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相次ぐNFT窃盗に英国で新たな判決。盗難されたNFTの差し止めは可能?

4月下旬、英国高等法院は、NFTは財産とみなされ、NFT盗難被害者は裁判所の差止命令により盗まれた資産を凍結することができるという判決を下した。

オープンシーのロゴが表示された画面 Photo by Jakub Porzycki/NurPhoto via AP

同判決は、この数カ月に何度も発生したNFT窃盗事件を受けてのもの。巧妙なハッカーが、法の抜け穴やセキュリティーの脆弱性の隙を突いて、注目度の高いNFTを盗んでいる。4月25日には、今最も有名なNFTプロジェクトとされるBored Ape Yacht Club(ボアード・エイプ・ヨット・クラブ、略称BAYC)が大規模なハッキングに遭い、推定300万ドル相当のNFT資産が盗まれた。

NFT市場にはこれといった規制がなく、かつ分散型の仕組みであることから、これまで盗難被害者はほとんど救済されていない。しかし、少なくとも英国では、この状況が変わる可能性がある。3月にラビニア・デボラ・オズボーンが身元不明の人物およびオープンシーを運営するオゾン・ネットワークス(Ozone Networks Inc.)を提訴したおかげだ。

Women in Blockchain Talks(ウーマン・イン・ブロックチェーン・トークス)創設者のオズボーンは、成功した女性を描いた1万点のNFTシリーズ、「Boss Beauties(ボス・ビューティース)」コレクションから2点のNFTを盗まれている。この件に関する高等法院の判決書は、5月初旬に公布されることになっている。

これで被害者は、盗まれたNFTの所持が判明した暗号通貨ウォレットを持つ個人、および盗まれた資産を販売しているNFTプラットフォームに対する法廷の差止命令によって救済を受けられることになる。

この件に詳しいケイト・ジー弁護士はARTnewsに対し、差止命令は数時間で発行することができると説明する。ただし、正しい情報を持っていれば、という条件付きだ。

同弁護士はまた、「(被害者は)事件について、自分に有利なことも不利なことも全て裁判所に提示するという開示義務がある」と言う。「さらに、差止命令が出るのは法廷が審理を行ってからなので、ブロックチェーン上で資産がどこに移動したかを追跡することができる優秀なチームや専門家が必要になる」

この判決は、盗まれたとされる資産の捉え方について意見が割れているNFTの世界では批判を招くかもしれない。暗号資産のオピニオンリーダーの中には、「コードこそが法律である」というイデオロギーの信奉者もいる。その考え方は、所有権は資産を保有していることを証明できる者に帰属し、運営組織やNFTプラットフォームは所有権争いに干渉すべきではないというものだ。

2014年から暗号資産の世界に携わるソフトウェア開発者のローレン・ドーマンは、「今回の判決のような法的措置を広げていくのは、分散型システムの考え方に逆行するのではないか」と、ARTnewsに語っている。

そして、次のように続けた。「暗号資産に関わる人たちの間でも、法的措置の進展に対する考え方はさまざまだ。自分の資産をどう守るか学ぶのは自己責任だと言う人たちもいるし、NFTやWeb3の世界に新しく人が入ってきやすくするには、何らかの保護があったほうがいいと考える人もいる」

ドーマンが指摘するように、今回の判決の執行は、不可能ではないにしても、ブロックチェーンの分散的な性質によって難しいものになる可能性がある。

「盗んだ犯人に差止命令を送達できるのは、彼らの本当の身元が分かっている場合だけだ」とドーマンは言う。「それが分からないとプラットフォーム上の資産を凍結することはできても、個人売買や譲渡を防ぐことはできない」

また、窃盗に関与するハッカーは技術に精通しているので、この差止命令をかわすこともできるだろう。とはいえ、被害者が迅速に、彼らに気づかれないように行動すれば、差止命令は少なくとも救いのチャンスにはなる。(翻訳:平林まき)

※本記事は、米国版ARTnewsに2022年4月29日に掲載されました。元記事はこちら

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