100ポンドで買った水彩画が20歳のターナーが描いた作品と判明。オークションでの落札価格に注目
30年前、イギリスのサフォーク州にあるジョージ王朝時代の邸宅で行われた遺品整理セールで100ポンド(現在の為替で約1万9000円)で買った水彩画が、ウィリアム・ターナー(1775-1851)の初期作だったという驚きの出来事をテレグラフ紙が報じた。
購入者は、礼拝堂が描かれたこの水彩画を気に入って、30年間ダイニングルームに飾っていた。作品の裏面に「W・ターナー」と刻まれているのは確認しており、「これはもしかしたらウィリアム・ターナーの作品かもしれない」と度々家族で話し合うことがあったという。
しかし2022年、この絵の題材となったペンブルックシャーにあるセント・デイヴィッズ大聖堂に旅行で訪れた際に、作者を明らかにしたいという思いが再燃。ターナーが1851年に亡くなった時にイギリスに遺贈された数千点の絵画やスケッチからなるテートのリストを調べることにした。その結果、ターナーが20歳だった1795年にサウス・ウェールズを旅行した際のスケッチブックに、セント・デイヴィッズ大聖堂の礼拝堂を描いたこの水彩画に似たデッサンを見つけた。
ターナーは15歳の若さでロイヤル・アカデミーに出品し、風景画や有名画家の模写で引っ張りだこだった。その時期、彼は建築の製図技師も務めていた。16歳になったころには、夏にスケッチ旅行でイギリス各地を巡り、時にはクライアントの要望でスケッチをタブローに仕上げることもあった。旅行に携えたスケッチブックは旅行記の役割も果たしており、1795年の夏、20歳のターナーはサマセットのウェルズを出発し、セント・デイヴィッズの手前にあるピクトン城を訪れ、スケッチブックにその記録を残している。ほかにも、ハヴァーフォードウェストから「往復36マイル」を旅し、「宿がなかった」ことを残念そうに綴っている。ターナーは、途中で良い宿がある場所を全て「×」で指定し、どこに泊まれるか分かるようにしていた。
水彩画の購入者は、地元ケンブリッジのオークション会社チェフィンズに作品を持ち込み、鑑定を依頼。テート・ブリテンのターナー・コレクションを扱うクロア・ギャラリーの初代キュレーター、アンドリュー・ウィルトンが担当した。彼は、この水彩画はターナーがウェールズから戻った後、ロンドンのアトリエでスケッチから描き起こされたものであることと、署名と位置のメモが彼自身の筆跡であることを確認し、この主題の水彩画としては唯一の完成品であると結論づけた。そしてウィルトンは、水彩画はターナーのパトロンか友人の依頼で描かれたものだと断定したが、サフォーク州の遺品整理セールに出されるまでの数百年間の経緯は謎のままだ。
この水彩画は3月20日、チェフィンズのオークションに出品される。後期のターナー作品は何百万ポンドの値が付くが、初期の風景画ということもあり、予想落札価格は2万ポンドから3万ポンド(約381万~570万円)だ。だが過去に、初期の作品でも1798年のケルナーヴォン城のような優れたものは50万ポンド(現在の為替で約9500万円)近くで落札されている。(翻訳:編集部)
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