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  • 2024.02.08

「2000年前の巻物をAIモデルで解読する」コンクールで学生チームが快挙! 全体の約5%が明らかに

紀元79年に起こったヴェスヴィオ火山の噴火により炭化した2000年前の巻物を「機械学習モデル(AIモデル)」で解読するコンクール「ヴェスヴィオ・チャレンジ」が2023年に開催され、学生チームがグランプリを獲得。大きな研究成果を残した。

ヘルクラネウムの巻物のスキャンデータ。Photo: Courtesy Vesuvius Challenge

18世紀に、古代ローマの都市ヘルクラネウム(現在のイタリア・エルコラーノ)の豪華な別荘の書庫跡から、ヴェスヴィオ火山の噴火の熱で炭化した1800点以上のパピルスの巻物が発見された。ネイチャー誌によると、何世紀もの間、多くの研究者がそれら「ヘルクラネウムの巻物」を開こうとして、あるものは破壊され、あるものは断片のまま残された。現在解読出来ているのは紀元前341年から270年まで生きたエピクロスのアテナイ哲学に関する記述で、書庫にはエピクロスの信奉者であるフィロデモスの蔵書が並んでいたと考えられている。

ケンタッキー大学のコンピューター科学者、ブレント・シールズは過去20年間、3Dコンピュータ断層撮影(CT)画像で巻物の表面をバーチャルにマッピングするソフトウェアを彼のチームとともに作成し、これらの隠されたテキストの解読に取り組んできた。2019年、彼は2つの巻物の表面をマッピングしたが、炭素ベースのインクはCTスキャンでパピルスと同じ濃度を持つため、画像処理中に両者を区別することは不可能だった。そこで、機械学習モデルを使って巻物を「解きほぐし」、インクを識別することを思いついた。しかし、全てのデータの意味を解明することは、小さなチームにとっては負担の大きい仕事だった。

その後、シールズはシリコンバレーの起業家ナット・フリードマンから声をかけられ、コンテストの開催を提案された。フリードマンはコンテスト立ち上げの資金12万5000ドル(約1850万円)を援助し、さらにはX(旧ツイッター)で数十万人以上からの支援を集めた。シールズは2023年3月にヴェスヴィオ・チャレンジを開始し、ヘルクラネウムの巻物の高解像度スキャン画像とともにソフトウェアを公開。機械学習モデルを訓練することで巻物を解いて文章を識別し、同年末までに140字以上の文章4つを解読することをグランプリの条件とした。コンテストでは各ステージを設定し、それぞれに優勝者を決めて賞金を授与。優勝者の機械学習コードを公開して参加者がお互いの成果を利用できるようにした。

例えば、アメリカの起業家で元物理学者のケイシー・ハンドマーは、スキャン画像にひび割れた泥のようなテクスチャーがあり、それがギリシャ文字のような形をしていることを発見。そしてネブラスカ大学リンカーン校のコンピューターサイエンス学部生ルーク・ファリターは、そのテクスチャーを使って機械学習アルゴリズムを訓練し、「紫」を意味するporphyrasという単語を明らかにした。その後、ベルリンを拠点とする博士課程の学生ユセフ・ネーダーが、テキストのより鮮明な画像を開発した。3人はそれぞれ賞金として、ハンドマーは1万ドル(約148万円)、ファリターは4万ドル(約592万円)、ネーダーは1万ドルを得た。

グランプリには18件の応募があり、審査ののち12件がパピルス研究者からなる審査委員会に提出された。彼らはテキストを書き起こし、読みやすさを評価。その結果、入賞基準を完全に満たしたのは前述のファリターとネーダー、そしてスイス連邦工科大学チューリッヒ校のロボット工学科の学生、ジュリアン・シリガーによって結成されたチームだけだった。彼らは15列以上のテキストにまたがる数百の単語を明らかにしており、それは巻物全体の約5%に相当する。3人にはグランプリの賞金として、70万ドル(約1億円)が贈られた。

彼らが明かにした文章は、音楽、ケッパーの味、紫色など喜びの源について論じられており、古代の作家セネカやプルタークの文章に登場するフルート奏者クセノファントスについての記述もあった。著者名が見当たらないものの、おそらくフィロデムスによるものと推測される。

審査にあたったナポリ・フェデリコ2世大学のパピルス研究者フェデリカ・ニコラルディは、「私たちは皆、彼らの研究成果にすっかり驚いてしまいました」と語る。現在ニコラルディは同僚たちとともに、明らかになったテキストの分析を急いでいる。

ブレント・シールズはコンテストを終えて、「うまくいくのだろうかという全ての人々の不安を一掃しました。もう誰もそれを疑っていないでしょう」とコメントした。

今回の快挙は、ヘルクラネウムのさらなる調査に拍車をかけるかもしれない、 というのも、まだ全区画が発掘されておらず、別荘の主要な図書館も特定されていないからだ。このコンテストで培われた新しい機械学習技術は、カルトナージュ(エジプトのミイラを包むのによく使われた再利用のパピルス)など、他のタイプの隠されたテキストを研究するのにも使えるだろう。

フリードマンは、2024年のヴェスヴィオ・チャレンジを発表した。年末までに4本の巻物を90%解読することを目標としており、グランプリの賞金は10万ドル(1483万円)だ。(翻訳:編集部)

from ARTnews

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