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フリーズ・ニューヨーク2022 有名10ギャラリーのプレビューで売れた作品と価格帯を大公開

フリーズ・ニューヨークが5月18日朝のVIP向けオープニングを皮切りに開幕。会場は、昨年に続いてハドソンヤードのザ・シェッドだ。デイヴィッド・ツヴィルナー、ハウザー&ワース、ペースといったメガギャラリーによると、プレビューでは一流アーティストの作品が飛ぶように売れたという(ただし、売り上げ情報はギャラリーの自己申告によるもので検証は難しい)。

チャールズ・ゲインズ《Numbers and Trees: London Series 2, Tree #2, Compter Passage(数字と木:ロンドンシリーズ2、ツリー#2、コンテパッサージュ)》(2022) Courtesy Hauser & Wirth

オープニングには数多くのVIPが出席。コレクターのパメラ・ジョイナー、グレン・ファーマン、ハワード&シンディ・ラコフスキー、メラ&ドン・ルーベル、パトリツィア・サンドレット・レ・レバウデンゴ、ロンティ・エバース、マヤ・ホフマンといった面々が集まった。

キュレーターや美術館長では、スチュアート・カマー、マイケル・ゴーバン、テルマ・ゴールデン、マックス・ホライン、グレン・ローリー、ハンス・ウルリッヒ・オブリストが、アーティストではマリア・ベリオ、マーク・ブラッドフォード、マウリツィオ・カテラン、ヘンリー・テイラーなどが姿を見せている。

5月22日までの会期で開催されたフリーズ・ニューヨーク2022のプレビューデーでは、来月スイスで開催されるアートバーゼルほどの金額ではないにしろ、多くのギャラリーで50万〜100万ドルクラスの多様な作品が取引された。

以下、ギャラリーがプレビューデーに売り上げを報告したものの一部を紹介する。(アーティスト名/ギャラリー名の順に表記)


Georg Baselitz/Thaddaeus Ropac(ゲオルク・バゼリッツ/タデウス・ロパック)


ゲオルク・バゼリッツ《Do not disturb(起こさないでください)》(2021) Photo: Thaddaeus Ropac

タデウス・ロパックのブースでは、ゲオルク・バゼリッツ、スターテバント、アレックス・カッツ、ロバート・ロンゴ、トム・サックス、レイチェル・ジョーンズ、マンディ・エル=サイエグの作品を展示。黄色い骸骨2体が逆さまに描かれたバゼリッツの高さ約100センチの絵画《Do not disturb(起こさないでください)》(2021)は、120万ユーロ(130万ドル)で売れた。英国人アーティスト、レイチェル・ジョーンズが22年に制作した絵画は、米国の美術館が7万5000ポンドで購入。スターテバントの《Johns Target with Plaster Casts(石膏の型のあるジョーンズの標的)》(1999)は70万ユーロ(742万ドル)で、カッツ、ロンゴ、サックス、エル=サイエグによる22年制作の作品はそれぞれ70万ドル、55万ドル、25万ドル、55万ドルで売れている。


Charles Gaines/Hauser & Wirth(チャールズ・ゲインズ/ハウザー&ワース)


チャールズ・ゲインズ《Numbers and Trees: London Series 2, Tree #2, Compter Passage (数字と木:ロンドンシリーズ2、ツリー#2、コンテパッサージュ)》(2022)(部分) Photo: Courtesy Hauser & Wirth

ハウザー&ワースによるチャールズ・ゲインズのソロブースは、プレビューで完売になったという。ギャラリーの話によると、ゲインズの代表作「Numbers and Trees(数字と木)」シリーズの新作5点は各55万ドル。1点は米国の主要美術館が、残りは個人コレクターが購入した。ゲインズの作品は現在ディア・ビーコン(ニューヨーク)で長期展示されているほか、22年後半にはマンハッタンの南に浮かぶガバナーズ島で、アートNPOのクリエイティブ・タイムとの共同プロジェクトが予定されている。ブースでは、奴隷制度廃止運動家のフレデリック・ダグラスが1876年に行った演説の抜粋を楽譜にした版画《Notes on Social Justice: Freedman's Monument(社会的正義についての覚書:フリードマンのモニュメント)》の販売を通じてこのプロジェクトのための資金集めが行われ、70万ドルを達成した。


Carol Bove/David Zwirner(キャロル・ボヴェ/デイヴィッド・ツヴィルナー)


キャロル・ボヴェ《Spite Marriage(悪意の結婚)》(2022) Photo: Maris Hutchinson

デイヴィッド・ツヴィルナーのブースでは、展示された彫刻家キャロル・ボヴェの新作数点が完売。ステンレススチールの素材をひねったり、押しつぶしたりしてさまざまな形を作り、コーラルオレンジ色に塗った作品で、台座に置かれたものもあった。価格帯は20万ドルから60万ドル。


Latifa Echakhch/Pace Gallery(ラティファ・エシャック/ペース・ギャラリー)


ラティファ・エシャック《Night Time (As Seen by Sim Ouch) (diptyque)》(ナイトタイム〈シム・オウチが見たように〉〈二つ折り〉)》(2022) Photo: © Latifa Echakhch/Courtesy Pace Gallery

ペース・ギャラリーでは、モロッコ出身でスイス在住のアーティスト、ラティファ・エシャックの絵画2点が売れている。エシャックは、開催中の第59回ヴェネチア・ビエンナーレのスイス代表だ。2点はいずれも初日の開場から数時間のうちに買い手が付き、そのうち1点は欧州の美術館が購入した。価格帯は12万〜18万ユーロ(12万7000〜19万ドル)。


Pacita Abad/Tina Kim Gallery(パシタ・アバド/ティナ・キム・ギャラリー)


