ARTnewsJAPAN

韓国・ソウルの新アートフェア「ART OnO」がもうすぐ開幕! 目指す役割と価値をファウンダーに聞く

4月18日(VIPデー)から21日まで、韓国・ソウルでアートフェア「ART OnO」が初開催される。ファウンダーは、US版ARTnewsの「アート界が注目するアジアの若手コレクター」にも選ばれた起業家のノ・ジェミョン。彼があえて今、新しいアートフェアを立ち上げた理由を訊いた。

ART OnOファウンダーのノ・ジェミョン。Photo: Courtesy the collector

US版ARTnewsの2023年版「TOP 200 COLLECTORS」特集号で、「アート界が注目するアジアの若手コレクター」に妻のパク・ソヒョンとともに選ばれたノ・ジェミョンは、その時のインタビューでコレクターとしての使命をこう答えている。

「まだ評価が確立されていない若いアーティストを信頼して支援することこそ、若いコレクターが果たすべき役割だと思います」

学生時代を過ごしたアメリカでアートコレクションをスタートしたノ・ジェミョンは、欧米の著名なギャラリーやアートフェアで作品を購入することが多かったというが、韓国に帰国した2019年以後、次第に地元のアートシーンに深くコミットしていくようになる。

彼のような若いコレクターが育ちつつある市場への高い期待から、韓国・ソウルでは2021年のペース・ギャラリーを皮切りに、ペロタン、グラッドストーン、リーマン・モーピン、タデウス・ロパックといった有力ギャラリーが続々と拠点をオープンし、2022年にはフリーズも進出。明らかに活況を呈している一方で、これまで世界中のアートフェアを訪れ、著名コレクターらが集うトップクオリティのイベントに参加してきた自身の経験から、ノ・ジェミョンは、今のマーケットにはニッチかもしれないが鋭い感性を持つ国内外の若いギャラリーやアーティスト、コレクターが繋がることのできる機会が十分ではないという課題意識を抱くようになる。

ならば自分が変化を起こしてみよう──そんな気概とともに、現在33歳のジェミョンが立ち上げたのが、4月19日から21日まで韓国・ソウルのSETEC(Seoul Trade Exhibition & Convention)で開催されるアートフェア、ART OnOだ。

「Art One & Only」をスローガンに掲げる同フェアが提示する新しい価値やコミュニティのあり方について、ジェミョンに話を訊いた。

「自分が変化を望むなら、やってみるべき」

Photo: Courtesy the collector

──アジアはアートの激戦区になりつつあります。東アジアだけ見てみても、アートバーゼル香港、台北當代やART TAIPEI、フリーズ・ソウルにキアフ、そして日本にはアートウィーク東京や東京現代など、ここ数年で大きく増えました。そんな地域であえてインディペンデントなアートフェアを立ち上げた理由を教えてください。

私は高校から大学、大学院までアメリカで過ごしました。高校時代からシルクプリントやフィギュアなどを集め始め、現地のギャラリーで欧米のアーティストの作品を購入するようになりました。そうして世界中のアートフェアに行くようになったのですが、2019年に韓国に帰国すると、より地元のアートシーンやアーティストに目を向けるようになりました。そして次第に、こうした大規模なフェアに出展するのはいつもほぼ同じメンツ、つまり大半が欧米の有力ギャラリーで、ローカルのギャラリーが少ないことに違和感を覚え始めました。自分自身、それまであまり意識していなかったのですが、同じアジア人として、アジアの新進気鋭のギャラリーや作家を全力で支援したい、独自のコンセプトやアイデア、メディウムに挑戦しているアーティストを応援したいと考えるようになったんです。

同時に、新しいコレクター獲得に苦戦している西側諸国のメガギャラリーや優良ギャラリーがアジアマーケットに高い関心を持っていることは明らかでした。アジアには、非常に豊かで長いアートの歴史があります。しかし、こと現代アートに関しては欧米のそれよりも成熟しているとは言えません。

そんな背景もあって、自分が変化を望むなら、少なくともやってみるべきだと思いました。そうして2年ほど前から、ART OnOの構想を練り始めたんです。私は今、33歳。若いアートコレクターが主催するアートフェアというのも珍しいですが、だから余計に注目してもらえるというメリットもあります。

──ART OnOを構想する上で、参考にしたものはありますか?

