美術館やファッション企業の不用品をクリエイティブに利活用! NYの巨大施設をレポート

持続可能性向上のための試みが世界中で行われる中、50年近い歴史を持つニューヨークのクリエイティブ・リユース・センター、「マテリアル・フォー・ジ・アーツ」への注目が高まっている。規模拡大を続ける同センターを取材した。

マテリアル・フォー・ジ・アーツの倉庫で、持ち帰りたい不用品をカートに積み込む利用者。Photo: Anthony Sertel Dean

拡大を続けるリユース品の寄付と活用

ニューヨーク市最大のクリエイティブ・リユース・センター、マテリアル・フォー・ジ・アーツ(以下、MFTA)は、クイーンズ区のロングアイランドシティにある。およそ3300平方メートルの広大な倉庫は、まるで映画『チャーリーとチョコレート工場』のようだ。

中に入ると、クリスマスのオーナメントやピンク色のツリー、LUSHのロゴが印刷された石けんの箱などの不用品であふれていた(倉庫を訪れたのは新年だった)。長い通路の両脇には、紙や本、封筒、写真、色とりどりの布地、ボタン、ビーズ、縁飾りが所狭しと並び、病院の白衣、コンベンションセンターで使われていた家具、ヴィンテージのタイプライター、デスクトップ型パソコンやCD、ファイルフォルダーなどあらゆるものが(ほとんどがとても良い状態だ)、新しい用途のために活用されるのを待っている。それらの大量の品々はきちんと整理され、それぞれにラベルが貼り付けられている。

ニューヨーク市の文化局が運営するMFTAは、同市の企業や市民からリユース可能な物品を寄付してもらい、非営利団体や学校、市の機関に提供している。公立学校の生徒や教師、アート関連のNPOは、集められた素材を無料で利用できる仕組みだ。その結果、2023年には770トンもの不用品が埋め立てられる運命を免れてリユースされた。その量は、3年前の約4倍にも達する。

常に変化する都市ニューヨークには、物があふれている。と同時に、一部の市民は常に物が足りない状態にある。その中でMFTAは、過去50年近くにわたってそうした状況を改善し、資源の循環を促進するために活動してきた。現在も進化と拡大を続けるMFTAのエグゼクティブ・ディレクター、タラ・サンソンはこう語る。

「ニューヨークが成長すればするほど、MFTAのプログラムも進化しなければなりません。MFTAは、ニューヨークの本質に関わるミッションを担っているからです」

今年1月、MFTAはサウスウエスト航空とソニー・アメリカから5万ドル(直近の為替レートで約750万円)の助成金を得て、その理念をさらに広め、「ショッパー」と呼ばれるMFTAの利用者を増やすためのキャンペーンを開始した。プログラムには、アーティストやデザイナーのレジデンス、倉庫の見学、ボランティア、年間6000人以上の学生と1000人以上の教師を対象にした公開講座などがラインアップされている。また、これに合わせて著名デザイン会社ペンタグラムの協力でブランディングが一新され、タイムズスクエアの巨大スクリーンにイエローキャブを思わせる黄色の新しい企業イメージが投影された。

2月に発表されたMFTAの新たなブランドイメージ。MFTAの協賛企業であるカジュアルファッションブランド、アメリカン・イーグルが所有するタイムズスクエアの巨大スクリーンでお披露目された。Photo: Anna Droddy

MFTA設立のきっかけと拡大の理由

MFTAの活動の始まりは1978年にさかのぼる。きっかけは、当時ニューヨーク市の文化局に務めていた若手アーティスト、アンジェラ・フリーモントが、セントラルパーク動物園が動物用医薬品を保管する冷蔵庫を緊急に必要としていることを知り、地元のラジオ番組の協力を得て寄付を呼びかけたことだった。フリーモントは、瞬く間に多くのリスナーから申し出が集まった体験から、ある人には不用な物でも別の人にとってはそれが宝物になることを学ぶ。そして、その原則を幅広く実現できる組織の設立を思い立ったのだ。

