アート業界の大物15人が2024年を大予想! キーワードは、質、アジア、エクイティ etc.

2024年の世界のアート界は、目まぐるしくも波乱に満ちたものになりそうだ。新しい年の本格的な幕開けにあたり、1年の展望をディーラーやアートアドバイザーといったアート業界関係者に取材した。

2024年のヴェネチア・ビエンナーレは4月に開催。Photo: Vincenzo Pinto/AFP via Getty Images

2024年は、4月に開幕する第60回ヴェネチア・ビエンナーレをはじめ、年間を通してアートイベントが目白押し。特に、エンデヴァー傘下のフリーズとMCHグループ傘下のアート・バーゼルの2大勢力がしのぎを削るアートフェアは、昨年にも増して過密なスケジュールなることが予想される。その一方、クリスティーズサザビーズの2023年の売上高は前年比10%以上の減少となり、フィリップスも業績が振るわない中、財政的に厳しいオークション状況を多くが注視している。

以下、著名なアート関係者に聞いた新年の予想を紹介しよう。

アラン・シュワルツマン(アートアドバイザー)

つい最近まで、コレクターたちは旺盛な購買意欲に駆られてアート作品を買っていましたが、2024年にはこの勢いはなくなるでしょう。新進作家のマーケットは、ここ数十年にないほど変動性が増すことが予想されます。コレクターたちの需要は、このところ高まる一方でした。しかし、それを全て満たすほどのペースで真の傑作が生まれるはずはありません。近いうちに現代アート作品を手放したいと考える人々が急増するでしょうが、この流れに対応できるよう、セカンダリーマーケット(*1)の持続可能性を支える新しいビジネスが生まれてほしいというのが今年の私の願いです。それによって、販売データの開示が不十分なために統計がいびつな現在のシステムに過度に依存している状況が変わればよいと思います。


*1 アート市場は、プライマリーとセカンダリーに二分される。次項に出てくるプライマリーマーケットは作品が最初に世に出る市場で、通常はアートギャラリーや百貨店、アートフェアなどで作家が作品を発表し、売買される。セカンダリーマーケットは、プライマリーで顧客が購入・所有していた作品を、オークションなどで再販(転売)する市場。

アレックス・グラウバー(アートアドバイザー、プロフェッショナル・アート・アドバイザー協会会長)

多くの人が何年も前からアート市場に調整が入ると予想していましたが、2023年にそれが現実のものとなりました。2024年には、FRB(連邦準備制度理事会)が利下げを少なくとも1回、おそらくそれ以上行うと示唆していることもあり、よりポジティブな展開が期待されます。利下げは、心理的にも実質的にも、コレクターの需要を喚起する要因になります。そして、市場を楽観する度合いが高まるに従い、裁量的な売却も増えるでしょう。

一方で、アート市場、特に現代アートのプライマリーマーケット(*1)の健全性と持続可能性については不透明な部分があります。プライマリーマーケットではアートフェアの重要性が過度に大きく、売り手は新たな顧客を見つけて販売につなげる場としてフェアに依存しすぎているきらいがあります。世に生み出されるすべてのアート作品が「コレクター」によって購入されていると思いたいところですが、本当にそうであれば、アートフェアがこれほど重要であり続けることはないでしょう。つまり、長期的な顧客となってくれる可能性が低い一見客が新しい作品の大半を吸収し、アートフェアを成り立たせているというわけです。

また、運営費や輸送費が下がらないと、少ない利鞘でなんとかやり繰りしているギャラリーにとって状況はさらに厳しくなります。地政学的緊張、間近に迫った大統領選挙、ますます進む社会の分断などさまざまな不安材料もあり、中小ギャラリーの統合がさらに進むかもしれません。

ベンジャミン・ゴッドシル(キュレーター、アートアドバイザー)

未来について公の場で予想するは愚か者だけ。そんなことをして何の得になるでしょう? とはいえ、私は賢明な人間ではないので2024年のアートビジネスを占ってみました。そこで見えてきた、ポジティブな兆候とネガティブな兆候のポイントを挙げてみます。

まずはネガティブな予想から。ここ2、3年、(アートやそのほかの)市場の不安定さにさらされてきた買い手は、鑑識眼を持ち、作品の質を厳しく見極めることの重要性をより強く意識するようになりました。市場が変動しやすい環境でも値下がりしにくいのは、希少性や質の高い作品であることに気づいたのです。これは、賢いコレクター(あるいは有能なアートアドバイザーやキュレーターを雇う見識のあるコレクター)にとっては良いことですが、ギャラリー、特に中小規模の店にとってはあまり好ましいことではありません。悲しいことですが、近いうちに多くの素晴らしいギャラリーが閉廊を余儀なくされるでしょう。評価の高い有名ギャラリーがクローズする可能性もないとは言えません。