強いていうなら、初期のインディペンデント・ニューヨークでしょうか。当時彼らは本当に面白いギャラリーやアーティストを集めていて、とてもカオティックで刺激的でした。ただ、私自身はもっとオーガナイズされたものが好きなので(笑)、あまりに混沌としすぎないけれど整理もされすぎていないというものを目指しています。

世界には、ガゴシアン、ペース、ハウザー&ワースといったメガギャラリーだけでなく、本当にたくさんのギャラリーがあります。そういう多様さを、韓国の人々だけでなくアジア全体のオーディエンスに体験してもらいたい。面白いアイデアを提示していて、かつ、買いやすい価格のアーティストはたくさんいますから。

だからこそ、私はART OnOに参加してくれるギャラリーには、何か違うものを持って来てほしいと口酸っぱく言ってきました。そうでないと、他のフェアとの違いを感じてもらえません。とはいえ、新奇性だけでも戦えない。質の高いフレッシュな作品がたくさん集まる、多様な表現に触れることのできるアートフェア。目指すのは、そこですね。

──コレクターという意味ではどうでしょうか。アジアの若いコレクターの傾向として、まさにあなたがそうだと思いますが、単なる投資的な動機ではなく、より文化的な営み、自己表現の一つとしてのアートコレクションに興味を持つ人は増えていると感じますか?

コレクターだけでなくより多くのアジアの人々が、これまで以上にアートに興味を持っているし注目していると感じます。彼らはアートについてもっと学びたいと思っているし、アートを買いたいという欲求も高まっている。そして、アート作品の中には100万ドルを超えるようなものばかりではなく、もっと手頃な値段で自分の住空間に飾ることのできる作品があることも知っているんです。

ここ韓国でも、新型コロナウイルスのパンデミック中に美術品を集め始めた若い世代は多かったと思いますが、彼らは投資目的というよりも、アートをコレクションすること=文化として捉えている。昔は、美術品を収集するのは特権階級の人たちやスーパーリッチだけのものだと思われていましたが、韓国の今の若い世代にとってアートコレクションは、もっとパーソナルなものなんです。

──今、韓国の文化は世界中で大変な人気を誇っています。そうした状況が、韓国のアートシーンの発展にも寄与しているという実感はありますか?

おっしゃるように今、韓国の音楽、ドラマ、食べ物といったあらゆる韓国文化が人気を集めています。それが、世界のアートコレクターを韓国に向かわせる一つの要因になることも確かだと思います。彼らはアートを見るため買うためだけにソウルに来ているわけじゃなく、ただ街を散策したり文化に触れたり、ショッピングをして楽しむためにも訪れる。世界的なK-POPブームから韓国のアート業界が得る恩恵は計り知れないと思います。

──一方で、アートフェアが開催地にもたらす価値という意味では、どう考えていらっしゃいますか?

例えばアート・バーゼルは、近年大きくなりすぎてつまらないと感じている人も多いと思いますし、私もそれに異論はありません。しかし、私は今もアート・バーゼルが大好きなんです。彼らはこれまでずっと、非常に質の高いプログラムを提供してきましたし、開催地とともに成長しようという姿勢がありました。フリーズ・ソウルのおかげで、この街は海外からも注目されていますが、私はどうしてもフリーズが地元のコミュニティとともに成長することを願っているという実感を得られていないんです。

私が初めてアート・バーゼル・マイアミ・ビーチを訪れたのは、確か2009年か2010年だったと記憶しています。当時、マイアミは決して今のような洗練された場所ではありませんでした。でも、いまやマイアミは多くの人たちの目的地になった。それが全てアート・バーゼルの功績であるとは言えないまでも、彼らの地元への貢献は計り知れません。それは事実です。

一方で、我々のような小さな団体がバーゼルを真似たところで、彼らのダウングレード版にしかならないことは明らかです。では、私たちが提供できる価値とは何か。地元のコレクターやインスティテューション、ギャラリーが私たちと組むことで、どんなメリットを得ることができるのか。それを考え抜いた結果、とにかく何か違うもの、独立系にしかできないユニークで質の高いフェアを開催しなければという結論に行き着いたんです。

私は何か違うものが欲しい。似たようなものはいらない。フェアに参加するギャラリーが提案してくれたアーティストに新鮮味がないと感じれば、たとえ著名なアーティストであってもギャラリーと交渉して別のアーティストを提案してもらいます。そうでなければ、このフェアを開催する意味がないからです。

