プラド美術館、《サルバトール・ムンディ》はダ・ヴィンチ作品ではないと主張
アート・ニュースペーパーの報道によると、マドリードのプラド美術館で開かれているレオナルド・ダ・ヴィンチ展の図録で、《サルバトール・ムンディ》(1500年頃)はダ・ヴィンチ本人が一人で制作した作品とは考えられないとされている。
「Leonardo and the copy of the Mona Lisa. New approaches to the artist’s studio practices(レオナルドとモナ・リザの複製。工房の実践に関する新たな見方)」と題された展覧会は、2021年9月に始まった。展示は、このルネッサンスの巨匠による最も有名な絵画のプラド版複製を中心に構成されている。企画したのはプラド美術館保存修復部門の上級技術者、アナ・ゴンザレス・モゾだ。
プラド美術館の説明によると、この展覧会は「プラドが、ルーブル美術館、ソルボンヌ大学の分子考古学研究室、ロンドン・ナショナル・ギャラリーなどの国際的な機関と並行して、また共同で行った野心的な研究プロジェクトの成果」であり、「2012年と2019年にルーブル美術館で開催された展覧会の後、レオナルド研究にもたらされた新たな方向性と重要性に基づいている」という。
展覧会の図録では、レオナルドとその弟子たちによる作品が二つのグループに分けられている。一つは「レオナルドによるもの」、もう一つは「レオナルドの工房、またはレオナルドの許可・監修によるもの」だ。ゴンザレス・モゾは《サルバトール・ムンディ》を後者に分類している。
《サルバトール・ムンディ》は、2017年にクリスティーズ・ニューヨークのイブニングセールで4億5000万ドルという驚愕的な価格で落札され、オークション史上最高額の作品となって以来、度々話題になってきた。その後、買い手は誰なのか(サウジアラビアの王族が同国のムハンマド・ビン・サルマン皇太子の代理で購入したと報じられている)、どこにあるのか、いつ公開されるのか、そもそも公開の可能性はあるのかなど、作品をめぐる様々なうわさが世界中を駆け巡っている。2005年に再発見されてから現在に至るまでの経緯は、21年に米国で公開されたスリリングなドキュメンタリー映画「The Lost Leonardo(ザ・ロスト・レオナルド)」で描かれている。
アート・ニュースペーパーによると、ゴンザレス・モゾが焦点を当てているのは、かつての所有者フランシス・クックの名前から彼女が「クック・バージョン」と呼ぶ《サルバトール・ムンディ》が、実際にレオナルド作のオリジナルであるかどうかだ。彼女の主張ではオリジナルは失われており、この《サルバトール・ムンディ》はレオナルドの手による試作でもないという。その代わり、《サルバトール・ムンディ》の別バージョンのほうが、レオナルドのオリジナルにより近いと図録で書いている。その作品は、プラド版《モナ・リザ》の複製を制作したレオナルド工房の画家によるものだ。
レオナルド関連のニュースとして、1600年頃に制作された《モナ・リザ》の忠実な複製が、2021年11月初旬にパリのオークションハウス、アートキュリアル(Artcurial)で21万ユーロ(24万2634ドル)で落札されたことをロイター通信が報じている。この作品は最も高い予想落札価格だった20万ユーロをわずかに上回る価格で落札された。(翻訳:野澤朋代)
※本記事は、米国版ARTnewsに2021年11月11日に掲載されました。元記事はこちら。