ポジティブな予想としては、歴史的に疎外されてきたマイノリティのアーティストたちが引き続き(経済的な意味で)「発掘」され、新たな発表の場を得ながら市場での勢いを保ち続けると思います。生ける伝説と呼ばれるハワーデナ・ピンデルをはじめ、有色人種のベテラン女性アーティストの活動について耳にする機会がますます増えるのではないでしょうか。また、これまで正当に評価されてこなかった、北アメリカ先住民にルーツを持つアーティストたちの活動にさらなる光が当たることも期待したいと思います。特に、画家のジュリー・バッファローヘッドや、彫刻家で織物作家でもあるジェレミー・フレイの作品について、もっと多くの人が知るようになってほしいと願っています。

チャールズ・スチュワート(サザビーズCEO)

2024年も引き続き、質がものを言います。コレクターが作品を厳しく選別するため、「最高」と「それ以外」の価格差が開き続けるでしょう。また、アメリカ先住民やチカーノ(*2)の作家など、これまでオークションではあまり扱われてこなかったアーティストの作品の需要が高まると思います。さらに、市場の最高価格帯における女性アーティストの台頭が続くでしょう。100万ドル(約1億4500万円)以上で落札される女性現代アーティストの作品の数は、ジョアン・ミッチェル草間彌生に牽引され、2018年から2倍以上に増えていますが、まだまだ大きな伸びしろがあります。


*2 メキシコ系アメリカ人の意(女性の場合はチカーナ)。

マーク・グリムシャー(ペース・ギャラリー プレジデント兼CEO)

世界から注目されるアートスポットとして日本が再浮上しつつありますが、2024年もこの勢いは続くでしょう。われわれも、2024年春に東京・麻布台ヒルズに新店舗を開設します。アーティストやコレクター、ディーラーが力を合わせることで、東京は再び「絶対に訪れるべき」デスティネーションになるはずです。

東京・麻布台ヒルズ内にある、ペース・ギャラリーの新店舗予定地。

フィリップ・ホフマン(アートアドバイザー)

私は2024年を楽観視しています。昨年12月のマイアミのアートフェアやニューヨークでの11月のオークションでは、大方の予想よりはるかにアート市場に回復力があることが証明されました。特にこの傾向が顕著だったのが質の高い作品です。2024年には、ウルトラコンテンポラリー・カテゴリー(*3)の淘汰が進むと同時に、評価が確立した著名作家の作品に関しては市場の厚みが増すでしょう。


*3 1975年以降に生まれた作家 。

アンソニー・マイヤー(アートディーラー、アメリカ・アートディーラー協会会長)

市場が調整局面に入った2023年は、それが新常態として受け入れられるまでに時間を要しました。しかし、2024年の市況は再び活発なものになるでしょう。

アナ・ソコロフ(アートアドバイザー)

市場は減速しているとは思いますが、真に価値の高い作品に対するコレクターの需要はなくなりません。そうした作品は長期にわたって価値を維持するでしょう。

ローレンス・ヴァン・ヘイゲン(アートアドバイザー、キュレーター)

世界的なインフレ懸念と地政学的不安定さの中で幕を開けた2024年、世界のアート市場では引き続き調整局面が続くでしょう。全般的にかつてほど実験精神が尊ばれなくなり、さまざまな形で取捨選択と地域主義の傾向が高まることが予想されます。たとえば、ギャラリーは参加するフェアの数を減らし、参加する場合でも単独アーティストによる個展形式のブースにするのではないでしょうか。また、コストの上昇と持続可能性の問題がクローズアップされるにつれ、アートフェアのための海外渡航を控える人が増えると思います。いずれにせよ、主要なフェアはかなり地域に特化したものになってきていますし、コレクターたちの関心も、地元のフェアやアーティストに向かう傾向にあります。

パトリツィア・サンドレット・レ・レバウデンゴ(コレクター)

2023年のアート市場は、金融不安や地政学的な問題の中でも驚くべき耐久力を見せました。特に女性やマイノリティのアーティストの台頭など、近年の潮流の多くが今年も続くと私は信じていますし、そうなることを願っています。

メアリー・サバティーノ(ギャラリー・レロング&カンパニー副社長兼パートナー)

