過去最高を記録! 文化芸術産業がアメリカ経済にもたらす価値は約166兆円
文化芸術産業がアメリカ経済に与える影響とはいかほどなものか。芸術文化生産サテライト勘定に基づく最新レポートによると、GDPの4.3%を占める約166兆円に上ることが明らかになった。
全米芸術基金(National Endowment for the Arts=NEA)とアメリカ合衆国経済分析局(Bureau of Economic Analysis=BEA)が共同で作成する芸術文化生産サテライト勘定(Arts and Culture Production Satellite Account=ACPSA/文化芸術が経済に与える影響を定量化してその重要性を評価するための統計的ツールで、政策立案や投資の決定に活用される)に基づき発表された最新のレポートによると、2022年のアメリカにおける文化芸術産業の経済活動は、2021年の1兆ドルから4.8%増となる1兆1000億ドル(約166兆円)に上ることがわかった。これは同じ期間のGDPの伸び率1.9%を大きく上回り、国内総生産(GDP)の4.3%を占めることになる。このレポートでは、文化芸術の生産に関わる営利企業と非営利団体の両方にわたる35の分野が調査対象となっている。
もちろん、全ての文化芸術の分野が等しく増加したわけではない。パフォーミングアーツや国立ではない美術館、芸術関連建設業を含む10の分野では依然としてパンデミック前の評価額を下回った。
それでも、文化芸術産業がポスト・コロナに目覚ましい経済回復を見せたことは事実であり、2019年から2022年のアメリカ全体の経済成長率が5.5%であるのに対し、文化芸術産業は13.6%となっている。
この成長を牽引しているのが、ウェブ出版およびストリーミング、放送、政府サービス、出版、映画および動画の分野だ。特にウェブ出版およびストリーミングサービスは、2019年から2021年にかけて40.9%もの大幅な成長を遂げた後、2022年には近年初めての減少となる1.4%減となった。
35分野のうち上記を含む25分野が2019年の記録を上回ったが、残りの10は後退。特に、建築用木工品・金属加工品製造、芸術関連の建設、劇場チケット代理店などの6の分野は、2019年から2022年にかけて経済価値が10%以上も減少した。
こうした格差が顕著になる一方で、見事なレジリエンスを示した分野も少なくない。独立系アーティスト、作家、パフォーマー、パフォーミングアーツ、エージェントやマネージャーは、2019年の付加価値水準を上回った。中でもパフォーミングアーツは劇的な復活を遂げ、2021年から2022年にかけて付加価値が76.5%と大幅増を記録したが、経済的貢献という観点で見ると、依然としてパンデミック以前を下回っている。
州ごとの統計では、2019年以降、どの州でも文化芸術産業による経済価値が増加している。2022年の報告書では、すべての州で芸術文化産業による経済成長が続いており、21州においては成長率が10%を超えたことが明らかになった。たとえばカリフォルニア州とニューヨーク州を比較すると、アートが州にもたらす経済価値はそれぞれ2903億ドル(約44兆円)と1511億ドル(約22兆円)となり、州の経済に占めるシェアはそれぞれ8%と7.4%となっている。
こうした成長に後押しされるように、文化芸術機関の雇用水準も上昇し、労働力は520万人に拡大。パンデミック以前のレベルにまで回復した。特に、コンピュータシステム設計、ウェブ出版とストリーミング、および独立系アーティスト、作家、パフォーマーで顕著な増加が見てとれた。しかし、全体としては成長傾向にあるものの、一部の分野はパンデミック前の水準に回復するのに苦労しており、調査対象となった35分野のうち15分野が依然として2019年の雇用水準を下回っていることもわかっている。
NEAのマリア・ロザリオ・ジャクソン会長は声明で、「最新レポートにより、文化芸術の分野の成長が一筋縄ではいかないことが明らかになった一方で、文化芸術がアメリカのGDPのかなりの部分を占め、国と州の経済に大きく貢献していることが改めて示された」と述べた。ジャクソン会長はまた、「経済的価値もさることながら、それ以外の様々な場面においても芸術と文化はアメリカ人の生活とコミュニティに大きな役割を果たしていることも忘れていはいけない」と強調している。