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  • 2024.04.16

NFTの活路は「商品化」と「AI」? 2024年のNFT.NYCカンファレンスをレポート

暗号資産の急激なバブルとその後の暴落で、めっきり話題になることが減ったNFT。しかし最近はまた、ビットコインの相場が大きく上昇するなどの動きもある。そんな中で開催された今年のNFT.NYCカンファレンスを取材した。

NFT.NYCがタイムズスクエアの巨大看板に掲示したNFTアート作品を見に集まった人々(2022年6月21日撮影)。Photo: Alexi Rosenfeld/Getty Images

暗号資産冬の時代を経て

2018年に開催された第1回のNFT.NYCは、Web3界隈のオタクたちが集まり、コミュニティの固い結束を確かめあう同好会のようなイベントだった。それが瞬く間に拡大し、世界最大規模のWeb3カンファレンスとなった2021年のNFT.NYCには、1500人ものスピーカーが登壇。それまで縁のなかったアート、テック、金融分野の参加者が毎晩のようにパーティに集う巨大イベントへと成長した。

しかし、暗号資産は2022年になると冬の時代へ突入し、今年4月3日から5日まで開催されたNFT.NYCも、かつての熱気とは無縁だった。異業種間の交流は見られず、起業家たちはジェイコブ・ジャヴィッツ・コンベンションセンターへ、NFTアートの投資家たちはサイドイベントが行われる会場へと別れていった。

NFT.NYCの共同設立者であるジョディ・リッチは、オープニングスピーチで「投機熱は過去のものになった」と述べ、状況が一変したことを認めた。確かにその通りで、コンベンションセンターのホールは閑散として人影もまばら。どこを見ても活気が感じられない中で繰り返し語られたのは、目標をマーチャンダイジングに転換し、テック市場でNFTに代わるバブルとなったAIをNFTに取り込もうということだった。

しかし、なぜこれほど暗いムードなのだろう? この3月、ビットコインは史上最高値を更新し、初の7万ドル超えとなる7万3800ドル(約1100万円)を記録した。NFTの多くが利用しているイーサリアムも年明けから回復基調で、このところ3000~3900ドル(約45万〜58万円)で取引されている(イーサの史上最高値は、2021年のブーム時に達成された4721ドル、約70万円)。

暗号資産冬の時代が1年以上続いたのだから、この上昇に業界はもっと沸いてもいいはずだ。しかし、NFT価格の爆発的高騰にアート界が熱狂し、1000社ものスタートアップを生んだ2021年の状況には程遠い。基調講演を行った暗号資産投資会社コインファンド(CoinFund)のマネージングディレクター、デイヴィッド・パックマンも、NFTの取引高を示すスライドを示しながらこう発言した。

「前向きな意見を述べたいところだが、データに明るい傾向は見られない」

パックマンは、暗号通貨とNFT価格に連動性はあるものの通常2〜3カ月のタイムラグがあると論じたが、説得力に欠けると言わざるを得ない。また、NFT取引の大半が、かつて133億ドル(約2兆円)の評価額を誇った巨大プラットフォームのオープンシー(OpenSea)から、ブラー(Blur)へ移行していると指摘。パックマンの言葉を借りれば、ブラーは「欲得ずくのトレーダー」向けのツールを備えた手数料ゼロのマーケットプレイスだ。

パックマンはさらに、クリエイターのロイヤリティを廃止するという選択肢は「ありえないほど近視眼的」だと続けた。NFTが提供する最も価値ある機能の1つは、売買されるたびに作者にロイヤリティが支払われることだった。しかし2022年後半、一部のプラットフォームが取引の活性化を目論んでロイヤリティの支払いをやめたのをきっかけに、他のプラットフォームも追随し、パックマンが言うところの「どん底に向かう競争」になっていった。

携帯電話の画面に表示されたオープンシー上のボアード・エイプ・ヨット・クラブ(BAYC)コレクションと、コンピュータ画面に表示されたNFTのロゴ(2022年4月19日、ポーランドのクラクフで撮影されたイメージ写真)。Photo: Jakub Porzycki/NurPhoto via Getty Images

有望なのはマーチャンダイジングとAI関連分野

とはいえ、いいニュースがないわけではない。2月にボアード・エイプ・ヨット・クラブ(BAYC)を手がけるユガ・ラボ(Yuga Labs)と暗号資産ウォレットのマジック・エデン(Magic Eden)は、ロイヤリティ問題に取り組む新しいNFTプラットフォームを立ち上げた。後者の社名と同じMagic Edenと名付けられたこのプラットフォームは、クリエイターズ・アライアンス(Creator's Alliance)を設立。ロイヤリティを支払うマーケットプレイスだけをサポートするクリエイターズ・アライアンスには、ユガ・ラボ、RTFKT、パジー・ペンギンズ(Pudgy Penguins)、アズキ(Azuki)といったNFTのトッププロジェクトや企業が名を連ねる。ただ、これで問題が解決されるかどうかはまだわからない。

