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芸術と人命の「重さ」問う。ピカソ作品などを「人質」に、ウィキリークス創設者の身柄引き渡しに抗議

内部告発サイト「ウィキリークス」創設者のジュリアン・アサンジ被告が獄中死した場合、ピカソレンブラントなどの名画を酸で溶かす計画があるとロシア人アーティストのアンドレイ・モロドキンが発表。物議を醸している。

ロンドンのアサンジ像の周囲に、「ジュリアン・アサンジを解放せよ」と書かれた抗議の看板が掲げられた(2023年6月24日撮影)。Photo: Martin Pope/Getty Images

スカイニュースによると、ロシア人アーティストのアンドレイ・モロドキンは、パブロ・ピカソレンブラントアンディ・ウォーホルなど総額4500万ドル(約67億5000万円)相当の近現代アート作品16点と「強力な腐食性物質」を、29トンもの巨大保管庫に入れてあると発言。保管庫内には作品の入った箱があり、空気圧ポンプで2つの容器に接続されている。一方の容器には酸の粉末が入れられ、もう一方には保管庫の内部を破壊するのに十分な強い化学反応を引き起こせる加速器が付いているという。

「デッドマンズ・スイッチ」と名付けられたこのプロジェクトを支援してきたのが、内部告発サイト「ウィキリークス」創設者のジュリアン・アサンジの妻ステラだ。アサンジは、イラクアフガニスタンの紛争などに関する機密文書を米軍のデータベースから不正入手・暴露したとして、スパイ容疑などでアメリカで起訴された。2019年以来、イギリスで最高レベルの警備が敷かれる刑務所に収監中だが、アメリカが身柄の引き渡しを要請しているため、2月20日と21日にロンドンの高等法院において引き渡しに関する最終的な審理が行われる。

これまでアサンジ側はいかなる不正行為もなかったと主張。身柄が引き渡されれば命の危険があると、弁護士は懸念を表明している。

現在フランス在住のモロドキンは、スカイニュースにこう語った。

「あちこちで戦争が続く破滅的なこの時代、人の命を奪うよりも芸術を破壊するほうがよりタブーなことになってしまいました。ジュリアン・アサンジが刑務所に入って以来、(中略)表現の自由、言論の自由、情報の自由がますます抑圧され始めています。私は今、そのことを強く感じています」

フランスにあるモロドキンのスタジオに置かれた「デッドマンズ・スイッチ」の保管庫は、美術館に移される予定だとスカイニュースは伝えている。計画では、保管庫は24時間のカウントダウンタイマーに接続され、腐食性物質が放出されるのを防ぐためにはタイマーがゼロになる前にリセットする必要があるという。ただしタイマーのリセットは、毎日「アサンジに近い誰か」が彼の生存を確認したのちに行われる。

ミラノのアートディーラー、ジャンパオロ・アッボンディオはスカイニュースの取材に対し、当初はモロドキンの計画に批判的だったが、後にピカソの作品を寄贈したと答えている。

「アサンジの命のほうが、1点のピカソ作品よりも世界にとって意義がある。そう思ったからピカソを寄贈したのです。仮に、楽観主義者の私がピカソを貸し出したとしましょう。その場合、アサンジが自由の身になれば作品は戻ってきます。ピカソといってもその作品の価格は幅広く、金額に含まれるゼロの数はさまざまです。しかし、人の命について話すときには、ゼロの数が重要とは思いません」

アサンジの妻は声明の中で、モロドキンのプロジェクトは「芸術の破壊と人命の破壊、どちらがより大きなタブーなのか」を問いかけるものだとしている。(翻訳:石井佳子)

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