシシュ・ガウルが見つめる人生と社会【New Talent 2023】

US版ARTnewsの姉妹メディア、Art in America誌の「New Talent(新しい才能)」は、長きにわたり年1度行われてきた新進作家を紹介する人気企画。今年、その1人に選ばれた、インド・デリーを拠点に活動するデバシシュ・ガウルを紹介する。

Photo: Courtesy Devashish Gaur

2019年、アーティストのデバシシュ・ガウルはデリーにある自宅の改装中に、家族の写真が入った古い箱を見つけた。そこには、ガウルがよく似ていると言われる祖父の写真もたくさん入っていたという。そこで彼は、見つけた写真を素材にシリーズ作品を作ろうと考えた。過去と現在を融合させ、ときに異なる時代の画像を文字通りつなぎ合わせた多層的な作品で、今も制作は進行中だ。

個人の歴史と文化史を組み合わせたこのシリーズは、世代を超えた技術的・政治的変遷を映し出している。ある画像は、スマートフォンのカメラを通して見た古い集合写真だ。男性たちの顔の周囲には、デバイスが彼らの顔を認識しようとしていることを示す小さな黄色い枠がある。この枠は、自分の出自をたどろうとするガウルの取り組みとの類似を思わせると同時に、ガウルの故郷であるデリーが監視社会の様相を強めている現状をも暗示している。1平方マイル(約2.6平方キロ)あたりの監視カメラが2000台近くあるデリーは、「世界で最も監視された都市」と言われる。

シリーズの中には、スマートフォンを通した画像だけでなく、ガウル自身が撮影したモノクロ写真もある。その多くは、孤独感や断絶、挫折などを感じさせる人物や静物を捉えたものだ。ある写真では、ガウルの父親の汚れた枕が壁にもたれかかっている。別の写真では、イギリスによるインド支配に抵抗する解放の戦士として活躍した祖父に贈られた、銅製の盾の裏側が写っている。盾を裏返しにしたことには、自分が生きるインド社会が果たして自由になったと言い切れるのかという疑念が込められている。

このシリーズはまた、社会政治的な変化が家庭でどのように展開されるかを目の当たりにさせる。ガウルによれば、彼の家族は時代とともにバラバラになり、親戚が集まることはめったになくなった。一方、父親は社会に向けて活発に発言し始め、時事問題への意見をソーシャルメディアに書き込んではアカウントがブロックされたりしている。また、家の近くの寺院建設計画に反対し、近隣住民との対立にまで発展したこともある。父親の考えでは、インド政府が宗教による分断を利用しているというのだ。シリーズの中には、父親がかつて熱心に拝んでいた神像がほこりにまみれている様子を写したものもある。

デバシシュ・ガウル《無題》。シリーズ「Grey Space」(2019–進行中)より。Photo: Courtesy Devashish Gaur

今年ガウルは、南インドのオーロヴィルに数カ月滞在した。オーロヴィルは、1968年に「特定の誰にも所属しない」という憲章のもとに設立された都市で、さまざまな国の人々による「進歩的調和」の実験の場とされている。

彼はさらに、新しいタイプの家族アルバムを作るプロジェクト「Grey Space」にも取り組んでいる。インド各地のさまざまな店で見つけた古い写真で構成され、特に階級やジェンダーの表出として読み取れる服装や身振りなどの細部に焦点が当てられたものだ。これはインド土着の集団的な歴史を形作る試みで、西洋人が撮ったスナップ写真をつなぎ合わせた植民地時代のインド社会の描写ではなく、インド人の自己表現を前面に押し出している。ガウルにとっての写真とは、事象を捉える入り口であり、それをさまざまな要素に分解するプリズムでもあり、人生についての洞察と社会を外側から観察する視点の双方を提示するものなのだろう。(翻訳:清水玲奈)

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