ランドアート作品の撤去をめぐり、美術館とアーティストが和解。和解金は1億4000万円
ランドアート作品の保存修復義務を果たしていないとして訴えられていたアメリカ・アイオワ州のデモイン・アートセンターが、原告である作家と和解した。美術館側は和解金1億4000万円に加え、作品の解体費用5500万円を負担する。
アメリカ・アイオワ州の現代美術館、デモイン・アートセンターは、1996年に同美術館が依頼したメアリー・ミスによるランドアート作品《Greenwood Pond: Double Site》の撤去をめぐる論争の末、同アーティストと和解した。美術館はミスに90万ドル(約1億4000万円)を支払う。
これにより、作品の保存修復に十分な予算を割いてこなかった美術館に対して、ミス及びワシントンD.C.の文化擁護団体「Cultural Landscape Foundation(TCLF)」が過去1年間にわたってかけてきた圧力が身を結ぶこととなった。
ミスは美術史家や元学芸員から賛同者を募り、美術館との対話を前進させようと努めてきたが、2024年4月、美術館を提訴するに至った。ミスはこの時の訴状で、同館は1994年に交わした契約に反して《Greenwood Pond: Double Site》を永久保存するための義務を怠っていると訴えている。一方の美術館側は、敷地から作品を撤去する決定は、公共の安全の問題であると主張。屋外展示作品と周囲のラグーンを囲むように構成された木製の作品は長年にわたり「修復不可能な」損傷を受けていたとも述べている。
美術館側はミスに提訴される数カ月前から、理事会と内部で修復費用の調達方法を検討していたというが目処が立たず、同年の秋、ミスに対して作品を保存できない理由として物理的および財政的な制約を説明していた。
同館のディレクターであるケリー・バウムによると、最終的に修復と維持に800万ドル(約12億5000万円)の費用がかかること、また将来的に、常勤スタッフを配置して管理する必要があることが判明し、理事会はこれらの費用を個人からの寄付で賄うことは不可能であると判断。バウムは2023年末にミスに宛てたメールで、美術館には「作品を修復・維持する資金は現在も将来もない」と伝えている。
こうして2024年5月初旬、アイオワ州裁判所の判事は美術館に対し、《Greenwood Pond: Double Site》の撤去を差し止める判決を下した。裁判所は、アーティストの同意なしに美術館が作品を解体する法的権限はないとしつつも、美術館は作品を元の状態に修復する財政的責任を負わないと裁定。これにより、アーティストと美術館の間に膠着状態が生じた。
修復だけにかかる費用は260万ドル(約4億円)と見積もられたが、バウムの法廷での証言によると、作品の解体費用は約35万ドル(約5500万円)。これにミスへの和解金90万ドルを足すと、本件にかかる美術館側の負担額は約130万ドル(約2億円)となる。
ミスは和解金の一部を、TCLFが新たに設立した危機的状況にあるサイトスペシフィックなアート作品の保全のための基金に寄付するという。
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