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組織的な贋作製造の実態が明らかに。「カナダ最大の美術品詐欺」の首謀者が手口を供述

先住民族にルーツを持つカナダの現代アーティスト、ノルヴァル・モリソー(1932-2007)の贋作が1500点以上も流通していることが発覚し、カナダが大騒ぎになっている。そんな中、6月6日に中心人物が供述を始め、組織的な贋作製造の実態が明らかになった。

制作中のノルヴァル・モリソー。1977年撮影。Photo: Graham Bezant/Toronto StarVia Getty Images

カナダ先住民であるアニシナアベ族の一派、オジブウェーに属する画家、ノルヴァル・モリソーは、先住民によるアートをカナダの現代アートとして初めて世に認めさせた人物だ。モリソーは、2006年にカナダ・ナショナル・ギャラリーで先住民として初めて回顧展を開催した。多作なことで知られるモリソーは、カナダの美術学校、Woodlands Schoolの創設にも尽力。晩年はパーキンソン病に悩まされ、2007年に75歳で死去した。

モリソーの生前から、彼の名前を騙ったアート作品が流通しているという疑惑があった。贋作が明るみに出たのは2010年。カナダを拠点に活動するロックバンド、Barenaked Ladiesのキーボード、ケビン・ハーンが2005年にヨークビルにあるMaslak-Mcleod Galleryで2万カナダドル(現在の為替で約228万円)で購入したモリソーの絵画をArt Gallery of Ontarioに貸し出した時、当時のキュレーターに贋作だと指摘されたことが始まりだった。

当局による捜査は2年半に及び、これまでに1500点以上の贋作を確認し、そのうち500点近くを押収したという。2023年3月、カナダのサンダーベイ警察とオンタリオ州警察の捜査当局は、製造に関与した8人を40におよぶ容疑で起訴したと発表した。その後、2024年6月6日、そのうちの1人であるデイヴィッド・ヴォスが、1996年から2019年にかけてサンダーベイで贋作を製造する組織を運営したとして、偽造と偽造文書作成の罪を認めた。陳述によるとヴォスはモリソーの贋作数千点の製造を監督していたというが、「モリソーに会ったことも、作品を入手したこともなかった」という。CBCニュースによると、ヴォスは複数の画家を雇い、自ら開発した「ペイント・バイ・ナンバー」という手法で贋作を作らせていたと明かした。

これは、「モリソーの独特のスタイルを模写し、それぞれのセクションに理想的な色をアルファベットで指示する」というもので、色の指示は、例えば「G」は緑、「B」は青、「LR」は薄紅といった具合だ。ヴォスはこれらのアルファベットを記入した支持体を画家に渡し、指示通りの色を塗らせた。その後、カナダの先住民に広く使われる言語であるクリー語でモリソーのサインを入れた。贋作は1970年代の作品まで遡って製造され、古い作品の場合はエイジング加工を施していたという。

この「ペイント・バイ・ナンバー」は捜査に大きく役立った。モリソーの作品を当局がカナダ保存修復研究所の法医学分析官に依頼し、デジタル赤外線写真を撮ったところ、偽物と疑われる作品には、絵の具の下に黒鉛鉛筆で記された文字コードが現れたという。それにより、30作品のうち26作品を特定することが出来た。

モリソーの贋作はカナダのオークションハウスや販売業者に売られたが、大半はオンタリオ州の小さな町ポートホープにある、ランディ・ポッターが運営する2つのオークションハウスで競られた。法廷調書によれば、ヴォスはそれぞれに1500から2000点の作品を販売し、ポッターには売り上げの30%を還元していたという。ポッターは2018年に死去しているが、生前に行われた民事裁判で彼は、贋作は通常オークションで1200カナダドルから7000カナダドル(現在の為替で約12万~79万8000円)で落札されたが、中には3万カナダドル(同・約342万円)になったものもあったと証言した。

ヴォスの組織によって作られたモリソーの贋作は膨大なため、当局は「カナダ最大の美術品詐欺捜査」と呼ぶほどだった。この事件は、Barenaked Ladiesのケヴィン・ハーンをはじめとする被害者たちが出演したドキュメンタリー『There are No Fakes』も制作された。

グローブ・アンド・メール紙の報道によると、オンタリオ州議会と首都委員会が所蔵するモリソー作品《Salmon Life Giving Spawn》《Circle of Four》の2点も贋作と明らかになった。ヴォスの判決は2024年9月に下される予定だ。(翻訳:編集部)

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