米芸術大学の教職員が大学を集団提訴。「閉校の知らせを1週間前に発表するなんて言語道断」
150年以上の歴史を誇り、アーヴィング・ペンといった著名なアーティストを輩出したペンシルベニア州の私立芸術大学ユニバーシティー・オブ・ジ・アーツ(UArts)が6月7日を最後に突如として閉鎖された。こうしたなか、教授をはじめとする元従業員9名が大学側を集団提訴したという。
6月1日に突然の閉鎖を発表してから1週間も経たないうちに、ペンシルベニア州フィラデルフィアにある私立芸術大学ユニバーシティー・オブ・ジ・アーツ(UArts)は、教授や学部長を含む9名の従業員から集団提訴された。
元従業員らは、6月4日に訴状をフィラデルフィア市内の連邦裁判所に提出しており、従業員100人以上の企業が大量解雇を行う際に60日前の通知を義務づける法律、米連邦労働者調整・再訓練予告法(WARN法)に触れているとしてUArtsを訴えた。原告側はまた、ペンシルベニア州賃金支払い徴収法に違反していると主張し、大学幹部が労働時間と未使用の休暇に対する賃金を源泉徴収したことを非難している。
UArtsの教授が所属する組合、ユナイテッド・アカデミックス・オブ・フィラデルフィアは、「思いやりのかけらもない」と同校の上層部を非難しており、働いた時間分の賃金を支払い、退職金を支給するよう理事会に対して要求している。また、原告側の弁護士を務めるエリック・レヒツィンは地域専門誌フィラデルフィア・マガジンの取材に対して次のように答えた。
「今回の訴訟によって、大学側の上層部がまったく機能していないことが明らかになりました。何の警告もなしに、閉鎖の知らせを1週間前に発表することは到底理解できません。他校の終身在職権を辞してUArtsの教職員になったものの、新たな職に就いてからほどなくして職場がなくなることを知ったという人もいたようです」
また、ニューヨーク・タイムズによると、閉鎖に至った経緯や「資産の損失や移動の有無」の調査がペンシルベニア州地方検事局と州会議員によって実施されることが、開校最終日の6月7日に発表されたという。今回の調査に対してペンシルベニア州議会上院議員のニキル・サバルは次のような声明を発表した。
「私たちは公聴会を開催し、州議会の委員会でどのような広範な調査権限を行使して調査できるかを検討しています。ごくわずかな援助しかないなかで素晴らしい発展を遂げてきたフィラデルフィアのアートシーンがいかに脆弱であるか、今回の調査によって気づかされる人は少なくないでしょう」
フィラデルフィア市議会は、閉鎖に関する公聴会を開くことを6月6日に決議している。
6月1日に発表された閉鎖の知らせには、地域の大学の認定機関である中部州高等教育委員会(MSCHE)の大学認定が取り消されたと記されており、新年度の授業は行われないことが公表された。また、その数日後には、UArtsの理事長を務めるケリー・ウォークが辞任している。
UArtsは、テンプル大学やドレクセル大学、ムーア・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザインといった州内にある他の大学への「道しるべ」を提供することを保証している。
また、6月2日にはUArtsが6月7日をもって閉鎖することが、理事会によって承認されたことを同校は発表。UArtsは入学希望者数の減少と財政難を理由に閉鎖すると発表したうえで、声明には次のように記されている。
「キャッシュポジションが着実に低くなり、予期せぬ多額の出費をまかなうことができませんでした。自体が明るみに出たのは、突然のことでした」
UArtsは財務状況の詳細は明らかにしていない。だが、閉鎖を巡る問題を解決するには少なくとも4000万ドル(約62億8600万円)が必要だと、大学の運営担当者は地域の日刊紙のフィラデルフィア・インクワイアラーに語っている。
この発表に対する反発は瞬く間に広まり、週末には教員や学生たちがソーシャルメディア上で驚きをあらわにした。在校生とされるユーザーがネット掲示板Redditに投稿した内容によると、閉鎖が公表される直前に授業料の請求書が送られてきたという。
一方、地元メディアの報道によれば、テンプル大学はUArtsとの合併の可能性を含め援助の道を探っているようだ。
「臨機応変に対応する必要があると思います」と、テンプル大学の広報担当者は語る。「私たちは、あらゆる選択肢と可能な解決策を模索し、地域の芸術を支え、150年という豊かな歴史をもつ芸術大学を守るために、UArts側と前向きな対話を続けたいと考えています」(翻訳:編集部)
from ARTnews