ARTnewsJAPAN

ラファエロの名画《バラの聖母》の一部は別人が描いていた! AI分析が従来の説を裏付ける

プラド美術館が所蔵するラファエロの名画には、部分的に他の作家による手が加えられていたという研究結果が発表された。この結論を導いたのは、AI(人工知能)のアルゴリズムだった。

ラファエロ《聖家族と幼児の洗礼者聖ヨハネ》あるいは《バラの聖母》(1517)、木板に油彩・カンバスに転移 Photo: Museo Nacional del Prado

マドリードのプラド美術館にあるラファエロの《聖家族と幼児の洗礼者聖ヨハネ》は、《バラの聖母》として広く知られている。しかし、この絵がラファエロ自身によるものかどうかについては、長い間論争が続いてきた。

《バラの聖母》には、聖母マリアと聖ヨセフ、幼子のイエス、そして幼児として表された洗礼者聖ヨハネが描かれている。この絵は19世紀まで、イタリアルネサンス期の画家ラファエロ(ラファエロ・サンツィオ・ダ・ウルビーノ)の作とされていたが、その後、聖ヨセフの姿が「後から付け加えたように見える」ことや、絵の下部を描いたのはラファエロなのかという点が疑われるようになった。ただし、プラド美術館のウェブサイト上の作品ページには、ラファエロ作としか書かれていない。

12月21日付の学術誌ヘリテージ・サイエンスに掲載された新しい研究論文によると、98%の精度で分析を行うAIのアルゴリズムを用いた結果、この絵がラファエロの真作であることは判明したものの、「聖ヨセフの顔を描いたのがラファエロかどうかについては疑問符が付いた」という。

ブラッドフォード大学ビジュアル・コンピューティング部門のハッサン・ウゲイル教授が率いる研究者チームは、AIによる分析は「この絵がラファエロ1人によるものだという説に疑問を持ち、ラファエロの一番弟子だったジュリオ・ロマーノによる関与の可能性を示唆した」美術史家による過去の研究を裏付けるものだとしている。

論文の共著者であるブラッドフォード大のハウエル・エドワーズ名誉教授(分子分光学)は、英ガーディアン紙の取材にこう答えた。

「AIプログラムによる解析の結果、聖母子と洗礼者ヨハネの3人は明らかにラファエロの手によるものですが、聖ヨセフはそうではなく、別の人物によって描かれたものであるとされました」

今回の研究に先立つ1月、ウゲイルを含む研究チームはAI搭載コンピュータの顔認識機能を使い、「ド・ブレシー・トンド」として知られる絵画がラファエロの真作である可能性が高いという結論に達した。この作品の聖母子の顔が、ラファエロの祭壇画《システィーナの聖母》の顔と一致したからだが、別の研究者からはその結果に対する疑問が、博物館の専門家からはAIを用いた手法への疑問が呈された。

自分には「芸術の知識はない」と話すウゲイルがガーディアン紙の取材に応じたところでは、美術史家たちからの反応は冷ややかなもので、「AIへの恐れがあるのかもしれないが、彼らは、我われが世間知らずで、自分でも何をやっているのかよくわかっていないと思っている」という。

世間では、AIに仕事を奪われるのではないかという不安が根強い。しかし、ヘリテージ・サイエンス誌に掲載した論文で研究チームは、AIは絵画の真贋鑑定における補助的なツールとして「学術的分析、分光学的画像処理、年代測定技術といった既存の方法」と同様、美術史家やコレクターにとって有用なものであると強調し、次のように結論付けている。

「機械学習と画像処理技術が進歩する中、この手法は作品の分析と検証に資するツールの1つになる可能性を秘めている。美術史家による綿密な調査や高度な画像技術といった従来の方法と組み合わせることで、作品の分析や真贋鑑定を行う際の、より細部に踏み込んだ信頼性の高いフレームワークの実現に貢献できるだろう」(翻訳:石井佳子)

from ARTnews

あわせて読みたい