タイムズスクエアでの新ブランディング発表会に出席したMFTA創設者、アンジェラ・フリーモント。Photo: Anna Droddy

そのときのことを、フリーモントは1981年のニューヨーク・タイムズ紙の記事でこう説明している。

「ニューヨーク全体から出る廃棄物の量に興味を持つようになりました。そして、アーティストがそれをリユースできることに気づいたのです。必要な素材を買う資金が不足しているアーティストは少なくありませんから」

MFTAの前身となる組織でフリーモントが初めて受け取った寄付は、メトロポリタン美術館で使われなくなった50個のガラス展示ケースだった。それ以来、同美術館はMFTAに寄付を続けているが、最近の例ではデジタル化によって不要になった大量のスライドなどがある。一方、不用品の利用については、公立学校や公的機関に加え、アート関連プログラムを少なくとも2年間行った実績があるニューヨークの非営利団体から申請を受け付け、審査を経た上で利用資格を与えるという方針を取ってきた。

MFTAの倉庫で常に在庫があるのは、紙類、椅子、ろうそくのほか、ファスナー・糸・ミシン・洋裁用ボディといったファッション業界の品々だが、時にはめずらしいものが寄付される。たとえば昨年、ブロードウェイで史上最長の上演記録を樹立したミュージカル『オペラ座の怪人』が閉幕した際は、舞台で使われていた衣装や小道具がMFTAに持ち込まれたという。取材当日にも、匿名の寄付者がイベント用に特注したという新品同様の長椅子20台が運び込まれていた。エグゼクティブ・ディレクターのサンソンは言う。

「特注された品物など、とても面白い物があります。何が来るか予想がつきません!」

サンソンはそうした品物を見るとすぐ、活用してくれそうなアート関連団体の候補を頭の中で思い描くという。

MFTAの倉庫で、衣類を探す利用者。Photo: Anthony Sertel Dean

MFTAは「ニューヨークのエネルギーが感じられる場所」

MFTAは2012年からアーティスト・レジデンス・プログラムを運営しており、これまでスイ・パーク、マイケル・ケリー・ウィリアムズ、ジーン・シンらが参加してきた。レジデンス・プログラムをさらに拡充し、スタジオを増やし、最先端の教育施設をセンター内に作りたいというサンソンは、こう断言する。

「受け入れる対象を増やせば、提供できることも増えるのです」

最近、倉庫の脇にあるスタジオでは、レジデンスアーティストのキム・ウーミンが、ここで見つけた布をコラージュして鮮やかなパネルを制作した(この作品は5月3日まで展示されている)。そのキムは、数カ月前に初めてMFTAの倉庫を訪れたときのことをこう振り返る。

「イケアの大きなショッピングバッグに夢中で布を詰め込みました。この倉庫にあるものを好きなように使って制作ができるなんて、ユートピアにいるようでした」

MFTAのアーティスト・イン・レジデンスに参加しているキム・ウーミン。MFTAのスタジオで制作中。Photo: Anthony Sertel Dean

キムは、絶えず不用品が持ち込まれ、そして持ち出されることで刻々と変化していくセンターの様子が、ニューヨークの暮らしのリズムに似ていると言う。数日間だけ倉庫に置かれていたメリーゴーラウンドにすっかり心を奪われたというキムにとって、その変化は、制作にもインスピレーションを与えているようだ。

「ニューヨークは物や人であふれていますが、ここでは実際に、物理的に、それを目にすることができます。この街では人々が常に消費し、物を捨てています。そういう意味で、MFTAはとてもニューヨーク的で、街のエネルギーを感じさせてくれる場所なのです」

MFTA内に構えられたキム・ウーミンのアトリエ。Photo: Anthony Sertel Dean

需要の高まりにどう応えるか

さて、現在MFTAの需要が高まっている背景の1つに、企業の持続可能性への意識が高まっていることがあるとサンソンは分析する。ラグジュアリーブランドの例を挙げると、コーチからは、それまで廃棄に回されていたレザーなどの原材料が、ケイト・スペードからはハンドバッグの寄付があった。バーバリーも、ウェストパームビーチの店舗にあった高さ2.4メートルの動物の彫刻を複数寄付した。それら彫刻の一部は今、スタテン島動物園で新しい人生を送っている