戦争、アメリカにおけるホームレスの激増と不法移民に対する規制の厳格化、そしてリプロダクティブ・ライツ(性や妊娠・出産について自分自身で決める権利)の大幅な縮小が起き、何度も起訴されている独裁的な指導者が再び政権に返り咲くかもしれない大統領選を控えた今、2024年は不安しかないように感じます。ただ、そんな状況下にあってもアーティストたちとの協働が私に洞察と希望を与えてくれ、おかげで前向きな気持ちでアートディーラーとして仕事をすることができています。

2024年には女性や有色人種のアーティスト、先住民アーティストがさらに公平に評価されることを願っています。2022年のバーンズ・ハルペリン・レポートによると、2008年から2020年までにアメリカの美術館が購入した全作品のうち、女性作家の作品が占める割合は11パーセントでした。今年こそは女性作家の作品の販売が大きく伸びることを期待します。

また、今ある2つのトレンドが、2024年も同時並行的に継続するでしょう。1つ目は、昨年11月のオークションで見られたように、象徴的で希少価値のある作品に対する市場の高評価。2つ目は、これまで知名度のなかった作家に対する注目や、有色人種や先住民のアーティストへの関心の高まりです。バード大学のヘッセル美術館で開かれた「Indian Theater: Native Performance, Art, and Self-Determination since 1969」展、ワシントンD.C.のナショナル・ギャラリーでの「The Land Carries Our Ancestors: Contemporary Art by Native Americans」展、ホイットニー美術館での「Jaune Quick-to-See Smith: Memory Map」展など、2023年には先住民アーティストによる価値ある展覧会が増加しました。これを受け、先住民アーティストの作品を購入する個人および公的コレクションが増えると思います。

フィリス・カオ(サザビーズ顧客戦略担当副社長兼オークショニア)

テクノロジーの進歩や国境をまたいだ移動の活発化がもたらしたグローバル化により、文化やステータスのグローバル化も進んでいます。この潮流は今後も私たちの顧客のコレクションの方針や、購買行動に影響を与え続けるでしょう。何年も言い続けてきたことですが、近頃はカテゴリーを横断して収集を行うコレクターがますます多くなり、コレクションの方向性を見直すグローバルコレクターも増えています。2024年もこの流れは続き、これまで以上に加速するでしょう。実際、2023年に開かれたオークションでは、「このコレクターが、この作品に興味を示すとは」と、何度も驚かされたものです。コレクションに加える作品をどのように検討し、どう評価するかというコレクターの考え方の進化は今後も続くと思います。

レオ・シュー(デイヴィッド・ツヴィルナー香港 シニアディレクター)

2023年に続き、アジアのアーティストの国際的な認知度はさらに高まると思います。アートや音楽、映画など、幅広い分野でアジアのクリエイティビティが世界の文化に大きな影響を与えていますが、この勢いは今後も続いていくはずです。もう1つ、中国市場の位置付けがアートの世界でも大きく変化すると予想します。中国が重要な市場であることに変わりはありませんが、2024年はその傾向やトレンドに対するより細やかな理解が進むはずです。

1月19日から1月21日にかけてART SGが開催されるシンガポールのマリーナ・ベイ・サンズ・エクスポ・コンベンション・センター。Photo: Wikimedia Commons

マグナス・レンフリュー(ART SG、台北當代、東京現代の共同設立者)

グローバルなアート界におけるアジアの存在感が高まり続けるでしょう。かつて「インターナショナル」という言葉は「欧米」と同義と捉えられていましたが、このような枠組みの見直しはさらに進むと思います。ヨーロッパとアメリカという狭い世界の外で活躍するアーティストに光を当てる美術館が増える中、アート市場も彼らの仕事の重要性をますます認識するようになっています。さらに、現代アートにとってカギとなる地域でもあるアジアは、購買層の拡大が見込める重要市場としてさらに注目が高まるでしょう。

レイモンド・J・マクガイア(コレクター)

数々の問題と不確実性に満ちた2024年の世界においても、アーティストたちはその天賦の才能と鋭い感性で私たちに希望を与え続けてくれるでしょう。彼らが与えてくれる刺激によって、私たちは内省と努力を続けることができ、最良の自分になることすら可能かもしれません。キュレーターたちは、その勇気とビジョンで私たちを啓発し、導き続けるでしょう。彼らは歴史的に排除されてきたアーティストたちに光を当て、その作品を展示するという重要な使命を果たし続けるはずです。彼らの尽力により、そうしたアーティストたちは美術史に欠かせない存在として認められ、アートの世界で正当な地位を得られるようになってきています。(翻訳:野澤朋代)

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