「楽しくなければ、どんな有名なフェアでも人は離れていく」

──あなたが量より質と言うとき、それを維持するための最も貴重で重要な基準は何でしょうか。

高いクオリティとは何かを定義付けるのは、確かに非常に難しいですよね。でも、ART OnOについて言えば、たとえ主流からは随分と外れた奇妙で不器用なものであったとしても、それぞれに異なる個性を持ったギャラリーに参加してもらうことが重要だと感じています。ほかにはないコミュニティを育んでいくことが我々が最も大切にしたいことだからです。

──参加ギャラリー数はどのくらいですか? 

出展数では40ほどと少ないですが、ギャラリーだけでなく、美術館や財団のブースもあります。全体の約60%が海外からの参加ですが、多くが韓国初進出。そして残り40%がローカルです。当初から、参加ギャラリーの数よりも質にこだわってきました。新進気鋭のギャラリーが参加しやすいよう、出展料もかなり下げました。

世界的なアートフェアでも、若手や新進気鋭のセクターがあるのが一般的になっています。そうすることで、フェア全体のイメージをフレッシュに保てると考えているからでしょう。でも、残念ながらそれで恩恵を受けるのは結局は大手ギャラリーなんです。

──では、ギャラリーにとってこのフェアに参加する最大のメリットは何でしょうか。 

ギャラリーがアートフェアに参加する目的は、必ずしも売上だけではありません。例えば海外の若手ギャラリーであれば、ローカルのコレクターやギャラリーと関係を築いたり繋がることで、コラボレーションの機会を得ることができるかもしれませんし、所属作家をローカルの機関にアピールすることも重要な参加理由になります。だから私は、単なるアートフェアではなく、国内外の気鋭のギャラリーやアーティスト、コレクター、韓国の美術機関といったプレイヤーが集まり、売上だけではない利益を得られるようなコミュニティ形成のプラットフォームを作りたかったんです。

ART OnOでは、韓国だけでなく他の国からも美術館や財団の理事たちによる委員会をつくり、委員がキュレーションを務める特別展や、様々なプレイヤーが交わることのできる多数のトークプログラムを準備しています。

また、コレクターの多くは圧倒的に絵画を好みますし、その理由も理解できます。でも、一口にアートといっても絵画、彫刻、インスタレーション、サウンドアート、写真、パフォーマンスなど、本当に多様な表現があります。それをより多くの人々に知ってほしいという思いから、今回は、メディア・アーティストによるグループ展を会場の真ん中のかなり大きなスペースを使って開催します。とにかくフェアにきて、多種多様なアートを見てワクワクしてもらいたいんです。

──アートフェアをより文化的で、より楽しい体験の場に変えたいというART OnOの態度が伝わってきます。

海外から来てくれるコレクターの中には、著名なVIPも含まれます。彼らはすでに、贅を尽くした最高級の体験を味わい尽くしている。ソウルはドバイではありませんから、同じような価値は提供できませんし、そんな予算もありません。第一、それは私たちのスタイルではない。だから我々は、VIP向けのディナーを高級レストランではなく地元の焼肉屋で開催することにしました。アートフェア然としたやり方ではなく、自分たちらしい、よりクールで楽しい環境を作ること。それが、ギャラリーやコレクター、あるいはアートファンなど、参加してくれる全ての人に対して提供したい価値なんです。

──最後に、フェアの成功をあなたはどんなふうに評価しますか?

成功には複数の条件が必要です。まずは続けること。そして、既存のフェアと比較するのではなく唯一無二の存在であること。もちろん、長く続けていくためには利益も必要ですが、我々にとって、ユニークであることが非常に大事な価値なんです。

コレクターとして数多のフェアに参加して気づいたのですが、どんなラグジュアリーな待遇を提供されても、やはりフェアが楽しくなければ人は離れていく。そうならないためにも、私はART OnOを単なるアートフェアではなくアートウィークにしたいと考えているんです。これを機に、地元のギャラリーや美術館をディスカバーしてほしいし、アーティストのスタジオ見学やプライベート・コレクションの展示なども行われるので、それらを全部楽しんだあとで、街を離れる前にもう一回フェアに来てもらえたら、そんな嬉しいことはありません。

あわせて読みたい