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コレクターの最大の懸念は「詐欺」。大手保険会社の最新レポートが明かす実態

世界最大手の損害保険会社の一つであるChubbが、最新の富裕層レポートを発表した。これによると、アートコレクターたちの最大の懸念は、作品輸送中の破損や自然劣化、環境災害といった問題以上に、詐欺や作品の出自に関することであることがわかった。

2017年にスイス・ヴィンタートゥール美術館で展示されたロスコの贋作。Photo: AP/COURTESY CBC GEM

損害保険会社のChubbが発表した富裕層レポートは、北米のコレクター800人を対象に、資産や収集品、そして最大の懸念事項についての調査をまとめたものだ。回答者の多くが、美術品、宝石、車、ワインなどを蒐集しており、3分の1以上(約38%)がその目的を「投資」と回答した。

また、回答者の87%が現在の最大の不安は「美術品詐欺」であると明かし、輸送中の破損(調査対象者の86%)を上回った。投機的動機でアート作品を購入している人にとっては特に、詐欺リスクへの懸念が大きいのは当然と言える。

Chubbの北米パーソナル・リスク・サービス部門プレジデントのアナ・ロビックは、投資として美術品を購入する場合、多くが「自分の判断は正しかったのか? また、これに資金を投じるのは安全な方法なのか?」と自信を持てずにいると話す。その背景には、クリーブランド美術館の首なし古代ローマのブロンズ像の押収、メトロポリタン美術館に対する略奪文化財返還への圧力、大英博物館の2000点にも及ぶ紛失・盗難スキャンダル、そして相次ぐアートアドバイザーによる詐欺事件といったアートを取り巻く昨今の由々しき状況がある。

Chubbの保険は、弁護士費用や権原保証のために支払われることがあっても、詐欺はその対象とならない。自身が購入した作品が偽物や盗品であることが判明し、本国や元の持ち主に送還される場合、その損失はもっぱら所有者であるコレクターが負うことになる。

その一例が、オーランド美術館で展示されていたジャン=ミシェル・バスキアの25作品だ。それらは2022年6月、数年にわたる真贋調査の末、FBIによって押収された。絵画の所有者と同美術館の当時の館長兼最高責任者であったアーロン・デ・グロフトは、これらは本物であると主張していたが、販売元であるオークション業者は昨年、贋作の制作と販売で有罪判決を受けた。

オーランド美術館は2022年8月、FBIによる押収の直後に辞任したグロフトと作品の所有者たちを、この展覧会開催による「多大な財政的損害と名誉毀損」で提訴した。裁判は2025年8月に行われる予定で、美術館の訴訟費用は60万ドル(約8700万円)にも達する可能性がある。

こうした詐欺による投資損失から身を守る対策として、ロビックは、コレクターたちは信頼できる情報源から購入すること、来歴資料を要求すること、資産保全の専門家など第三者の専門家に相談することの重要性を説く。「われわれも、このような事態を未然に防ぐべく積極的に取り組んでいます」

もちろん実際には、詐欺よりも美術館への貸し出しといった輸送による美術品へのダメージの方がはるかに起こりやすい。事実、赤ワインのグラスがこぼれたり、カクテルパーティーの最中にナイフやフォークが絵画に刺さったり、といった日常的な事故による修復や修理にかかる費用の請求は日常茶飯事だとロビックは語る。

また、アーティストやギャラリーの指示に正しく従うことなく、重くて壊れやすい美術品を間違った方法で吊るした場合、「重大な問題」をもたらす可能性がある。こうしたことを防ぐために、Chubbのレポートでは、10年に一度程度、専門の業者に依頼して設置金具のチェックなどを行うことを勧めている。

しかしロビックは、「いまだに多くの人々がこうしたアドバイスに真摯に傾聴していないことに驚かされます」と話す。「所有者が点検や適切な管理を怠ったために、吊り具の経年劣化などによって1~2年で落下してしまった、などという事故も珍しくありません」

また彼女は、自分よりも遥かに大きなコレクションを持つ人たちに影響を受けて初めて、損害保険への加入を検討する人が多い現状を鑑み、リスクを甘く見てはいけないと警鐘を鳴らす。

「点数の多寡にかかわらず、コレクションを保護することはコレクターの重要な使命です。それがたとえ5点であっても、自宅の一室を占拠するほどの大規模コレクションであっても」

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