メトロポリタン美術館が略奪美術品の調査と返還に本腰。来歴調査の専門チームを新設へ
メトロポリタン美術館で新たに設立された収蔵品の出所調査チームのトップとして白羽の矢が立てられたのは、サザビーズで作品の返還部門を率いていたルシアン・シモンズ。2024年5月からこのポジションに就く彼によって、収蔵作品が正しい経路で入手されているか否かが調査されると同時に、収蔵予定の作品の出所の調査も将来的に担う予定だ。
ニューヨークのメトロポリタン美術館は、サザビーズのバイス・チェアマンを務めるルシアン・シモンズを、新たに創設された出所調査部門の責任者に任命した。
シモンズは、サザビーズで作品の略奪文化財の返還と調査に1997年から取り組み、この問題を専門的に扱うチームを社内で立ち上げた経験を持つ。現在は返還部門の責任者を務めており、印象派・近代美術部門のシニア・スペシャリストでもある。シモンズは5月から新たな役職に着任する予定だ。
メトロポリタン美術館は現在、150万点に及ぶ収蔵品の出所の精査が求められている。今回この役職が新設された経緯には、2022年だけで6件の押収が行われ、マンハッタン地方検事局がギリシャ、イタリア、エジプトで制作された総額110万ドル(約1億6630万円)の古美術品が押収された背景がある。同検事局はまた、トルコの遺跡から不正に持ち出された2500万ドル(約37億8000万円)のローマ皇帝像も押収した。
メトロポリタン美術館のディレクター兼最高責任者を務めるマックス・ホレインはニューヨーク・タイムズに次のように語っている。
「私たちが必要とする高い調査力と、目的を達成するためにかかる時間をシモンズは十分に理解しています。膨大な数の作品を吟味し、精査しなければならないサザビーズで、彼はおそらく他の組織よりも多くの問題に対処する必要があったことでしょう。シモンズは理論的な知識が備わっている人物であると同時に、非常に実践的な姿勢も持っている人間だと考えています」
メトロポリタン美術館で彼は研究者のチームを率い、同館の顧問弁護士チームと、収集と管理を監督する副館長と連携を図ることとなる。
シモンズは同館の学芸員と協力し、所蔵品や将来的に収蔵される予定の作品の出所調査を実施する見通しだ。また、シモンズと学芸員たちは、その作品が文化財にあたるかどうか、あるいはナチスによって略奪された作品であるか否かを確認する。
過去にサザビーズは、ナチスが略奪した作品をはじめとする出所が疑わしいものをオークションに出品しようと試みたことで批判を浴びてきた。
メトロポリタン美術館のギリシャ・ローマ美術部門で出所調査に携わってきたマヤ・ムラトフは、シモンズの下でより大きな役割を担うことになる。同館はシモンズの就任とともに、アジア、ネイティブ・アメリカンの作品に特化したアメリカ大陸、そしてエジプトの美術部門を新たに設立しており、それぞれの部門は、カマール・アダムジー、ジェニファー・デイ、そしてマクサンス・ギャルデによって率いられるという。
新たに設立された出所調査の研究チームには、この分野を専門とする従業員の数が6人から11人に増える見通しだ。(翻訳:編集部)
from ARTnews