文化関連団体がまだコロナ禍の打撃から回復途上にあった2022年には、タップダンス、バレエなどさまざまなダンスシューズ1万1000足が一気に寄付された。そのときサンソンは「Great Dance Shoe Giveaway(グレート・ダンス・シュー・ギブアウェイ)」と名付けたキャンペーンを始動し、さまざまな年齢層のダンサーにリユース・センターに来てもらい、シューズを提供したという。「生徒のほとんどがダンスシューズを履いたことがないのでありがたい、と泣いている先生もいました」とサンソンは振り返る。

MFTAは最近、ニューヨークの映画・テレビ業界を巻き込み、撮影で使われたモノを専門に調達するスタッフを2人増員した。2019年以降にニューヨークで撮影されたドラマ、「マーベラス・ミセス・メイゼル」、「ゴシップガール」、「マーダーズ・イン・ビルディング」などで使われた衣装を含め、これまで450トンを超える資材がMFTAに運び込まれている。「メディア王〜華麗なる一族〜」で使われたスーツを持ち帰った利用者は、就職面接でそれを着たという。

MFTAの倉庫内部。Photo Jordana Vasquez

長年にわたり学校や芸術分野の非営利団体に寄付品の提供を続けてきたMFTAが、その活動範囲を拡大するきっかけになったのがコロナ禍だった。近隣住民のために布製のマスクを作っているグループ、地域の助け合いを行うグループ、社会正義を目的として活動しているグループなど、従来の利用団体以外も物資を必要としているという声を聞くようになり、その需要に応えたのだ。

「アーティスト、そしてより広範囲の人々を支援するため、ニューヨークの芸術と文化とは何か、それを再定義するところから始める必要がありました」

そう語るサンソンは、フェイスマスク用の生地を提供し、病院に家具を寄付し、抗議活動で活気づいた社会正義のグループにも支援の幅を広げた。

「クィア・ブラック・ライブズ・マターが寄付を求めているのなら、MFTAの倉庫にある衣装制作用の素材やバナー制作のためのビニールシートなどを提供するのは当然のことだと考えました」

その後MFTAは、利用できる団体の基準を緩和したほか、2年間の芸術プログラム実績という条件も緩め、現在実施しているプログラムを示せばよいことにした。

「LGBTQの小さな団体が公園でドラァグクイーンによる読み聞かせの活動をしていると聞いて、利用資格を与えないなんてことはできません」

利用者で賑わうMFTAの倉庫。Photo: Anthony Sertel Dean

「MFTAがあれば世界はより良い場所になる」

こうしてMFTAは、寄付された不用品をより広い目的で必要としている人々にも提供するようになった。現在はニューヨーク市の児童福祉局やホームレス保護局に衣類や物資を支給しているほか、市と提携している組織や地域団体と連携し、亡命希望でニューヨークに来たばかりの移民の支援も行っている。サンソンはその意義をこう語る。

「MFTAは市の組織ですから、私たちの活動は政治的であるべきではないことは重々承知しています。でも、広義には社会を変えるための活動を行うことがMFTAの使命。実際、日々みんなの生活に大きなインパクトを与えていることを実感しています」

廃棄物を活用したリユース・プログラムはアメリカの他の地域にもあるが、MFTAがユニークなのは、市の後ろ盾を得て大規模な活動を行っている点だ。他の自治体も50年目を迎えたMFTAに注目していることについて、サンソンはこう胸を張る。

「もしすべての主要都市にMFTAがあれば、世界はより良い場所になります。環境保護にもつながり、アーティストや学生のためにもなるでしょう」

これまでにはニューヨーク市から予算を削られることもあったが、文化局がMFTAのプログラムに誇りを持っていることから、将来に不安はないという。

「私たちはニューヨークの人々の幸せな暮らしと節約への貢献を目指し、必要なものが予算が足りないせいで買えないという状況を改善できるよう支援しています。今後もMFTAが廃止されることはないでしょう。万一、市が廃止を発表したら、市議会に抗議する人が殺到して大変な事態になるのは間違いありません」(翻訳:清水玲奈)

from ARTnews

あわせて読みたい

  • ARTnews
  • SOCIAL
  • 美術館やファッション企業の不用品をクリエイティブに利活用! NYの巨大施設をレポート