ディオールが93歳の女性アーティストとコラボ!「身体とドレスの計り知れない関係性」を紐解く
1月22日、ディオールの2024年春夏オートクチュールコレクションがロダン美術館で開催された。会場を覆い尽くす背景幕は93歳のアーティスト、イザベラ・デュクロが手がけており、クリエイティブディレクターのマリア・グラツィア・キウリが試みるメゾンのアイデンティティの刷新を下支えしている。
横糸に関して人一倍の関心をもつイタリア人アーティスト、イザベラ・デュクロ。彼女はシモーネ・マルティーニが1333年に制作し、現在はウフィツィ美術館に収蔵されている絵画《受胎告知》に、横糸がどのように描かれているかを2018年に詳しく調べている。そして、その糸が非常に緻密に描かれているのにもかかわらず、ほとんどの歴史家たちがその細やかさを見落としていることに注目した。
デュクロが手がけた作品は、ニューヨークやケルン、ベルリンのギャラリーにこれまで展示されてきた。そして今、ディオールによって彼女の作品はランウェイにもち込まれた。ブランドのスタイルに適した女性アーティストと手を組むことで、メゾンのアイデンティティの更新を試みてきたクリエイティブディレクターのマリア・グラツィア・キウリにとって、ナポリに住む93歳のデュクロとのコラボレーションは自然な成り行きだったと言えるだろう。
熟年のデュクロがギャラリー・ギゼラ・キャピタンに見出されたのはつい最近のことだが、アート界の上流階級は彼女の存在を認識していた。サイ・トゥオンブリーやイタリア人デザイナーのフェデリコ・フォルケとの交流、そして旅行代理店に勤める夫をもったことで、デュクロは長いあいだ、中東やアジアを旅する機会に恵まれた。こうした経験が、東洋に起源を置く織物に対する彼女の関心を広げていった。
2024年春夏オートクチュールコレクションのバックステージでキウリは、イタリア人アーティストらが衣類を着用する人の身体を誇張し歪ませるオスマン王室の服装を参考にしていたことから、デュクロに惹かれたと語っている。
このコレクションにおいてデュクロは舞台演出家としてクレジットされており、前近代を想起させる特大のドレスが描かれた格子柄の背景幕を制作している。発表が始まる前にキウリは、「身体とドレスの間にある底知れない」関係性の解明にデュクロは挑んでいると語っている。
キウリは今回、ムッシュ・ディオールが70年前に考案した「ラ・シガール」と呼ばれるドレスの再解釈に挑戦した。1952年にデザインされたこのドレスに使われている素材は、かつてVOGUEが「まるで重金属から作られた衣服のように見える」と評した絹のように柔らかいモワレという生地だ。
キウリはドレスを建築的な要素として扱っており、デュクロの手法を模倣しているかのように見える。黒のロングドレスはドレスそのものに重みがあるよう錯覚させるために、意図的に大きく作られていた。グレーのセットアップはクロムを思わせるような光沢を放っており、羽があしらわれたアンサンブルは繊細というよりかは動物的な見た目だった。(翻訳:編集部)
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