「人の手で作る意味を、作品を通じて表現していきたい」──吉田純鼓【KUTANIを未来に繋ぐ女性たち】

いま、九谷焼の中でも特に女性の若手作家の活躍が目覚ましい。そんな状況を代表する4人の作家たちに光を当てる、大丸松坂屋百貨店との連携企画「KUTANIを未来に繋ぐ女性たち」。ここでは、赤絵細描の伝統技術を継承しながら、オリエンタルな作品づくりを通じて独自性を追求する吉田純鼓の仕事を紹介する。

──そもそもなぜ工芸家を志そうと思われたのか教えてください。

もともと色を使ったりものをつくることが好きでした。工芸をする前は、鉛筆デッサンや水彩画や色彩構成も習っていたこともあります。次第に、一度きりの人生なのだからやりたいことをやろうと思い立ち、身近にあった九谷焼の世界に入りました。九谷焼では、形も絵もどちらも追求することができます。学んでいくうちに、頭の中で想像していたことが形になる楽しさや充実感を知り、職人になるというよりは自分の表現を追求したいという気持ちが大きくなっていきました。

吉田は九谷焼の伝統的な絵付け技法の一つである赤絵細描の継承者の一人。
小さなものに関しては、自ら生地も制作するという。

──吉田さんの作品は、赤絵細描を基本としながら、様々な色やパターンなどが融合していて、和とも洋ともつかない独特の世界観があるように感じます。インスピレーションはどこから得ているのでしょうか。

周辺を歩くと出会う自然の多様な色や形に励まされることが多いです。空の色をとっても、晴れた日の澄んだ青や夕焼けの様々な色が溶け合う様子など、本当に多様な色がありますよね。自分の一番好きな色である紫を軸にしながら、そうした多様な自然の色を表現できるようになりたいと思っています。

作品に取り入れるパターンやモチーフについては、一度、異国の文様など自分が好きなモチーフを全部集めて見てみたんです。すると、一見するとちぐはぐに感じられるものでも、それらを俯瞰して見てみると「なるほど、こういうことか!」と自分の中で腑に落ちました。以来、完全なる和柄を描くのではなく、常にいくつかの異なる要素を組み合わせながら、自分なりのバランスを見つけるようにしています。

絵付もさることながら「自由な形を取り入れられるところも九谷焼のキャパシティの広さ」。

──独自性を確立していく過程で、もっとも苦労されたことはなんですか?

今もずっと、自分らしさとは何かを模索しています。人を驚かせるような奇抜なデザインが個性というわけでもないし、それは私向きではない。最終的には、自分から滲み出た表現は否が応でも自分のものになっていくのかもしれません。だから今は、経験を積み重ねることで自ずと私らしさを確立していけるように試行錯誤しているところです。

先輩方の話を聞いて感じたのは、工芸とは、正解もなければ終わりもない仕事だということです。作品を制作する上でも、完成に最終ゴールが決まっているわけではないので、足せばいいのか引くのがいいのか、いつも思い悩みます。

そんな中で私が挑戦しているのは、平面的な絵の中にいかに奥行きを出していくかということ。幾何学的な文様を有機的なモチーフと合わせる時は、馴染ませるために植物などのモチーフはリアルに描くよりは少しデフォルメしたり文様のように描いたりするのですが、そうした有機的な要素と幾何学的な模様を重ねることによって、風景が作品の中だけで完結されずにもっと先まで続いていくような、受けての想像力を掻き立てられるような工夫を施しています。また、細描とはいえ、余白があることも重要だと思っているので、あまり埋めすぎず、グラフィカルになりすぎて柔らかさが失われないよう気をつけています。ただ精巧な絵ならAIでも実現できます。そんな時代において人の手で作る意味を、作品を通じて表現できたらいいなと思っています。

身近な自然のモチーフと幾何学模様を融合したコーヒーカップ&ソーサー。

──どんなものからインプットを得ていますか?

同じ陶芸の展示を見ることもしますが、それ以上に、他の表現を意識的に見るように心がけています。例えば絵画の展覧会に行ったり、ピアノリサイタルやオーケストラなど音楽を聴きに行ったり。かつて本格的にピアノを習っていたことがあるのですが、例えば曲も、作られた時代ごとに弾き方や解釈が違ったりしますし、同じピアノでも、音色は弾き手それぞれに異なります。音楽と美術は表現する媒体は違えど、どこか通じるものもあると感じていて、例えば絵の抑揚の付け方など、必ずしも直接的でないかもしれませんが、音楽から得る何かしらの影響があると思います。

自然のモチーフと幾何学模様を組み合わせ、「平面でありながら奥行きのある絵柄を追求したい」と語る。

──九谷焼の世界では、多数の若手の女性作家が活躍されています。そうした状況の中で、吉田さんはどんなふうにご自身の役割を捉えていますか?

工芸家には定年もありませんし、育休などの決まった制度もないので、自分のペースで継続できるというメリットもありますが、限られた時間の中で、計画通りに行かないことも多々あります。自分の作品を追求しながら、九谷焼という伝統の中で次の世代にどんなバトンを渡すことができるのかということを意識したいと思っています。

そんなことを考えながら仕事をしていく上で、ほかの作家たちの独自の表現に触れると、やはりエンパワーされます。それぞれに表現が違うのが面白いし、それこそが九谷焼の醍醐味です。革新性と多様性があるからこそ九谷焼は廃れずに長く続いてきたし、拡張を続けている。私も自分らしさを表現し続けながら他の作家たちと繋がり合うことで、九谷の未来に貢献したいと思います。

Photos: Kaori Nishida Text & Edit: Maya Nago

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