パシタ・アバド《Weeping woman(泣く女)》(1985) Photo: Courtesy Tina Kim Gallery

アジアの現代アーティストに特化したニューヨークのティナ・キム・ギャラリーは、フィリピン現代美術の先駆的存在で2004年に亡くなったアーティスト、パシタ・アバドの作品を展示。同ギャラリーは22年初めからアバド作品を扱っている。また23年には米国で大規模なアバドの回顧展が予定されている。今回展示されたのは、アバドが30年間の活動の中で、6つの大陸を旅して出会ったものをテーマに描いた作品だ。ブースでは、初日にアバドの作品2点がそれぞれ15万〜20万ドル、1万4000〜1万6000ドルの価格帯で売れている。ほかにも、ミヌーク・イム、スキ・ソギョン・カン、タニア・ペレス・コルドバ、パク・ソボ(朴栖甫)の作品が、1万4000〜15万ドルの価格帯で購入された。


Al Held/White Cube(アル・ヘルド/ホワイト・キューブ)


アル・ヘルド《Spata 8(スパタ8)》(1995) Photo: White Cube

ホワイト・キューブのブースで取引された高額作品は、ギュンター・フォルグ、ゲオルク・バゼリッツ、イサム・ノグチ、ダミアン・ハーストの絵画で、価格帯は65万〜375万ドル。また、ハードエッジ(*1)な抽象絵画で知られるアル・ヘルドの水彩画《Spata 8(スパタ8)》(1995)が8万ドルで、マルグリット・ユモーが紙に木炭と顔料で描いた新作が3万2000ポンド(4万ドル)で売れている。アル・ヘルドの作品は、今回初めて展示されたもの。

*1シャープな輪郭と平滑に塗られた色彩を用いる絵画


Mai-Thu Perret/David Kordansky Gallery(マイ=トゥ・ペレ/デビッド・コルダンスキー・ギャラリー)


デビッド・コルダンスキー・ギャラリーのブース Photo: Courtesy David Kordansky

ロサンゼルスのデビッド・コルダンスキー・ギャラリーは、ニューヨークのチェルシーに開いたばかりの新ギャラリーでローレン・ホールジーの個展を開催中だ(6月11日まで)。一方、フリーズ・ニューヨークでは、ジュネーブ在住のアーティスト、マイ=トゥ・ペレのソロブースを出展。ペレは、シュルレアリスムの影響を受けた彫刻や陶磁器の作品、パフォーマンスで知られ、家庭内にある物や空間を題材にしながらフェミニズムの問題を追求している。つややかな陶磁器作品2点は2万〜9万ドル、ドローイングは5000〜2万ドルの価格帯で売れている。


Joan Snyder/Franklin Parrasch Gallery(ジョーン・スナイダー/フランクリン・パラッシュ・ギャラリー)


ジョーン・スナイダー《Birth(誕生)》(1972) Photo: Maximilíano Durón/ARTnews

ニューヨークのフランクリン・パラッシュは、市内のギャラリーで個展を開催中(6月24日まで)の米国人アーティスト、ジョーン・スナイダーの作品をフリーズ・ニューヨークにも出品。スナイダーの抽象画《Birth(誕生)》(1972)は20万〜30万ドルの価格帯で売れている。ベージュの背景にオレンジ、赤、ピンク、紫、緑で描かれた作品は、わざと汚したような筆致が特徴的で、60年代後半にスナイダーが過去の抽象画を解体する方法として始めた画期的な「ストロークペインティング」シリーズの1点。


Cristina BanBan/Perrotin(クリスティーナ・バンバン/ペロタン)


クリスティーナ・バンバンの絵画 Photo: Guillaume Ziccarelli

ペロタンが展示したのは、クリスティーナ・バンバン、ダニエル・オーチャード、ニキ・マルーフの作品。3人とも同ギャラリー初登場の若手女性画家だ。ブースにはさらに、パオラ・ピヴィ、バーティ・カー、ダニエル・アーシャム、村上隆の立体作品も登場。ピヴィ、バンバン、アーシャムの作品は7万〜15万ドルの価格帯で売れ、ギャラリー全体としてはプレビューデーだけで300万ドルの売り上げを達成した。


Tracey Emin/Xavier Hufkens(トレイシー・エミン/グザヴィエ・ユフケンス)


トレイシー・エミン《Save Me(助けて)》(2018) Photo: HV - studio/Courtesy the artist and Xavier Hufkens, Brussels

ブリュッセルのギャラリー、グザヴィエ・ユフケンスでは、英国人アーティスト、トレイシー・エミンの絵画、ドローイング、ネオンアート作品、彫刻など10点が6万~40万ポンド(7万5000~50万ドル)の価格で購入された。エミンの《Upset(動揺)》と《Save Me(助けて)》などテキスト主体の作品のほか、ルイーズ・ブルジョワの小型ブロンズ彫刻は14万5000ドルで、トーマス・オウセアゴの作品が9万5000ドル、フーマ・ババの作品が2万8000〜6万ドルの価格帯で売れている。

この記事で詳しく取り上げた以外にも、多くのギャラリーで50万〜100万ドルクラスの作品が取引された。その一部を紹介する。

Marsha Pels/Lubov(マーシャ・ペルス/ルボフ)
Eamon Ore-Giron/James Cohan(イーモン・オレ=ヒロン/ジェームズ・コーハン)
McArthur Binion/Massimo de Carlo(マッカーサー・ビニオン/マッシモ・デ・カルロ)
Katherine Bernhardt/Canada(キャサリン・バーンハート/カナダ)
Minjung Kim/Gallery Hyundai(キム・ミンジョン/ギャラリー・ヒュンダイ)

(翻訳:清水玲奈)

※本記事は、米国版ARTnewsに2022年5月19日に掲載されました。元記事はこちら

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