パックマンをはじめとする参加者によると、NFTで最も有望なのはマーチャンダイジングだという。昨秋、NFTコレクションのパジー・ペンギンズは、大手小売チェーンのウォルマートでNFTを基にした玩具の販売を開始。ウォルマートが提携の拡大に踏み切ったこの3月時点で、売り上げは1000万ドル(約15億円)を超えている。こうした流れを受け、今回のNFT.NYCでは、マーチャンダイジング、マテル社(バービーなどで知られる世界最大級の玩具メーカー)、スポーツファンなどをテーマとしたパネルディスカッションが目白押しだった。

パックマンによれば、もう1つの成長分野がAIだ。インターネットユーザーの作成した大量のデータやアート作品が、AIプラットフォームの深層学習に無断で使われることに触れながら、彼は「この中にオープンAI(OpenAI)から報酬を受け取った方はいますか?」と皮肉った。そのうえでパックマンは、全てのコンテンツをNFT化し、自分の制作したものがAIのトレーニングデータセットに使用されたときに配当を受け取れる仕組みを作ることが解決策になると主張していた。

アート界の関係者はというと、コンベンションセンターではなくサイドイベントのほうに集まっていた。たとえば、NFTプラットフォームのアートブロックス(Art Blocks)創業者エリック・カルデロンとジェネラティブアーティストのタイラー・ホッブズは、ミュージアム・オブ・ザ・ムービング・イメージとアートブロックスとの提携イベントに出席。また、最近設立されたNFTストレージ(NFT Storage)とIPFSコンソーシアムは、4日夜にMoMA PS1でトークイベントを開催したが、一連のトークセッションはNFTを保存するための技術構築とその実践に関する熱の入ったものだった。

そんなアート系イベントに参加したアーティストや企業関係者、開発者たちは、今年の静かな集まりを、落ち着いて集中できる雰囲気の中で楽しんでいるように見えた。最近配信を始めたデジタルアートのポッドキャスト、パークポッド(ParcPod)創設者のジョシュ・ヤコフに話を聞くと、こんな答えが返ってきた。

「今回のNFT.NYCはこれまでで一番良かったです。参加者は、インフラやアートなどの大きな課題について真剣に話し合っていました」

市場の波に一喜一憂するのは「時代遅れ」

目についたのは、NFT.NYCとMoMA PS1の男女比の差だ。MoMA PS1のトークイベントを支援したNFTストレージ、IPFS、ファイルコイン(FileCoin)、プロトコルラボ(Protocol Labs)といった企業や団体のリーダーが全員女性だった一方、NFT.NYCのメイン会場であるジャビッツ・コンベンションセンターでは、ほぼ20対1で男性が女性を大きく上回っていた。

そうした違いはあるにせよ、どちらの会場でも参加者の頭の中を占めていたのは将来のことだ。ジャビッツ・センターでは、NFTの新しい買い手を開拓する方法が話し合われ、アート主体のイベントでは、デジタルアートを保存し、さらに発展させるために必要とされる持続可能なエコシステムの構築について議論された。

一方で、ネットアーティストの先駆けであるオーリア・ハーヴェイのように、まったくスタンスの違う参加者もいた。ロウアー・イースト・サイドのギャラリー、ビットフォームズで行われている個展「The Unanswered Question(答えのない質問)」のオープニングで顔を合わせたハーヴェイは、デジタルアーティストに奇跡のような富をもたらした暗号資産の価格がまた上昇するかどうかなど全く気にしないという様子だった。ちなみに、ハーヴェイはミュージアム・オブ・ザ・ムービング・イメージでも7月7日まで個展を開催中だが、こちらもすばらしい内容なので見逃せない。

そのハーヴェイは、自分は作品のことだけに集中しているとしてこう語った。

「(2021年の強気相場で)いろいろな人が注目するようになりましたが、私は30年間変わらずこの分野で活動を続けています。制度的な支援が突然現れては消え、強気市場と言われたり弱気市場と言われたり、注目されるかどうかにも浮き沈みがあります。でも、周囲の状況に左右されること自体が、時代遅れと言えるでしょう」(翻訳:清水玲奈)

from ARTnews

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